フロストランドの猛攻
「なんて数だ……まさか、全軍突撃なのか」
「みんな、頑張って……どうか無事に帰ってきて」
高台から見守ることしかできない自分に、いら立ちを感じる。死んでいく、どんどん人が死んでいく。
オレは簡単には死なないのに、オレがあそこにいればもっと被害を少なくできたんじゃないのか?
「だめ、カケル」
手を引くビィの声で気がついた。オレは、また間違えるところだった。オレが守るべきはビィ、ビィのために、みんな戦ってるんだ。
「大丈夫、行かないよ。オレはキミのそばにいる」
――
ベルセルク隊が押し寄せる。どんなに両翼が健闘しようとも、歩兵の数と質が違う。奴らはほとんど傭兵だ、命をかけない。押し込める、押しつぶせる。
弓から身を守る術は簡単だ。敵兵に重なってしまえばいい!我らベルセルクが怒涛の如く押し潰す!
その時、突如横合いから炎の波が現れた。中央を先頭に馬と炎がやってくる。その巨大なランスに炎を携えて、歩兵の海を引き裂いた。
数え切れないベルセルクが、巨大なランスに弾き飛ばされ、巨大な馬に轢き潰された。馬にしがみついた戦士もまた、盾から噴き出す爆炎に弾き飛ばされ崩れ落ちた。
サー・ベイオウルフ率いる、王国第三騎士団の突撃はたった一度でベルセルク隊を半壊させた。
――
混戦の最中、裏から密かに忍び寄る奇襲隊がいた。高台に布陣するその本陣に向かって、厳しい丘陵地を進む。
厄介な棘の花を薙ぎ払い、鋭利な岩肌をよじ登った所には、ひどく醜い片腕の男がいた。
「ヒェッヒェッ、来るならここだと思っとりました」
兵士ではないが、仕方ない。ただの見張りなら斧を投げる必要もない。この男を殺し、その悲鳴もろとも突撃するのみ。奇襲隊は駆けだした。
男はそっと小さな袋を取り出し、中の粉をばら巻いた。
不自然な風が舞う。粉を運ぶように奇襲隊へ風が流れ、緩やかな旋風が辺りを包んだ。
「うあああ!」
兵が次々と目を押さえ悲鳴をあげた。目の中で、粉が燃えている! 口のなかで、水が消えていく!
「生石灰といいましてね、投降すれば対策を教えてあげますよ」
「ふざけるな!」
奇襲隊は斧を投げた。男は跳ねるように岩を飛び移って逃げ出した。
「ヒェッヒェッヒェッヒェッ!」
その男の名はハンス。風の貴族として生まれたものの、生来の病からくる醜さから家も故郷も追われ、それでもバニシュとして生き続けてきた、老獪なる日ノ本一家始まりの一人であった。
――
奇襲隊は粉を水で洗い流し、ぼやけた目を血走らせ、それでも本陣を目指した。あんな老人一人に追い返されたとあっては戦士の恥、滑落する兵を無視し、敵本陣へたどり着いた。
いたのは数多の農民と、黒髪の男、黒髪の女、そして明らかに格の違う金髪の女! あれだ、あれが敵の首魁だ!
餓狼の如く、血を巡らせ、奇襲隊は襲いかかった。農民など相手にもならん! 薙ぎ払え、薙ぎ払え! 盾をよじ登り斧を投げろ! 細い槍で、些末な矢で、この命獲れるものか!
眼前に鬱陶しい粉が舞う。鬱陶しい火花が散る。小賢しい! 小賢しい!
――ガンッ
死力を尽くした突撃が、大盾に止められた。エインヘリアルだ、まるでヴァルハラから蘇ったエインヘリアルがいる。ねじ曲がった腕で支える大盾が斧を喰らい、ビクリとも動かない。
そっと、奥から細腕が伸びた。ピキリと空気が震え、一瞬のうちに目が、喉が、凍りつく。
倒れた死兵は薄れ行く意識のなかで、戦乙女の言葉を思い出した。
『何人も、氷の魔女に近づいてはならない』
――
「終わった……のか?」
とんでもない戦士だった。治癒前提のこちらの戦士でも、あんな突撃はしない。
後続も強かったが火消し隊やツクヨとハンスが止めきってくれたようだ。やっぱ少数戦だと魔法って強いな。
「カケル、大丈夫?」
「ああ、体は別になんともないが……やっぱり戦いは苦手だな」
ダグラスの斧を受ける練習しといて良かった。アレに比べれば大体の攻撃は軽く感じる。
戦闘不能になった敵を捕縛し、氷漬けの隊長格の息を確認する。ダメだな、喉が凍りついて死んでる。そう言えば、こっちで死体をみるのは初めてだ。
「ヴァルハラだっけ……せめてそっちにはいけるといいな」
「ケガをした人は治癒院に行って、もう戦いも終わるから、無理に残らなくていいわ」
「そうか、決着したか」
最初はどうなるかと思ったが、王国第三騎士団の力は圧倒的だった。中世の戦いしてる所に爆撃機や戦車がやってきたような破壊力だ。
「銃は出てこなかったな」
「鉛玉を使ったら慈悲がなくなるから、やめたんじゃないかしら?」
「……いや、そんなに数がないんだろう。野戦で使うには数をそろえて隊列を組む必要がある。騎士の突撃をとめれる火力がないとただの強い弓だからな」
それになんか、フロストランドの戦士達は銃で戦う姿があまりイメージできない。みんな斧使うし。
「ただ銃の本領は防衛戦だ。拠点制圧は慎重にいかないと何処で撃たれるかわかったもんじゃない。エルゥに伝えないとな」
「……でも、王国騎士団がもう関所に向かってるみたいよ」
「マジか……ハンス、伝言頼む。まだ銃も大砲もどれだけあるかわからない、突入は控えるべきだってな」
「お任せあれ、親父殿」
ヒュンヒュンと跳ねるように、ハンスは高台を降りていった。




