表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/66

火薬の匂い

「じゃあトッド、元気でな。漁村に行っても法度を守って、必ず家に帰ってこいよ」


「うす。アビ様とツクヨの姉御、それに聖女様……皆さんの命の恩義に報いるため、誠心誠意尽くしてきやす」


 トッドは快復した後、教会で今までの行いを懺悔しに行った。告白を聞いたアリエス神父は、少し困りながらも漁村での労苦と言う導きを決めた。


 領地に置けない理由は二つ。彼の罪状の重さと、聖都の目から逃すためだ。


「彼はしばらく領地にいない方がいいでしょう。うまく聖都の目をかいくぐれば、懺悔した後にミラが治癒したことにできるかも知れない」


「アリエス神父は、黙っていてくれるんですか?」


「私はミラがそちらに行くとき、『内緒ですよ』と言われたので……ははは」


 苦笑いしながら答えたアリエス神父を見て、オレは感謝の念とともに、あぁ中間管理職ってこんな感じだったな……と思い出した。


 トッドを監督する代官も結局ビィの部下なので、今後はトッドに日ノ本一家支部を作らせ漁村の活動を仕切ってもらう。元々トッドに逆らえる人間なんていなかったらしいので、まぁ大丈夫だろう。


 そしてトッドが抜けた刀組に、意外な人物がやってきた。


「俺に盃をわけちゃもらえねぇか?」


「それは構わないが……わざわざオレを頼らないでもダグラスなら領民になれるだろう?」


「刀組は俺の歩兵団に組込む事になるが、今のままじゃ背中を預けるにはちょいと具合が悪い。それと……」


「ふむ」


「俺の子を宿した女がいる。そいつに家を与えてやりてぇ。俺はこっちに身内がいない。俺が死んだら、後を頼みたい」


 これが、この世界の戦士か。死生観が全く違う……死を当然に受けいれ、残る家族のために戦っているんだ。


「わかった、盃を交わそう。ただ……」


「なんだ?」


「ダグラスみたいな男に、親父と言われるのはちょっと抵抗がある。弟分でも構わないか?」


 だってオレよりでかいし年上だし、めちゃくちゃ強くてもうすぐ子持ち。男として全部負けてる。


「別にどっちでも構わねぇが……なんか変わるのか?」


「まぁ、扱いがちょっと上ってことで」


 と言うわけでダグラスには今後刀組の組長を務めてもらうことになった。嫁さんはうちで働いてもいいし、外に出てもいい。好きにさせれば良いだろう。


 ――


「おかしい、奴らあまりにも動きがない」


 飯時にエルゥが疑問を口にした。


「こっちが準備万端だから、手が出せないとか?」


「いや、それでも奴らはこちらを襲撃して糧食を得ねばならん。軍というのは『金食い虫』で『大喰らい』だ。大隊を組み、遠征させたなら必ずや戦果をあげねば成り立たん」


「まぁ300人っていったら、ハイランドの半数だもんな」


「そうだ。それ故、奴らは滞在すればするほど不利になる。我らは領地で賄えるが、奴らが得られる食料など皆無だからな」


「それなのに、攻めてこないと」


「なんでかしらねぇ?」


 ビィも家臣団もみんな頭にクエスチョンマークを乗せてる。エルゥが分からない軍事のことなんてなぁ。


「基本から立ち返って考えてみよう。フロストランドはなぜハイランドを攻める?」


「奴らの国が極寒の氷土だからだ。作物はろくに育たず獣は少ない。海と山の恵みだけでは生きていけず常に南下政策をとっている」


 なるほど、完全に生存競争だ。この時点でもう和解は無理だな。


「人数はどれぐらいだ?」


「正確にはわからんが……エセルの十分の一にも満たない小国だ。ハイランドが襲われることはあっても、聖都が出れば必ず勝てる。そういう立ち位置だ」


「じゃあ奴らも略奪以上の目的はあんまりないわけか」


「それだけに、関所を奪われたのが痛いのだがな」


「それなのに、初戦以降、略奪をしてこない?」


「哨戒同士の小競り合いはあっても、本隊が一向に動かん」


 なんでだ? 


 奴らには銃がある。こちらも余分な人数は用意できない。たとえ騎士や貴族が少なくても、同数なら銃を持ったフロストランドの方が強いはずだ。


 そもそもだ、奴らはなぜフリントロック銃を持っている? オレやツクヨのような漂流者から現物を手に入れたのか?


 イレギュラーな要素を廃して考えるなら、元々開発は進んでたってことだが……


 フリントロック銃ができるまで実戦投入しなかった理由。火縄銃やマスケットでは火にも水にも弱いから? いや、貴族に弱くても一般兵に強ければ十分だろう。


 だとしたら、資源的な制限があって大量に作れない。これはありそうだ。


「ノース山脈では何の資源が採れるんだ?」


「石炭、鉄などの金属がメインだ。あとは……ダンジョンがあるぐらいか」


「特別なダンジョンか?」


「いや、ただデカいだけのスライムの巣だ」


 特別たいしたことはないか……西のダンジョンと同じなら魔石と、蝙蝠の巣から採れる硝石ぐらいだ。


 まて、硝石と石炭がある。もう一つで……


「温泉だ! ノース山脈の関所の近くには温泉がある!」


「……? 温泉のために攻めてはこんだろ」


 これが、火薬の製法を秘匿したツケか。


「温泉では硫黄がとれる。製法がある他の材料と違って替えの利かない、火薬の材料だ」


 重要な硝石はおそらくダンジョンにある蝙蝠の巣から、硫黄は温泉、炭は作り放題。銃に使う金属もある。


「奴らはあそこで、銃を作ってるんだ……!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ