開かれた扉
「カケル、教えてくれ、あれは何だ?」
本陣に飛び込んできたエルフィンは開口一番に尋ねてきた。
「……大砲だ。大きな筒から火薬で弾を飛ばす兵器だ」
「どうすればいい? どう防げばいい? 何発打てる?」
そんな事聞かれても、オレだって戦争の経験なんてないんだが……。
「防ぐのは無理だ……オレにわかるのは、アレがそう連発できないってことぐらいだ。大砲は撃つ度に砲身に熱がこもる。撃ちすぎれば自壊するだろう。装填も大変だから、5連発してきたって事はつまり、大砲が5台あるってことだ」
「大砲は5台、連発はできない、いずれ止まる。確かだな?」
「ああ、それは間違いないと思う」
「カケル! やはりお前は最高だ!」
「いててて!」
プレートメイル着たまま全力で抱きしめないでくれ!
「よし、震えも止まった! 感謝するぞ!」
エルゥは来たときと同じ勢いで去って行った。ちらりとビィを見ると……やっぱり気にしてなかった。
――
「トレビュシェットを撃ち続けろ! あの火砲は長くは続かん! 着弾も遅い! 直撃さえしなければ死にはすまい!」
エルフィンは怯える兵たちに激を飛ばし続けた。逃げようとした傭兵もしぶしぶ戻り、大砲に備えた。
放たれる投石と大砲。ついにその一撃がトレビュシェットに直撃した。砕け散り燃え始める残骸を前に歯噛みしていると、関所から爆音と黒煙が上がった。
「なんだ……?」
カケルは言っていた。撃ちすぎれば自壊すると。もっと先の話かと思っていたが……
冷静に大砲の音を聞けば、連続で聞こえるのは4発、明らかに稼働台数が減っている。煙で発射位置も見えてきた。
「関所の奥、右手側だ! そこに火砲がある!」
トレビュシェットはわずかに向きを替え、残り4台が狙いを切り替えた。
関所の奥めがけて岩が降り注ぐ。それを返す火砲は3発に減っていた。
「いいぞ! 命中している!」
風を感じる。あの高台から吹く追い風だ。分からないときはただ恐怖したが、理解できるだけでこんなに違うのか。
「放て! 火砲目掛けて放ち続けろ!」
――
「もはや籠城はこれまでか」
「トールハンマーが砕けたならば、ここも保つまい」
「それが我らが本懐なれば」
「さらば盟友よ、ヴァルハラで会おうぞ!」
――ガキン、ガキン!
戦士は剣を掲げ、奴隷兵を集め扉へ向かった。
「行かば死に、戻らば飢え死ぬ。ならば行こう。ヴァルハラに通じる死出の旅路へ。戦乙女の導きのままに。フロストランドの恐ろしさを奴らの身に刻みこめ!」
歪んだ関所の扉が、押し開かれた。
――
雄叫びをあげるベルセルク。目標はあの巨大な投石機。あれさえ壊せば我らが勝利!
丸盾を構え、弓に備える。走る、走る、矢が振り注ぐ中を狂乱の吠声をあげながら。バタリ、バタリと倒れていく味方を踏み越えて、背中に担いだ2本の斧を投げつける。
盾を構えた歩兵隊に斧が振り注ぐ。銃のために用意していた大盾が、その衝撃を受け止めた。止まらぬベルセルクの群れはついぞ歩兵隊と衝突した。
兵士、傭兵、刀組……さまざまな者が混在する歩兵隊の中で、最も勇敢な戦士は領民であった。彼らは志願兵。多くは昨年、傷病兵として病に倒れたものだった。
彼らは思い出していた。領土のために戦い、領民のために死んだ先代領主のことを。先代が愛し、幼い頃より知るべべ様のことを。
彼らは思い馳せていた。かつてバニシュとして故郷を追われ、初代ハイランドとともにこの地を切り拓いた、先祖のことを。
「我ら勇敢なりしハイランダー! ハイランドなくして我らなく、我らなくしてハイランドもなし。我らこそがハイランド、我らの土地は我らが守る!」
斧と盾、斧と槍、斧と槌、斧と農具が鍔迫り合う。それを薙ぎ払う二つの巨漢。片や両刃斧の近衛戦士、片や大戦斧のダグラス。
ハスカールが両刃斧で歩兵を蹴散らし、ダグラスは大戦斧を構えた。
――ブォン!
ハスカールの意識は、そこで途切れた。
――
「騎士だ! 騎士を追え!」
名誉に溺れて弓騎士に向かうベルセルク隊。走れど走れど距離は開き、斧を投げてもかすりもしない。
「逃げるな卑怯者!」
その煽りに呼応するように騎士はこちらに向きなおるも、斧の届かぬ距離を保ってすり抜ける。その度こちらは一人、また一人と、狩猟の獲物の如く射抜かれ倒れ伏していく。
「はぁ……はぁ……」
――ブス
疲弊しきったベルセルクの胸に矢が突き刺さる。彼は朦朧とする意識のなか、向かってくる騎士に最後の斧を投げつけた。
その斧は無残にも風に流され、あらぬところへ転がりおちた。
――
数少ないハスカール騎兵隊が弓隊に向かう。今なら歩兵は動けない、無防備な後衛を我らが刈りとる。
右翼から戦況を見る炎狼隊が動いた。対峙するハスカールとブレイズ。戦場の名誉をかけて名乗りをあげる男達。こちらは炎、あちらも炎、馬と馬、剣と剣が対峙する。互いに剣と火花を散らし合う。
技量は明らかにこちらが上、だのに決着はつかない。防御ばかりに専念するあの騎士は勝とうとしていない。見た目だけの臆病者だ。戦いを侮辱する男に騎士を名乗る資格などない!
なおも繰り返される剣戟。その時、ハスカールの馬が止まった。大アザミの群生地に踏み入ってしまった。馬を制御しようと手綱を強く握った時、炎の騎士は魔石を砕いた。
馬がいななき落馬したハスカールは、大アザミとともに、炎のなかに崩れ落ちた。




