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火の薬

「それで、フリントロック銃とはいかなる武器だ?」


 オレは騎士団の集まりに呼ばれ、エルゥらに銃の概念と構造を伝えた。


「で、火縄銃との大きな違いはその名の通り『火打石』が起点となってることだ。火花で火薬を炸裂させて、弾丸を放つ」


「実際に見たのはブレイズ卿だったな。どうだった?」


「……アレを目の当たりにした時は、なにが起きたのか全く分からなかった。敵が馬上から武器を構え、一瞬火花が散ったと思ったら、大きな音がしてトッドが倒れたんだ。弾丸も、軌道も見えなかった」


 ……やはりフリントロックだ。携帯性も速射性能も高すぎる。もしかすると、もっと先の……。


「カケル、対抗策はあるか?」


「……銃の脅威は三つある。音と威力と射程だ。人馬が怯み、近〜中距離において騎士の装甲や馬を貫くほどの威力がある。近づくのは危険だ」


「……そんなものがあったら、騎士の戦いが」


 ブレイの不安は的中している。歴史において、銃が殺したのは騎士という存在そのものだ。


「敵が銃を持つならこちらも使えばいい。聞く限り構造は単純だ。造れないか?」


「オレはフリントロックの仕組みを再現できるほど熟知していない。火縄銃でもそう簡単じゃないだろう。それに、火薬は手に入るのか?」


「……いや、錬金術師がいないと無理だ。火の薬は製法が秘匿されている」


 ブレイが答えた。


「秘匿? 教会が法律で禁止してるのか?」


「王国法だ。 危険物として製作、取り扱いのルールがある。冒険者時代に使ったことはあるが……高価な割に音がする程度の代物で、二度は使わなかった」


 危険物取扱資格みたいなもんか。言われてみれば妥当だ。


「一応材料は知ってるが……勝手に作るのはまずそうだな。毒の栽培と同じ匂いがする」


「どちらにせよ、今すぐ手に入らないならどうでもいい。厚手のプレートに加えて、馬の甲冑も用意せねばならんな」


 重装騎兵化か……相当コストがかかるだろうな。なんとか対抗策を考えないと……。


「すまない……オレがもっと前に火薬や銃のことを伝えていれば……」


「別にお前のせいではない。むしろ今はその知識が助けになっているのだから気にするな。過度の謙遜は美徳ではないぞ」


「そうは言っても、オレは……知ってて黙ってたんだ」


「お前が秘匿すべきと考えていたなら、それは罪ではない」


 あ、なんかジーンと来た。考え方は教会の教えだろうが、エルゥの言葉で少し気が楽になった。


 ……そもそもエセルではなぜ銃が開発されなかったんだろう。もともと火薬の知識があるなら、単純な構造の銃や大砲は作れたはずだ。誰も思いつかなかったのか?


 ……いや、逆だ。オレはまた勘違いしてる。てん菜で学んだじゃないか、知らないことならともかく、既知の技術ならオレより本職の方がもっとずっと詳しい。


 国家主動で火薬を生成する錬金術師がいて、危険性も理解してるなら、その先まで見えてるってことだ。つまり……


「オレの考えは……あってたんだ」


「……うん?」


「火薬や銃は、既存権力を脅かすんだ。騎士や火の魔法より強くて、量産できて、誰でも使える。だから禁制品にされた」


「火の一族が、火の薬を恐れたといいたいのか?」


「銃の脅威まで把握してるかはわからないが、火薬に関してはそうだろう。逆の可能性もある。単純に考えれば、火と火薬は相性抜群だ。うまく使えば、爆裂級の魔法と同等の威力を出せるだろう」


「それを……水と風の貴族が恐れた」


「あるいはその両方だ。両者の思惑が合致した結果、教会は禁制品とすることを許可した。この仮説、どうだ?」


「……事なかれ主義の聖都連中が考えそうなことだ。奴らにとっては、開拓最前線(フロンティアライン)で戦う人間の事より、権威の失墜の方がよほど重要だろう」


「思い当たることがある……オレの親父、サー・ベイオウルフが野盗の巣窟で火薬を見つけた時、ひどく不機嫌になって執拗にそこを焼いたんだ」


 ブレイの実家は聖都の名門だっけか。推理は当たってそうだ。


「まぁ……だからなんだって話だよな」


「火薬を勝手に作らなくて良かったではないか。外と睨み合ってる時に、内部から崩されてはたまらん」


「それもそうか」


 答えは出なかったが、オレの頭はすっきりした。


 ――


 最近、毎晩誘ってくるビィとの夜の会話。


「で、銃の対抗策を考えないといけないんだよ。そんなに鉄があるわけじゃないし、代用品を考えないと」


「カケルも気をつけてね……? 弾が中に入ったまま治癒したら、大変なことになるんでしょう」


 ビィが指先で体をなぞってくる。今日のビィはなんかエッチだ。


「それなんだよな……鉛玉ってのがキツイ。毒なんだから教会に禁止させてくれ」


「じゃあまずはフロストランドにミラを送って、エセルの教えを広めないとダメね」


「なんでミラさんなんだよ……せめてアリエス神父だろ」


「冗談よ」


 うそだ、いま眼が笑ってなかったぞ。


「そうそう、話は変わるけど、飼料があまっちゃってるのよ。何かいい使い道無いかしら?」


「あー、家畜減らしたから増えた飼料が使い切れないのか。てん菜なら繊維だし、紙とか作れないかな?」


「紙はいいわね! 飼料より嬉しいかも。加工場作る?」


「いや、見切り発車はもう懲りたよ。和紙の作り方知ってそうなツクヨに相談して、ドリに手順化してもらおう」


「カケルは人を使うのが上手よね」


「ビィには負けるよ」


 他になんかないかな……繊維質……セルロース……


「……セルロース・ナノファイバー」


 キョトンとしたビィの横で、オレはまたしても名前しか知らない科学の叡智へと、手を伸ばそうとしていた。

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