異文化交流と秘匿の鍵
「無理、ありえない」
「イヤ、視界にも入れたくない」
「なし、ヒゲがむさい」
目下、森を一部切り拓き樵に精を出すフロストランド捕虜……改め日ノ本一家『鉄火組』。
彼らを眺めるメイド達に率直な意見を求めたところ、散々な評価が下された。
まぁ……そりゃそうか。長年分かり合えない敵同士で、ハイランドは襲われる側だったんだもんな。
「私は、無くはないですね」
侍女のリリから意外な評価が出た。
「リリ的にはありなのか?」
「もちろん番にされるのはお断りですが……単純に男として見るなら、逞しく勇ましい。それと火が使えるのは、私のような……少しでも血を残したい者には加点要素です」
リリはそこそこ水が使える。どっかの貴族の遊び相手から生まれた、いわゆるはぐれ貴族だ。他所の国であっても、魔法が使えるだけで価値があると……実利的だな。
「ふむ……もし、彼らが正式にエセル民となって、この国の言葉を覚えたら?」
「まぁ、その人次第ですね」
「やっぱそこが最低ラインだよなぁ」
建材はできるだけ森の奥から調達し、切り拓いた場所に積んでいく。取りあえず最低限の寝床となる大きな簡易小屋を一つ。その後は五人組程度の家を各所に用意し、働いてもらう予定だ。
「ガディルはどうやってエセルの言葉を覚えたんだ?」
「山越えしてエセルに逃げ込んでからは、漁村で魚捕って生きてました。そこにいたトッドとやりあって、負けたんで部下になって『これ、何だ?』から始めましたね」
なるほど、そういう関係性だったのか。なにごとも人に歴史ありだな。
「オレはどうやってもエセル語を教えられないからな……鉄火組には『これ何だ?』と『ありがとう』『ごめんなさい』を教えておいてくれ」
「うっす」
簡易小屋はあっという間に完成した。彼らは本当に、生きるという力に特化していた。
――
「おい、奴ら斧を置いたままだぞ」
「……全部で10本もある、これだけあれば十分だ」
「そうだな、十分だ……貴様らを殺すには、十分すぎる」
「おい、お前らまさか本気で信じてるのか! あの女は戦乙女じゃない、ただのエセルの治癒師だ」
「そんな事はどうでもいい、戦乙女は確かに俺をヴァルハラより救いあげ、導きを与えた」
「長の寛容さに甘え、統率を乱すなど我らの邪魔にしかならん」
「勝者に従えぬなら、なぜ死ななかった。潔く、今死ね」
――
「……で、何人死んだんだ?」
「斧を担いで逃亡を企てた5人ッス。全員見てたんで裏は取れてます。どうします?」
「……すまん、これはオレの想定が甘すぎた結果だな。武器になるものをちゃんと回収してなかった」
「しょうがねッスよ。別にやろうと思えば岩でも丸太でもおんなじです」
「それならまだ捕縛できたろう。斧を手にした以上、彼らも殺すしかない。お咎めなしで、今後はできるだけ捕縛で留めるようにしてもらおう」
「親父、彼らは忠誠を示した。労うべきだ」
「……すまないが、オレにはできない。ガディル、必要なものがあれば用意するから、頼めるか?」
「うっす」
ガディルは彼らの忠誠を称え、肉を与えた。中々に激しい異文化交流に、オレは頭を抱え始めていた。
――
教会で死者を弔い、ケガ人をミラさんが癒した。屋敷に戻りビィにも伝えたが、あまり気にする様子はなかった。この程度のことを気にするのは、オレだけだ。
「でね、ウィンドミル商会がビート・シュガーの製法を知りたいんだって。教えてくれたら、果糖やメープルの製法を教えるし、風車小屋も用意してくれるって」
「そりゃありがたいが……これからのハイランドの商売を考えるなら、秘匿したほうがいいかもな」
それに、ウィンドミルはもしかすると今後、対立するかも知れない。
「でもね、ハイランドはいい風が吹いてるから、風使いが少なくても風車小屋が役に立つでしょうって」
「それはそうだろうな。ただ……もう風車小屋は必要ないかもしれない」
「そうなの?」
「その辺りドリと研究中だから、また今度にしておかないか?」
「わかったわ」
「……アヴィが錬金術師になったら、秘匿の鍵をもらいましょうか?」
「秘匿の鍵?」
「錬金術師だけが知ることのできる、秘匿された技法のことです。鍵を得れば他の鍵と交換したり、貸し出すときに対価を求めることができるのです」
なるほど、特許みたいなもんか。
「鍵の種類や概要が知りたくばアカデミーが教えてくれます。新しい秘術の鍵があれば、それだけで錬金術師になれるのです」
「アヴィならミアズマ・ポーションですぐなれそうじゃないか?」
「ミアズマ・ポーションはそもそも呪殺……異端の治癒師でないと作れません。教会に託したいと考えているので、他の鍵がいいのです」
「じゃあ生石灰と、生石灰によるスライム討伐技術、ビート・シュガーの製法あたりがいいんじゃないか? ドリがいいならだけど」
「もちろん、異存ないですよ。ボクはハイランドに召し抱えられた時から、全部差し上げるつもりです」
「では、正式に秘技をまとめた物を聖都の錬金術師アカデミーに送っておきます」
「うん! それならウィンドミルも納得すると思うわ。鍵ができてから、それを借りて欲しいって伝えるわね」
「そいじゃあーしも……鬼肝凶心丹の鍵をもらっとこうかな」
「その鍵と材料は永遠に秘匿しといてくれ……」
シシシと笑うツクヨはさておき、秘匿の鍵か……蒸気機関にも鍵をかけた方がいいのかな? これは中々扱いが難しそうだぞ。




