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魔女の領主さま! 悪魔召喚されたけど、オレはただの人間です! 〜魔女と悪魔の異世界領地経営〜  作者: ふろんちあ
第九章 蒸気の時代

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魔導煮沸装置

「よし、これで完成としよう」


「おめでとうございます、長」


 とうとう魔導蒸気機関の元となる、煮沸装置が完成した。


 形は大型の寸胴鍋に、樫の木を突っ込むためのスポットを用意したもの。穴に樫の木を差し込み、ボイルを行う。


 こうすることで先端に限らず、金属部全体に熱が通る。樫の木が熱くなれば次の樫の木に交換できるし人員の交代も簡単だ。


 そして、この煮沸装置によって、ビート・シュガーの煮詰め作業が劇的に改善する。燃料なし、黒煙なし、火を使わないから暑さも緩和される。


 さらに、この触媒が撹拌作業までできることがわかった。風の力だ。遊びに来たウィリアムが『ボクにもやらせて!』と棒に魔力を注ぎ込んだところ、風の力が混ざって、水が回転しだしたのだ。


「放熱だけにするつもりが、水の魔素に引っ張られて風まで送っちゃった。ゴメンね」


「いや、これはすごいぞ。ウィリアム、是非ここで働いてくれ!」


「え、ヤダよ。熱いし」


「残念」


これと同じもので洗濯層を作れば、風使いは洗濯機になれるだろう。彼らなら乾燥もお手の物だ。やるかどうか別として。


 一応この煮沸装置は秘匿の鍵を申請しておいた。当然、煮沸魔法との連結依頼もしている。


 そして不人気だったこのビート・シュガー製造加工場が、今では大人気な井戸端会議所になっている。なんせ温い。


 洗濯帰り、水汲み帰り、仕事帰りに女衆が立ち寄り、働きながら暖をとって帰る。自分達の仕事を楽にし、薪を温存し、暖めてくれる鉄火組を労いながら。


 この工程を行うためには魔法水が必要不可欠なので、ビィやリリ、屋敷のメイド達も水の施しを行いに来る。そんな事が続いていると、いよいよ男女の仲ができ始めた。


「ねぇローディー、ご飯作ったげるから、よかったら今夜ゆっくり話をしない?」


「少し、待て。……長、彼女はなんと?」


「……この国の夜の誘いだ。一人寝は寒いからな、温めてやれ」


「わかりました……長の許可、出た。行く」


「「キャー!」」


 女衆が笑いながら、鉄火組の若者と女衆の若手を見送った。一度仲が深まると、展開が早い。


 まぁエセルの感覚的には、子供ができるまでが良い仲で、できたら夫婦だしな。男女関係は数少ない娯楽でもある。


「ディンギル、リリとの仲はどうだ?」


「先日、市場への買い物に呼ばれました」


「どうだった?」


「帰りに、手が冷えたので温めてほしいと」


「いいじゃないか……」


 若い恋仲の進展に思わずニヤニヤしてしまう。良くない良くない。オレはまだおじさんではない。


「……長、俺達は本当にこの国で暮らしたい。フロストランドは強い。あの戦いで戦士達はほとんど死んだ。トールハンマーも、銃も、火の薬も、もっと投入されるだろう」


「……そうだろうな。それだけ技術があればもう、戦うのは戦士でなくていい。例え女子供でも、騎士を倒せるだろう」


「俺達は戦士だ。戦って、ハイランドを守りたい」


「……どうすればいいと思う?」


「奴らの戦士が不足している今、山を越え、あちらの山脈拠点を破壊するべきだ」


 過激……だが正論。距離が遠くなっただけで、拠点があれば同じ事。ノース山脈を探せば、どこかしらで硫黄も取れるだろう。


「それは……あまりしたくないな」


「今のまま、均衡を保てるだろうか?」


「わからん……だが、それをするのは今じゃないし、オレたちでもない。ハイランドはただこの高台から見える領地で、健やかに暮らしたいだけだ」


「……長とハイランドの御心のままに」


 ――


 鉄火村が形になりはじめ、採掘事業が始まった。と言ってもオレはそこまで手がまわらないからビィと一緒にエルゥの話を聞くだけだ。


「採掘権は維持されているが、硫黄の採掘は禁止されている。金属と石材、石炭を採掘する」


「事故らないようにな。必要に応じてウィリアムから風力トロッコや滑車も頼もう。あと、ハイル川にあまり廃棄物を流さないようにしてくれ」


「……なぜだ? 下流まで十分距離はあるだろう」


「多少は問題なくても、長年使うと金属の有害成分が蓄積して川を汚染する。汚染された川は土や作物も汚染していく」


「廃鉱山の周辺は人が暮らせなくなるって、聞いたことがあるわ」


「ビィの言う通りだ。鉱山の毒はゆっくり人と土地を蝕む。最初は仕方ないが、治水して処理用の水辺をつくるか、別の水源を探してくれ」


「やれやれ……鉱山の開拓とは難しいものだな」


「まぁ鉄火組はその辺りも分かってるだろう。過不足なく伝えるのは難しいだろうが、ガディルと一緒に頑張ってくれ」


「お前もたまには様子を見に来い。最近は女衆とばかり仕事してるそうじゃないか」


「冬は洗濯が一番重労働だからな。いまは井戸をポンプ式に替えてるとこだ」


「なんだそれは?」


「屋敷の井戸は今ポンプ式よ。楽しいからエルゥもやってみて!」


 ――ガションガション


「おお! 水が勝手に出てくる! これは便利だな」


「聖都では普通に使ってたらしいぞ。もっと早く導入すれば良かったな」


「そうか……こんな風に水が汲めるから、聖都はあれほど水が豊かだったのか」


「そういやエルゥは聖都に行ったことあるんだよな。どんなとこなんだ?」


「火の王が君臨し、水の姫が統治する石畳と水の都だな。王宮から流れる水が街中を巡り、各所で水車が回る美しい都だ。中央には教会の大聖堂もある」


「そりゃすごそうだ。風は何してんの?」


「風の一族は統治に興味がない。商売だの、冒険だの、開発だの、とにかく新しいことが好きなんだ」


「エルゥはあんまりそんな感じしないな」


「私は幼い時から、心に風が吹いていたからな」


「心に風?」


「高いところから吹き付ける冷たい風だ。私はずっとその風を探していた」


「よくわからんが、それで北のハイランドに来たのか」


「そうだ。そしてハイランドの高台に登った時、確信した」


 エルゥはポンプから湧き出る水を頭から被り、髪を振って言った。


「ここが私の眠るべき墓標だとな」

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