癒しの呪い
「それでは、新防具の耐久テストを行う。ダグラス、前へ」
エルフィンの声に巨漢のダグラスが応じ、訓練用の杭に向かって大戦斧を構える。
――ブォン!
バキメキと音を立て、革鎧をかぶせた杭は大きく折れ曲がった。
「衝撃耐性、不可。次、弩」
同じく革鎧を被せた杭に、至近距離からのボウガンが放たれる。
――ダンッ! ダンッ!
ボウガンの矢は革鎧を貫通するも、杭には傷をつけるだけで刺さらなかった。
「貫通耐性、有効。次、炎」
ブレイの炎が革鎧を包む。やがて火が落ち着くと、鎧は焦げた程度ですんだ。耐火要素として粘土や灰を少々混ぜたのが良かったらしい。
「炎耐性、並」
新素材セルロースちょいファイバーを塗り重ねた革鎧の耐久テストは、あまり良い結果とは言えなかった。
「貫通耐性はあるが、採用には足らんな」
「いや、ちょっとまってくれ」
「どうした、ダグラス」
「俺が革鎧を切れなかったなんて、初めてだ。杭も曲がっただけで切れてねぇ。普段はどっちもぶった斬れる」
「ふむ……衝撃が強すぎただけで耐性は十分と言うことか」
単にダグラスが規格外だっただけらしい。その後、ブレイやエルゥも試し、コストの割に軽さと耐久が両立されている点が評価された。
「運用上の課題は、水と腐食だ。植物由来だからその辺はどうしようもない。とりあえず今年を凌ぐ程度と考えてくれ」
「わかった。一般兵の革鎧の補強と馬鎧に採用しよう。プレートの裏打ちにも良さそうだな。まだ作れるなら盾や木組鎧も検討しよう」
「……やった!」
オレはドリと手を叩いて開発成功を喜んだ。
――
さっそく、日ノ本一家のわらじ組総出で、セルロース液の作成と鎧の加工をはじめた。
「とにかく内臓の保護が重要だ。胴を重点的に塗っていってくれ」
鍛冶屋が本業で忙しいためミキサーの増量はできない。手作業でひたすらてん菜を切り刻むところからの作業を、みな黙々と担当してくれた。
銃で撃たれたトッドはまだ復帰できていない。もう三日も高熱でうなされており、治癒熱か感染症か不明のままだ。いかに施術が完璧でも、内蔵に鉛を食らったダメージは計り知れない。
「抗生物質があればな……」
「悪いがお望みの薬はまだ作れそうに無いね。青カビを狙って育てるのも、それだけ取り出して薬にするのも目処が立たねぇ」
ツクヨで無理なら、多分今の環境で抗生物質が作れないんだろう。ドクダミとオレの血だけが頼りだ。
「カケル、アヴィも何か手伝えますか?」
「うん? そうだな……」
アヴィは呪殺魔法で麻酔的な魔法が使えた。それ自体かなり今後有用そうではあるが……その前に確認したいことがある。
「アヴィ、ひょっとして治癒できたりしないか?」
「……いえ、アヴィは呪殺の魔女なので……」
アヴィの表情が沈んだ。良くないことを聞いたのかもしれない。
「なぜ……アヴィに治癒ができると思ったのです?」
「なんか、最近詠唱が聞き取れるんだよ。それもアヴィとミラさんだけだ。生体魔素変容とかなんとか」
「……少し、場所を移しましょう」
アヴィと二人、オレの部屋へと移動した。
――
「……確かに、アヴィは幼い頃、治癒の奇跡を授かり、訓練もしました。ですが、ある日治癒が呪いに変わったのです」
「呪い……」
「光は暗く、治癒は傷を膿み悪化させる呪いへと変わりました。それからは治癒とは無関係を装う約定のもと、呪殺の魔女と名乗ることになったのです」
「先住民云々はカモフラージュだったのか……」
「そうです。治癒が呪いに変わるなど、教会の信仰にとって悪影響なのです」
これで詠唱の謎がわかってきた。オレの魔法が治癒と同系統だから概念理解が進んでるんだ。
「アヴィ、呪殺の魔法は治癒と同じ魔法なんじゃないか? たぶんエルフィンが風を動かすか留めるかの違いと同じだと思う」
「……そうなのです?」
「たぶんな。治癒の光も暗くなってるから、魔力の向かう方向が逆なんだろう」
オレの耳にはミラが正相、アヴィが負相って聞こえてたから、たぶんアレが方向性を定めてるんだ。
「けど、アヴィはどうやっても治癒ができず呪いになるのです」
「その辺はオレにはわからないが……共通点から察するに、治癒も呪いも身体に作用する魔法だ。アヴィがやった眠らせる魔法、オレの国じゃ麻酔っていって外科医療じゃかなり有効な技術だぞ」
「でも、治癒院で呪殺など使ったら、大問題なのです」
「そこだよな……その黒い光を抑えられたら誤解もとけると思うんだが。あと、これはもしかしたらなんだか……」
アヴィの魔法が生体に害として作用するなら
「体の中のほんの小さな弱い生物だけを殺すような、そんな魔法使えないか?」
抗生魔法として、生まれ変わるかもしれない。




