鉄火村とアザミのトゲ
「……ずいぶんさっぱりしたな」
「こちらは暖かいので、いいかなと」
ディンギルや鉄火組の若い人はヒゲを剃り、ようやく顔が見えるようになった。なんとも精悍で逞しい顔だ。うらやましい。念の為言うが、今年も普通に寒い。
中年組はつるつるだと恥ずかしいらしく、顎髭を三つ編みのように結っている。フロストランドにも価値観の年代差はあるらしい。
50人の大所帯は騎士団に随行する形でノース山脈へ向かう。刀組も付き、一緒に開拓する予定だ。近くの川で集落を組み、採掘と鍛冶に従事する。分かりやすく鉄火村と呼ぶ。
30名は漁村へ向かう。こちらは火消し組が付き、トッドの作ってる漁村支部へ統合される。あっちでも日ノ本一家に参加したがる人が増えており、盃を受けにちょくちょくやってくる。
特に多いのが病人だ。薬がもらえると聞いた人たちが続々とやってくる。感染病だと困るが、ツクヨが最初に診るから安心だ。
結核や梅毒など、今まで不治の病とされてきた人がミアズマ・ポーションで良くなっている。わらじ組はすっかり大所帯だ。
そして残りは、領内で足りない男手を補う力仕事や砂糖の精製などを行う。できるだけ残留希望かつ、言葉を覚えた若い衆をそろえた。ディンギルはその筆頭だ。
そんなディンギルが、リリに花を持ってきた。
「リリ、これ」
「……アザミですか。それがなにか?」
「トゲ、ある」
「そうですね」
「でも、きれい」
「……そうですか」
「リリに」
「……どうも」
「また、くる」
ディンギルはアザミを渡し、去っていった。
「この時期にアザミなんて、珍しいな」
「そうですね」
「……ディンギルのことはどう思う?」
「まぁ……無くはないですね」
そっけないリリの頬は少しだけ赤らんでいた。ハイランドの冬は恋の季節だ。
――
「こんどこそ、蒸気ミキサーの完成です!」
「飛ばない?」
「飛びません! 二重の安全装置付きです」
「よし聞こう」
「まず蒸気を逃がす機構を追加しました。これを開くと、内部の蒸気は上部へ吹き出されます」
「よし、そこに危険マークつけとこう。逃がした蒸気に当たると火傷する」
「あ、そっか。次に冷却水投入口です。これで高まった熱を下げることができます。どちらも使えば回転は止まります」
「それは大丈夫そうだな」
――カションカションカション
ミキサーには繋がず、歯車だけ稼働させながら様子をみる。速度が上がってきたら蒸気弁と冷却水を試す。どちらも問題は無さそう。
「いけそうですか?」
「そうだな、あとは物理的に歯車を止めるか外す停止機構が欲しい。高速の時は危険だが、緩やかになれば強引に止められるだろう」
「それなら、ボクより職人の方が得意ですね」
「これを職人に図面化してもらって、小型の見本を作り、あとで鉄火に託そう。動力さえあれば、動かすのはなんだって作れる」
「楽しみですね!」
「既存の加工場に加えて、トロッコ、引き揚げ機……最終的には蒸気機関車も作れるぞ」
「なんですかそれ?」
「今はまだ、未来の乗り物だ」
自動翻訳が通じるよう、こんど小さい模型作ってみるか。
――
「カケル、大変です」
「どうしたアヴィ」
「スライム討伐技法が大人気です」
「良かったじゃないか」
みんなよっぽどスライム嫌いなんだな。
「対価を決めてなかったので、鍵との交換希望がたくさん来てるのです」
「どんな鍵だ?」
「獣脂石鹸、水散布機、風力トロッコ、皮舐めし液、獣避け匂い袋」
「風力トロッコはウィンドミルに話を通してもらったやつだから受けてくれ。他のはなんか、微妙そうだな」
石鹸はドリ製のもっといいのあるし、スプリンクラーはビィがいるし、皮舐めしは元々やってる。獣避けはツクヨが作れるだろう。
「対価でいいんじゃないか? スライム討伐できるならダンジョン持ちの領地は魔石が取れるようになる。金か魔石なら相手も払いやすいだろう」
「わかりました。それと、生石灰の鍵主から連結の依頼もあります」
「連結?」
「討伐に生石灰を使うので、スライム討伐技法取得前に生石灰の鍵を取る、という段階を踏ませるのです」
ゲームの技術ツリーみたいなもんか。なるほど。生石灰ないとただのタコツボ罠だもんな。
「いいんじゃないか?」
「ではそのように。連結するならお礼もくれるそうですよ」
「何がもらえるのかな?」
「それは届いてからのお楽しみなのです」
「錬金術師ってのは秘匿が好きだな。ちなみに、連結された鍵で一番多いのってなんだ?」
「うーん……風力機関ですね。風力トロッコも、そちらが必要みたいです。古いものなので対価は安いですが」
「そっから利権もってんのか……困るな」
「何か問題でも?」
「いや、こっちは問題ないんだが……見知らぬ相手が困るんだよ」
「ふむ……カケルこそ、秘匿の好きな錬金術師ですね。そうそう、煮沸魔法も届いてるんでした」
「お、どんなだ?」
「樫などの魔素の通りの良い杖を用意し、先端に鉄または銅などの金属(鉛は不可)を付帯させる。これを触媒として、水(魔法水なら尚よい)に先端を沈め、放熱を送るべし、と」
「ふんふん。魔法で鉄を温めて沸かすわけか。パメラさんが知りたがってたから教えてあげよう。これ、どこまで教えていいんだ?」
「家単位なのでハイランド家なら問題ないのです」
「じゃあ大丈夫だな」
煮沸魔法で大事なのは触媒。杖があれば鉄火組でも使えそうだ。
「ん……?」
「どうしました?」
「これ……杖である必要なくないか?」
「まぁ、魔法が通りやすければ何でもいいと思いますが」
水を入れたタンクに、煮沸用の棒を取り付ける。煮沸棒を通して内部の水に熱を送り煮沸する。外から燃料も無く安全に煮沸できる。
「……煮沸魔法、ありだな」




