受け継がれる想い
――ガァン! ガァン!
混乱する黒煙の中、ブレイズ・ベイオウルフは立っていた。煙の向こうでは弾丸が飛び交い、ハスカールの襲撃に王国騎士が対応している。
隣にいたエルフィンは倒れ伏していたが、息はあった。ブレイズはへし曲がった鎧を剥ぎ、同じくエルフィンの救助に来たハンスにエルフィンを託した。
――音が聞こえない
体は無事だが、耳鳴りがやまなかった。視界は不良、銃とハスカールの襲撃。彼は戦うよりも立て直しを選んだ。父を探し、撤退を宣言させねば。
エルフィンの鎧を盾にして、慎重に煙の中を進む、倒れている者の中から、赤褐色のタテガミを見つけた。
「サー・ベイオウルフ! ご無事ですか!?」
ブレイズは大声で叫んだ。父は生きている。だが、出血がひどい。いつもなら火で血を止めるが、その怪我の深さと父への畏怖からためらわれた。
「ブレイズ……戦況は……」
「爆発で被害多数! 銃を持った残存兵が襲撃中! 黒煙で詳細不明! 撤退指示を!」
簡潔、明瞭。冒険者時代に培った即応能力が、混乱の渦中にある彼の冷静さを保っていた。
「ダメだ……関所は制圧せねばならん。お前が指揮を取り敵を打ち倒せ」
「……」
ブレイズは迷った。父を担いで撤退すべきではないか? しかし命令には従わなくてはならない。
「……拝命致しました。せめて、安全なところへ」
ブレイズは父を担ぎ、壁際に運んだ。ポーションを取り出すも、ガラス瓶は割れていた。
――
「サー・ベイオウルフに代わりブレイズ・ベイオウルフが今より指揮を取る! 敵残存兵を駆逐し、拠点を制圧せよ!」
黒煙の中、細かい指示は出せない。せめて、敵を打ち倒すまで戦う意思を統一するしかない。
ブレイズは叫び、無我夢中で戦った。途中何度も銃で撃たれた。骨を砕くほどの衝撃が走るも、弾丸は鎧を貫かなかった。裏打ちのセルロース装甲が利いていた。
戦って、戦って、やがて黒煙が収まる頃に、ハスカールは全て倒れ伏していた。
さらなる奇襲を警戒し、ブレイズは一人一人確実にとどめを刺した。それは警告を無視した敵に対する無慈悲であり、戦士として死ぬことを望む敵への慈悲であった。
「……残存兵の沈黙を確認……負傷者の救助にまわれ」
王国騎士団は自分より格下の田舎騎士に、敬意を持って従った。
――
「サー・ベイオウルフ、敵は倒しました。次のご指示を」
「……ブレイズ、火の薬は危険だ。全て……焼き払え」
「鹵獲は……よろしいのですか?」
「不要だ……ウィンドミルの戯言など無視すべきだった……あんなものは、あってはならん」
「……承知いたしました」
「いいか……火の薬は誰にも与えるな。ハイランドにも……王国にもだ……お前も火の一族なら、わかるだろう」
「……はい」
「……ブレイズ、顔をよく見せろ」
「……はい」
「いい顔つきになった。良い指揮だった。」
「……はい」
「よし……最期に一度だけ、父と呼ぶことを許す」
「父上……どうか……」
「泣くな、ブゥ。後は、頼んだ」
「父上ぇーー!!」
サー・ベイオウルフは息を引き取り、ブレイズは遺言に従い、関所の全てを焼き払った。
関所に残った銃も、火薬も、鍛冶鋳造所も、そこにいた奴隷も、全て。
フロストランドが鉛玉を使った以上、エセルに残された慈悲はなかった。
――
何もかもが失われた廃墟に、カケルはそっと足を踏み入れた。
「ここで銃を作ってたのか……」
焼け落ちた鍛冶鋳造所の残骸を掘り進みながら、彼は何か使えるものがないかと探していた。
銃の現物が一つでもあれば、仕組みを把握することはできる。例えそれがこの国の禁忌であろうとも、いつかその知識が必要になるだろう。
「ないなぁ……ブレイが王国騎士団と一緒に念入りに集めて焼いたって言ってたもんな」
「従者殿、何をお探しか知らんが、そろそろ退避してもらおう」
「あぁ、すいません。銃ってやっぱり持ち帰れませんよね?」
一応聞いてみる。
「ダメだ、見つけたらこちらに引き渡してもらう」
まぁそっか。フリントロックの機構だけでも見たかったんだがな。
「そうですよね、失礼しました」
――カン
ん? と足に引っかかったのは、歯車のついた金属の筒だった。壊れたなんかの部品かな? 水車の参考になるかも。
「すいません、これ持って帰ってもいいですか?」
「うん? 鉄が欲しかったのか……まぁこれぐらいならいいだろう」
「どうも」
せっかくここまで来たのにお土産の一つもないとな。帰ってドリと見てみよう。
――
夜、改めてそのパーツを調べたオレは、フロストランド強さの根幹を理解してしまった。
エルフィンが敵兵数を見誤った理由。
短期間に巨大な炉と鋳造所を造れた理由。
食料不足に悩む彼らが、略奪せずに前線で耐えれた理由。
筒の底を押す。歯車が押され、半回転する。
筒の底を引く。歯車が引かれ、半回転する。
「左右についてるのは圧力弁……フロストランドは……蒸気機関を持っていたんだ……」
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