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魔女のお仕置き

 ディガーのドリューを連れて冒険者ギルドを出たところ。


「や、やっぱりやめませんか? 悪魔の植物を食べるなんて」


「別に毒見はオレがやるから心配ないよ」


「で、でも、毒ですよ! 毒とわかって食べたら、教会は治癒してくれません! それどころか人に食べさせたら懲戒ものです!」


「そうよカケル。毒があるってことは神が人のために作った食べ物じゃないの。それでおなか痛いって泣いても助けてもらえないわよ」


「オレはヤマト育ちだからいいの」


「ヤマト……? カケルさんは海の向こ――ドン――あいた!」


 革鎧と帯剣のいかにも冒険者風の男3人組とぶつかり、音を立てよろける小柄なドリューくん。


「ようモグラ、小さくて見えなかったぜ。今日もあなほりか? ずいぶん美人と一緒じゃねえか」


「う……今日は依頼で」


 ガシリと腕を肩にかけられるドリューくん。不良漫画でよく見るシーンだ。


「水臭いな、紹介しろよ? お前だってパーティーの一員だろ?」


「え? ……いえ、ボクは同伴するだけでパーティーを組んだ覚えは……」


「お姉ちゃんこいつへの依頼なら俺達も付き合うぜ?」


「あら、ホントに? どうしようかしら」


 ニコニコと答えるベアトリクス。従者として止めるべきかと考えるも、ベアトリクスがこちらを見ないので様子見することにした。どうせ名前を出せば一発だろう。


「あの、ブレイズさん、やめておいた方が……この方は」


「ドリューさん、私のことはいいから、この方たちを紹介してもらえる?」


「あ、はい。彼らは」


 突如男は抜剣し、ボッと炎をまとわせた剣を一閃振るう。


「俺は炎剣のブレイズ、聖都じゃ名うての冒険者パーティーフレイムウルフのリーダーだ!」


 毎回被せられるドリューくんかわいそう。


「まぁすごい……魔法が使えるなんて貴族のご出身かしら?」


 その様子をみてパンパンと手を叩くベアトリクス。何事かと周囲に人が集まり始める。


「まぁな、ベイオウルフ家に連なる俺がいりゃハイランド兵もフロストランド如きに負けなかったろうに。聖都からわざわざ来てやったってのに、無駄足だったぜ」


 ぴくっとベアトリクスの眉が動く。


「まぁまぁまぁ……ブレイズさんはは氷を自在に操ると言われるハイランドの英雄たちよりお強いんですか?」


「当たり前さ! 氷が戦の役に立つと思うか? 大方寒さに強い北の蛮族どもに効かなかったんだろうぜ? 俺様の炎があればあんな奴らイチコロよ!」


 お前マジかよ。規模は違えど、ここは江戸でそいつは徳川だぞ。


「こけおどしの火魔法如きでずいぶんな口振りね」


「あん……?」


 ザッザッと方々から足音が近づいてくる。ベアトリクスの笑顔が消えた。


「いつまで町中で火遊びしてるつもりだ? 町を燃やすつもりか?」


 いつの間にか周囲には霧が広がっており、ジュワっと音を立てて剣の炎が消える。


「へ……?」


「なぁ、あんた……冒険者ならもうちょっと周りを気にしたほうがいいんじゃないか?」


 彼のために一言忠告するが、もう遅かった。市中のあちらこちらから現れた人々がフレイムウルフを取り囲んでいる。領民たちの目つきがヤバい。


「え……?」


 ベアトリクスの笑顔の質が変わる。為政者のアルカイックスマイルから魔女の嘲笑に。


「流れ者の無礼ぐらいは笑って許してやろうと思っていたが、これは仕置きが必要だな」


 ガシリ、ガシリと男たちがブレイズの肩をつかむ。ブレイズの持つ抜き身の剣にひるむ様子は欠片もない。


「お、おい!? なんだ! 離せ!オレは聖都の騎士ベイオウルフ家に連なる」


「……煩い。黙って跪け」


 ドン!と音を立て、磔のごとく両手を伸ばした状態で無理やり跪かされ口を塞がれるブレイズ


「んー!んー!」


「私はな、お前のような神に与えられた力を自分の特権だと勘違いし、本来果たすべき責も負わず、イキり散らかす貴族崩れが一番嫌いだ」


 ブレイズの目に涙が浮ぶ。


「町中での不必要な抜剣。名乗りも無い魔術の行使。本来は水責めの刑が妥当だが、お前の阿呆さに免じて今回は教育を施すだけにしてやろう」


「んー!」


 魔法の雰囲気を感じ取り、できるだけベアトリクスのそばに立つようにする。


「広大なるハイランドを統べるベアトリクス・ハイランドが汝に施しを与える」


「ゴバッ!!」


 マーライオン像の如く、ブレイズの口から水が溢れでる。


「ガ……グボボッ」


「お前は氷が一体何で出来ていると思っていたんだ? 得意の火遊びで抵抗してみるか? 使ってもいいぞ? 霧の中で使えるならな。」


「……ゴ……ゴボ」


「お前は魔法学で何を学んだ? 大方真面目に学ばず、魔法の力にあぐらをかいて放逐されたのだろう? いいか、火は確かに最も攻撃に優れる。だが最も代用が利く。火を維持する為の魔力など、油どころか枯れ木にも劣る。こんなものはな、『着火』できれば十分なのだ。……そして火は他の魔法との相性がすこぶる悪い。水にはかき消され、風には逆に利用される。それ単体で有効な相手など、火に怯える獣や知恵の無いスライムぐらいだ。まぁだからこそ冒険者などに身をやつして」


「それぐらいにしてやれ、もう聞こえてない」


「ふん」


 パチンと指が鳴り水が止まる。


「ゴバ! フェヒ!ヘヒ!ヘヒ!」


「お前は無礼で阿呆だが、それでも火が使えることは評価してやる。お前たちフレイムウルフのみでダンジョンに赴き、魔石を10点ギルドに納品しろ。それを達成すれば今回の事は不問としてやる。以後その力を守るべき民のために奮え」


「ひゃ……ひゃい……」


 魔法の気配が消え、くるりと周囲に笑顔を振りまくベアトリクス


「みんな、ご苦労さま。騒がせてごめんね?」


 わーーーっと領民たちの歓声が上がり、口々にべべ様を称える声や口笛が鳴る。なるほど、手拍子一つでこれなら確かに護衛なんていらんわ。


「あ……あの……通して」


 ドリューくんが人波に流されてはぐれそうだったので拾っておいた。


「そうそう、あなた達手伝ってくれるんだったわね? これからお芋掘りに行くから一緒に行きましょう」


「はえ……?」


 リーダーのイキった罰はその後の芋掘り作業と毒味まで続いた。


「とりあえず芽をとって焼いてみたが……うまいだろ?」


「……ほ、ほいひいです……」


 そうかそうか、泣くほど旨いなら大丈夫そうだ。


 ハイランド領はじゃがいもを手に入れた。


 ――


「今日は楽しかったわね、カケル」


「我が主が楽しそうでなによりでございます」


「なによその言い方」


 恐ろしい氷の魔女は頬を膨らませていった。


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