歴史と魔法のお勉強
世界観説明会なので、読み飛ばしOKです
ハイランド屋敷の書斎
「昔々、この世界がまだ一つの大陸、一つの民族であった頃、人々はまだ火を知らず、泥水を飲み、穴ぐらの中で風雨に凍えながら暮らしていました」
「ふんふん」
オレの前で歴史の授業を開く片眼鏡の令嬢は我が主ベアトリクス・ハイランド
「そんな人々を哀れに思った神は天より三柱の天使を使わせました。火の天使ふゃむえる、水の天使あにゃえる、風の天使しりゃえる」
土の天使はいないらしい。空から来たからかな……っていうか何その名前?
「先生、天使の名前が聞き取れません。火の天使がふぁむえる?」
「え? 発音できない? ふゃむえるとあにゃえるとしりゃえるよ」
???
自動翻訳に失敗してる?
「まぁいいや、続けてくれ」
「……その三天使は地上に降り立ち、人々に火を起こす魔法、水が湧き出る魔法、風を操る魔法を使い、人々の暮らしはなんやかんやあってたいへん豊かになりました。どう豊かにしたかの話は省略するわね」
「助かる」
「三天使は人々を気に入り、十二人の子を為しました。名前は省略します」
「はい」
アブラハム的なあれね。
「十二人はそれぞれ王となり、十二の国を作りましたが、やがて仲たがいし争うようになりました。三天使は子供たちが争う世界を嘆き、天へと帰ってしまいました」
「天使の教育が悪かったと」
「そういう事言わないの。神は愚かな人々に怒り、大地を十二に切り裂き、その衝撃で大洪水が起き地上の全てが海に流されました。しかし、神の怒りを予見した大天使エセリエルは限られた善良なる人々を救うべく大地に降り立ち人々に癒しの奇跡を施しました」
今度は聞き取れた。法則性がわからん。
「しかし神の意に反した大天使エセリエルは罰として翼をもがれ、天に帰る資格を失いました。堕天したエセリエルは神の赦しを請うため、人々に神の教えを広め伝えるようになったのがエセル教の成り立ちです」
「なるほど」
「第一章はここまで」
「今んとこ歴史というより神話だな」
「そうね、天地創造の成り立ちとかの神話は別にあるけど」
「まぁ日本も似たようもんか。要するに貴族は天使の血筋で教会は大天使の血筋ってことだな」
「ええ。厳密に言えば教会でも治癒魔法が使える人は貴族ね。ミラも貴族だし、ブレイズのように放逐されてても魔法が使える以上、貴族は貴族よ」
「ふぅん……その辺りはオレの常識とは違うな。まぁ細かい制度については興味ないからいいや」
「あなたね、領主の従者がそれで……まぁカケルはそれでいいわ。忘れがちだけどあなたデーモンだものね」
「自分でもその気はないけどな」
昨日の領民の反応をみて良くわかったが、人々は熱心な『信奉者』だ。『狂信者』と言ってもいいほど、一人一人が驚くほどの領主に忠誠心を持っている。おそらく教会はそれ以上だろう。
現実との違いは恐らく、貴族が実際に特別な力を持った血筋であり、歴史を信じるなら人々を庇護する天使の子、日本で言う現人神だからだ。
「その天使の血筋は薄まるんじゃないか? 貴族は貴族としか子を作らないとか?」
「まぁ……昔の魔法はもっと強かったと言われてるわ。 女性は普通、
貴族を相手に選ぶわね。そして子供に家を継がせるの。男は結構あちこちで作るわよ」
「財産とか跡目争いで揉めたりしないのか?」
「それはその家によるでしょうけど……貴族はよほどでなければ財産なんてどこでも作れるし、大きい領地ほど忙しいから皆で切り盛りするんじゃないかしら? 男は家督を継ぐより騎士とか開拓とか冒険とか、歌に聞こえる英雄を目指したがるの。もちろん逆もあるけど」
ふむ……男が広げ戦い、女が守り継ぐのがこの世界の貴族か。
そうか、今の話ですとんと腑に落ちた。他はともかくベアトリクスは金や権威はどうでもいいんだ。そんなものは魔法が使えればどこでも手に入る。ただ生まれ育ったハイランドを愛しているからここにいるだけなのだ。
「いいご主人様でよかったよ」
「なによ急に」
――
「魔法は火、水、風を基本とする三大要素で成り立っているのです」
続きましてアビゲイル先生の魔法学。
「先生、土魔法はないんですか?」
「大地は神の創りだしたものなので神でなければ大地を割ったり創ったりすることはできないのです」
「なるほど」
「火は灯火から爆炎まで、水は滴から流水まで、風はそよ風から突風まで、その人の持つ魔力や資質によって強さが決まるのです」
「射程距離は?」
「術者から離れるほど魔力消費が大きく、威力は弱くなるので一概には言えないのです。一般的にはこの部屋の中ぐらいが限界なのです。それより遠くで威力を保つには火や水を発生させ風で飛ばす必要があるのです。中級魔法なのです」
あー、風だけ使い道なさそうって思ったけどそこにかかってくるのか。範囲は……十二畳ぐらいね。魔法は十二畳。
「ではいよいよ実戦なのです」
「待ってました!」
「カケルは魔石を宿してるので魔法が使える可能性は十分あるのです」
「がんばります」
「体内に流れる魔力を研ぎ澄ましたらパルスのルシをコクーンさせパージするのです。
「よし、やめだ。寝よう」
「あきらめが早いのです」
「精霊の『お前には理解できん』って声が聞こえたんだ」
「むぅ、それなら仕方ないのです」
オレはふて寝した。




