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最初の晩餐

 椅子でうたた寝していたオレはメイドさんに起こされ、屋敷の食堂へ。ベアトリクスとアビゲイルが先に待っていた。


「どこに座ればいい?」


「私の近くに座りなさい」


「じゃあまぁ、遠慮なく……」


 大きいテーブルには平たいパンとスープ、果実、水差しが並べられ、ベアトリクスの横に焼いた肉の塊がどでん乗せられている。


「アビィはお肉を食べないのでカケルがいっぱい食べるのです。」


「食料難なのにいいのか?」


「私はハイランドの領主よ? 客人を満足させられなかったら沽券にかかわるわ」


「薄いスープが嫌だって泣いてたじゃないか、従者になるって決めたんだし無理しなくていいぞ?」


「……もう! 従者なら主人の気持ちくらい察しなさい! 肉抜きにするわよ、バカ!」


「カケルは無礼なのです。こんなポンコツでもお姉様は領主なのです。他所で言ったら水責めの刑なのです」


「悪かった、本当は腹ペコだから水責めも肉抜きも勘弁してくれ」


「よろしい。汝の主たるベアトリクスが恵みを与える」


 ベアトリクスが肉を切りわけオレの分のパンに乗せていく。が、あまり上手く切れておらず、見かねたメイドさんが切り分け始める。結局俺の分だけぶつ切り肉で、他には綺麗にスライスされた肉が分けられた。


「「恵みに感謝を」」


 メイドたちにも肉が配られると、各々肉乗せパンを手づかみで食べ始める。串もあるようだが、思ってたよりワイルドだ。


「どうしたの、たべていいのよ? カトラリーが必要なほど上品にはみえないけど」


「いや、ベアトリクスを待ってただけだ」


「それは殊勝な心がけね。それじゃ、一緒に食べましょう」


「恵みに感謝を……いただきます」


 味の感想は……まぁ、素材の味が生きているとだけ。現代舌ではもう少し味付けがほしいな。コショウとまでは言わないから醤油がほしい。わさび醤油とか合いそう。


「これ、なんの肉だ? ずいぶん柔らかいな」


「そう……? これは馬よ。戦争で死んだ馬肉を地下の氷室で保存してあるの」


 さすが氷の魔女。製氷機兼、冷凍庫なのか。肉の保存ができるのはでかいな。冷凍馬肉なら生でも良かったが……それこそ悪魔呼ばわりされそうだな。


「氷室があるなら狩りさえできれば食料は何とでもなりそうだな」


「えぇ、はやく狩りに行きたいわ。人手は確保できそう?」


「流行り病はなんとかなると思う、一、二週間もすればみんな動けるようになるんじゃないか?」


「それはうれしい知らせね。詳しく聞かせて?」


 オレはシスターミラとの話を伝えた。


 ――


「……ミアズマの話が本当ならすごいことだわ……」


「ちょくちょく様子を見て、治療院で効果が確認できれば、領民にも普段から手洗いを推奨してほしい。特にこんなふうに手で食べる習慣があるなら尚更だ」


「わかった、お触れを出しておくわ」


「カケルはなぜそんなにミアズマに詳しいのです? ヤマトの知恵と言いましたが、本当にヤマトから来たのですか?」


「そうだな、嘘偽りなく答えるなら異なる世界の日本からだ。そこでは魔法も魔力も無くて、代わりに科学が発展してる」


「は……? 魔法が失われた世界……?」


「そら恐ろしいのです……神に見捨てられた土地なのです」


 魔法が使える二人からすると怖い世界らしい。そしてメイドさんたちからすごくかわいそうな人を見る目を向けられている。『え、あの人の家、ご両親がいないの? かわいそう……』みたいな。


「まぁ、科学も便利だよ。この世界は科学が未発達で、オレの感覚だと千年近い差がある。逆に魔法に関しては全く無知だと思ってくれ」


「魔法学が必要なのです。アビィが教えてあげるのです」


「それより歴史じゃない? カケルは魔法が使えないんだから」


「あー、まぁどちらも聞こうとは思ってたから、それぞれ時間をとってくれると助かる。」


「わかったわ、他に聞きたいことはある?」


「そうだな……これはただの好奇心だが、ダンジョンについて聞きたいな」


「ダンジョン? 魔石が取れる魔物の巣よ。私は詳しくないから、冒険者ギルドにでも行ってみたら?」


「やっぱりあるのか? 冒険者ギルド」


 思わず身を乗り出してしまう。


「男って本当にダンジョンとか冒険譚が好きよねぇ……魔石が足りないから取ってきてくれるならありがたいけど」


「その魔石ってのはなんなんだ?」


「魔力を溜め込んだ石よ。魔力源として使えるけど、貴重品だし消耗品。私の首飾りやアビィの杖についてるものね。小さいものは教会が、大きいものは貴族が買い取るのが慣例ね」


 ふうん、魔力の外部バッテリーってことか。


「お姉様は魔力が強いのに少ないからバランスが悪いのです。魔石がたくさん必要なのです。カケルと一緒に取ってくるのです」


「バカ言わないで、アビィ。大体ディガーはどうするのよ?」


「ディガーって?」


「採掘や採取を生業とした、石と植物の専門家よ。ディガーも連れずにダンジョンに向かったって何にも見つからないわ」


 石と植物の専門家……?


「……それだ!!」


「……どれ?」


「ディガーだよ! 明日はディガーに会いに行こう!」


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