戦乙女とエインヘリアル
「えっと……それでは私、戦乙女のミラが汝らに導きを与えます」
100名以上の捕虜に向かい、ミラが導きと言う名の最低限度の生活ルールを伝える。彼らがここで暮らすなら、とにかくまとめ役が必要だ。
「……そしてこの方、エインヘリアルのヤマトカケルを長とし、その命に従いよく仕えなさい。さすれば汝らに新たな導きを与えましょう」
捕虜達はミラに平伏し、口々にその導きへの感謝を言葉にした。
今は誤解だろうとミラさんは戦乙女になりきって彼らの忠誠を得る必要がある。ちょっと手を光らせてる辺り、ミラさんもわかってるな。
「日ノ本一家、長のヤマトカケルだ。オレの指示には必ず従え。一度でも逆らえば戦乙女の庇護は失われる」
「我ら、御身に絶対の忠誠を誓います」
そんでもってオレは監督役にして通訳。エインヘリアルと言うのは戦乙女に導かれし人外じみた英雄のことらしい。彼らは元々奴隷兵なので、上下関係は厳しくする必要がある。
「そんじゃまずは、芋掘りいくぞ」
「はっ……?」
当分の間、彼らの飯は芋とタコだ。自分の食い扶持は自分で確保してもらう。そしてこのために、正式な芋の栽培許可をもらった。
困ってたのは教会の方だし、エセル民が食う物じゃないならまぁ……と言う折衷案だ。
でっかい鍋で芋とタコを煮る。味付けは魚醤の芋煮。栄養が偏るとアレなのでニンジンも入れる。どうせほっとくとエルゥが全部馬に与えてしまうのでちょうどいい。
「うん……うまいな」
贅沢を言えばみりんと砂糖がほしい。捕虜もうまそうにバクバク食った。
――
元フロストランド兵、刀組のガディルと今後の事を相談する。
「奴隷兵は基本的に、フロストランドに負けた部族の集まりッス。戦いに負けたら、勝者に服従する精神なんで、しばらくは大人しいでしょう」
「そのうち反乱を起こす可能性は?」
「所詮奴隷ッスから、いつでもあります。ただ親父殿の支配と戦乙女の導きがある限り、逆らおうとする奴が逆に粛清されるでしょう」
「どっちかが欠けると?」
「恐らく、割れます」
「なるほど……こっちで暮らすに当たって、彼らの問題は何だと思う?」
「俺が最初に困ったのはもちろん言葉ッスけど、文化的にはエセル教の考えが理解できないことと、魔法が使えるからって弱い貴族に従うことッスかね」
宗教理念はまぁ仕方ないとして、貴族社会自体が理解できないのか。まさに弱肉強食の世界の住人だな。
「なのでまぁ、日ノ本一家の法度はわかりやすいッスよ。『善く生きろ』はまだ良くわかんないけど、悪いこととか迷惑かけんなぐらいは普通に分かるんで」
「じゃあ当面の暮らしと、言葉の問題だな。ビィや領民に危険はないか?」
「氷の魔女や氷の騎士はフロストランドでも強いことで有名ッス。ご領主様は大丈夫でしょう。領民は俺らで守るしかないスね」
「よし、扱いはだいたいわかった。逆にいいとこは?」
「エセルに比べたらッスけど、力が強い、タフ、寒さに強い、鉄加工が得意、『着火』程度ならほぼ全員使えるってとこですかね」
「あ、魔法使えるんだ」
「エセルみたいに強いのはいないっスけど、それぐらいできなきゃ生きていけないんで」
なるほど、魔法を神聖視してないから、血が混ざりきってるのか。
「そのわりに戦いではあんまり見なかったな」
「ハスカールには燃える斧投げる奴もいますけど、普通は武器燃やせるほど強くないし、燃えたら燃えたで水使えないから消せないんスよ」
「なるほど、よく分かった」
そうなるとフリントロック銃と言うより、魔法の火花で銃を撃ち出す機構だったのかも知れん。
「寒さに強いなら、木の家でも暖炉があれば過ごせそうだな」
「問題ないスね。最悪アナボコでもいいスよ」
「それはさすがに可哀想だ。ビィに伐採許可もらって、まずは家を作ろう。それとあとは……」
これはあんまり触れたくない問題なんだが、考えないわけにはいかないよな。
「全員男なんだよなぁ……」
「あー……宿の商売女じゃ、足りないでしょうね」
治安維持のためには無視できない問題だ。ハイランドは女性が多い。
逆に考えると、男が不足してるので女衆に認められれば、領地の男女比率はちょうど良くなる。
「やってみるか……婚活」
「はい?」




