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魔女の領主さま! 悪魔召喚されたけど、オレはただの人間です! 〜魔女と悪魔の異世界領地経営〜  作者: ふろんちあ
第九章 蒸気の時代

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76/90

冷める熱と冷めない熱

「すこし、話をしよう」


 オレは鉄火組を集め、彼らと話をすることにした。全員はさすがに無理なのでガディルにリーダー各10人を選んでもらった。


「まず、この地で暮らしたいのか、冬を越したら帰りたいか、どちらだ?」


 帰りたい派3、残る派5、無回答2。帰りたい派は家族がいるとのことだった。そして無回答に気持ちを聞いた。


「まだわからない……俺達はずっと、南の地を手に入れたくて戦ってきた。だが負けた、負けたのに南の地にいる。飯も寝床もある。不満はない……だがエセルの軟弱な教えに染まるつもりもない」


 残る派も、多くがその意見に賛同した。


「なるほど……オレは別に、信仰を変えろと言うつもりはない。お前らが信じたいものを信じればいい」


「だがこの地で暮らすには、エセルの庇護が必要なのだろう?」


「エセル教が嫌いなのは毒と悪人であって、異民族じゃない。オレがいい例だ」


「……長はエセル教ではないのか?」


「エセル教でもないし、戦乙女も信仰していない。そもそもこの大陸の人間じゃないからな」


「では、なぜエインヘリアルと?」


「そう呼ばれるから、別に否定してないだけだ。悪魔や鬼と呼ばれることもある。実際、人じゃないしな」


 オレは腕を切り裂いて、力を込めた。いつもの詠唱が頭に響き、傷は癒えた。


「おぉ……」


「大事なのは、人が信じてることを否定しない事だ。それができれば、今度は気持ちも理解できる」


「では、エセル教にならずともこの地で暮らせるのか?」


「それはお前たち次第だ。言葉を覚え、エセルの教えを少しでいいから理解しろ。別に信じる必要はないが、否定はするな。それがこの地で暮らす最低条件だ」


「……もう一つ、聞きたい」


「なんだ?」


「ミラ様は、戦乙女ではないのか?」


「それはお前らがどう思うかだ。そもそも戦乙女はヴァルハラにいるんだろう? ヴァルハラじゃどうか知らんが、現世じゃ彼女は人間でエセル教の治癒師だ」


「……」


「彼女が治癒したのは、お前らが毒を使わずに戦った戦士達だからだ。だからといってエセルの治癒師が全員そうするわけじゃない、それはミラさんの慈悲だ」


「……」


「失望したか?」


「いや、むしろ歯車がかみ合った。俺もこの地で暮らしたい」


「そうか、まぁ最終的な答えは春になってからでいい。エセルの教えを学ぶ気があるなら、今度アリエス神父を連れてこよう」


 彼らは、それを受け入れた。戦乙女の信仰がなければ反発も出るかも知れないが……オレもミラさんも、彼らの信仰を完全に受け止める事はできないだろう。だからこれは、必要な話だった。


 ――


 鉄火組と話をしてから、彼らは大人しくなった。なんというか、火のついた戦士が日常に帰ってきたような落ち着き方だ。


 仕事をしながら談笑し、からかい、酒が飲みたいと愚痴をいい、喧嘩もして、飯をうまそうに食った。


 ミラさんは今も戦乙女と呼ばれている。戦乙女は現世に人の姿で降り立つらしく、むしろ信奉者が増えてる気がする。


 たまにアリエス神父がきて、ガディルと一緒に青空教会を開く。正直、日ノ本一家の最初のころよりよっぽど扱いが楽だ。元々彼らが悪人ではないからだろう。


 そんな彼らの様子を見るメイドの目も、少し優しくなった。時々女衆を連れて労いに来て、彼らの発した『ありがとう』と言う言葉に驚き、少しだけ笑った。


 ――


「カケルさん! できましたよ!」


 興奮したドリが新型ミキサーを持ってきた。


「おぉ、ついにできたか」


「えぇ、この容器に水を入れて温めると……」


 ――カション、カション、カション


「おぉ、蒸気機関っぽい歯車の回転だ!」


 元手回し水車のところが歯車になっていて、ミキサーが回り始める。


「これでナノセルロースも作り放題ですね!」


「大根おろしな。でもすごいぞ。これを鍛冶屋にみせて、色々作ってもらおうか」


「はい、もっと大きいのも欲しいですね」


 ――カショカショカショカショ


「ドリ、そろそろ止めたほうがよくないか?」


「……すいません、停止機構作ってないです」


 ――カショショショショショ


「とりあえず火を落とせ! 圧力が高まりすぎるとマズイ!」


「は、はい!」


 ――カショショショショ……バシュン!


「うお!」「うわぁ!」


 ミキサーの回転刃が恐ろしい勢いで壁に飛んでいった……


「ドリ、蒸気ミキサーは、やめよう」


「そうですね……安全機構、考えます」


 そうか、蒸気機関って、止めるの大変なのか……。


 オレは圧力が高まりすぎると破裂すること、停止させるには蒸気を逃がす機構が必要なこと、歯車以外にも蒸気や熱に注意が必要なことを伝えた。


「あとは停止用の冷却水とかかな……」


「カケル、さっきの音なに?」


 実験室にビィがやってきた。そういえば、この世界には科学の他に魔法もある。


「ドリ、手っ取り早い安全装置がいたぞ」


「いや、べべ様が冷やしたら温度差ですぐ鉄が割れますよ」


 それもそうだ。でも魔法なら……もう少し簡単に蒸気機関を使いやすくできるかも知れない。


 そして魔法を使うことが前提なら、エセルの支配者層も受け入れやすい。そこから先は自然に改良が進むだろう。


「いいぞ! 道が見えてきた!」


「そんなことよりカケル、なんで壁に刃物が刺さってるの?」


「……ごめん、実験してたら飛んでった」


 その日のビィは、ちょっと怖かった。

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