この高台から見える景色で
「エルゥー、お返事来たわよー」
「来たか!」
――バサササッ
高台の監視塔を飛び降り、マントをたなびかせてふわりと着地する風の騎士エルフィン。最近ずっと高いところにいる。
「自分で読む? 概要を話そうか?」
自領土のことながら、軍事に関してビィは全く口を出さない。ただ、手紙を読んだときは嬉しそうだった。
「聞かせてくれ! 詳しくはあとで読もう」
「うん、サー・ベイオウルフ率いる王国第三騎士団100名と、ウィンドミル商会50名が遠投投石機5台を持ってきてくれるって」
「最高だ!」
「案外少ないんだな」
騎士100人は戦力としては凄いが、攻城戦の数としては少ない気がする。
「カケルは不満か? これ以上来たら我々の出番がなくなってしまうぞ」
「まぁ、どうせなら戦いたくないからな」
「全く贅沢な考えだ。とはいえこれで王国が火薬と銃の脅威を把握していることは確定した」
「そうなのか?」
「いいか、まず王国第三騎士団とは地方遠征を担当する騎兵団で、全員が戦うに足る魔力を持つ貴族だ」
「……うお」
そうか、こっちじゃ滅多に見ない貴族も、聖都じゃ余るほどいるのか。
「そしてウィンドミル商会を随行させていると言うことは、兵站は向こう持ちと言うことだ」
「そうよね! そうだと思ったの!」
ビィがご機嫌な理由は商会だったらしい。
「普通なら救援に来た騎士団の飯と寝床はこちら持ちだ。破格の条件と言えよう」
「なるほど、そりゃありがたい」
「そして何よりトレビュシェットだ。これで奴らを関所から引きずり出すことができる」
「攻城兵器って奴か。何となくイメージはあるが、そんなすごいのか?」
「およそ300メートル先に岩をぶち込める。この国で最も威力と射程の長い兵器だ。一度構えれば、そのさきには瓦礫しか残らん」
現代で言うミサイル兵器を貸してくれたようなもんか。国で一番強い兵器だから大陸弾道弾と言ってもいいかもな。
「そうなると、敵は投石機を壊しにくるよな」
「そうだ、そこを狩り取るのが王国第三騎士団の役割だろう。銃という存在が無ければ、それだけで決着するほど過剰戦力だ」
「だが王国は火薬と銃の存在を知ってる」
「それを踏まえた上でウィンドミル商会がいるのだろう。長期戦、あるいは損害が大きくなっても彼らが補充し続ける」
「……それなりに被害も覚悟してるってことか」
「もう一つ、重要なことがある」
「なんだ?」
「正規軍100は、ハイランドを滅ぼすのに十分な戦力だと言うことだ」
「……」
「もちろんそんなことは起こらんだろうが、戦争の行く末はあちら次第と言うことだ。軍師参謀を目指すならよく覚えておけ」
「いや、目指さないです」
「ハッハッハ! それこそお前の好きな『もったいない』だがな!」
今日もエルフィンの快活な笑い声が草原に響き渡った。
――
「アヴィ、ツクヨ。薬の調子はどうだ?」
「だいぶいいとこまで来たね。目下の問題は、分量や効果が少しでも強すぎると、胃に穴が空いたり腹を下すってとこだ」
「強くしないよう頑張ってるのですが、弱くしすぎると効能もすぐ消えてしまうのです」
「あー……そういえば抗生物質もらうときって、セットで胃薬もらうこと多かったな」
「漢方との併用で抑えようとしても止まらなくてねぇ」
飲み薬である以上避けては通れない道か。
「漢方が効かないのは、多分そもそもが魔法だからだろう。抑えるには通常のポーションを使ったらどうだ?」
「……混ぜるとどうなるかだけど」
「オレの勘では相殺される」
正相と負相だし、同じ治癒なら相殺されるだろう。
「ツーちゃん、ポーションならありますので試してみましょう」
「これ以上飲む量増えるのか……お腹たぽたぽになっちまうよ」
今後ポーションも必要なら、ミラさんにも参加してもらう必要がありそうだな。
――
高台に立って、領地を眺める。
もう収穫は終わりを迎え、残っているのは甘みを蓄えさせているてん菜と、裏で栽培してるジャガイモ。やや放置ぎみのニンジンぐらい。
領地では冬と戦争に備え、できるだけの食料を蓄え、保存している。凍らせれるものは氷室に、長く持つ豆や麦は屋敷の倉庫に。
人々は干し肉やドライフルーツを作り、ほんの少しの贅沢に果実酒や砂糖を味わい、もう少し腹を満たしたいときはタコや芋をつまむ。
オレがこの一年でやった事は、どれも小さなことばかりだ。
芋を掘り、タコを捕まえ、野盗を更生させ、木を切り、スライムで実験し、ツクヨのドタバタに付き合った。
あいつが来てからずいぶん色んなことがあったが、まさかヤクザの親分にされるとは思わなかったな。
「……いい風ね」
そしていま、オレには家族がいる。愛する人とはまだ家族にはなれないが……社会的な定義なんてどうでもいい。
「ビィ……この戦争が終わったら……」
「うん?」
危ない、これは死亡フラグだ。またよく考えずに口にするところだった。
「いや、今だな。今、結婚しよう」
「結婚って?」
「二人で家族になるってことだ。子どもがいなくても、オレたちで決める」
「……うん」
ビィの手を握り、体を抱き寄せる。
「私、上高野翔は、病める時も健やかなる時も、ベアトリクス・ハイランドを愛する事を誓います」
久しぶりに、本名で名乗った。
「私、ベアトリクス・ハイランドは、病める時も健やかなる時も、上高野翔を愛する事を誓います」
こうした儀礼的な対応が即座にできるあたり、さすが魔女の領主さまだ。
「愛してる、ビィ」
「私もよ、カケル」
南から吹く風が、オレたちの誓いを優しく撫でた。
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