氷結水
投稿順を間違えたため修正しました 2025/02/02
「ビィ、もう氷魔法を使うのはやめないか?」
「……そんなことできるわけないわ。氷室は必要よ」
オレの提案に断固とした意思をみせるは我が主ベアトリクス・ハイランド。
「まずは、理由を聞かせてくれる?」
「……オレが氷魔法を危険視する理由だが……」
――
「……」
ビィは説明を聞き終えても、まだ目を瞑って黙していた。
「……死ぬかもしれないんだ。キミを失いたくない」
「氷魔法が危険なのは重々承知してるわ。私はそこまで未熟じゃない……それよりも」
怒ってるんだろうか。いや、それでも止めるべきだ。
「カケル、あなたには授業が必要だわ。アビィからあまり教わってないわね?」
「それは……概念がちょっとわからなくて」
「私が教えてあげるわ……ドリも魔法学は知らないでしょうから呼んできて」
「あ、はい」
なんか、思ってたのと逆方向で来たな。でもドリがいるのはありがたい。
――
いつもの黒板をおいた部屋でドリと待ってると、ビィ先生は大きな樫の杖を持って入ってきた。
「……その杖、初めてあったとき以来だな。本格的な魔法には必要だったりするのか?」
「どちらかというと逆ね。杖は威力が下がるから安全制御に使うのよ。ダンジョンでも持ってきてなかったでしょ?」
そういえばそうだった。
「カケルが来るまでは結構持ち歩いてたけど……杖より便利で温かいし」
「ああ……まぁ、魔石も付いてるし?」
うんうんと頷くビィ、杖と比較されるのはちょっといただけない。
「それじゃあ魔法学の講義をはじめます」
「はい、よろしくお願いします」
「えっと……カケルの言葉で言う『氷結水』は一旦横において、魔法の使い方を説明するわね」
「わかった」
「魔法を使うには、私は魔法を使うぞー! この魔素を使うぞー! うーん、うーん、ここに使うぞー! えいや!」
……大げさな身振りを手振りを加えながらの説明、ありがたいがちょっと赤くなってる。
「……っと、言う手順で使います……わかる?」
「すごくわかりやすいです!」
「ああ、アビィと違って全部聞き取れた! さすがビィだ!」
「……こほん、それは良かった。それでは実演します」
ビィは杖を窓に向けて詠唱を始めた。
「我は氷の魔女ベアトリクス、我は霧、我が杖の先、我は放つ、ミスト」
杖の先からは文字通り霧が目に見える形で窓に水滴を作っていく。
それに、いつもなら一部しか聞き取れない詠唱や魔法名がはっきり聞き取れた。
「今のは詠唱を簡易な言葉で、区切りながら唱えました」
「決まった詠唱があるわけじゃないんだ?」
「さっき言ってた手順を毎回淀みなく使うためのものが詠唱よ。どれだけその詠唱が自分に馴染むかのほうが大事ね」
「なるほどね……魔法の名称は初めて聞いた」
「魔法名ね……教本には詠唱も名前も載ってるし、昔は唱えてたけど……いまは流行りじゃないわね」
「あ、そういう感じ?」
「そう、あんまり叫ぶと子どもっぽいじゃない?」
「ボクはかっこいいと思いますけど……やっぱり憧れますし」
厨二病的な概念は異世界にもあるらしい。
「まぁ、これが魔法の基本。で、次はカケルの言う氷結水を見せるわ……我は氷の魔女…」
今度はいつものむにゃむにゃ詠唱。
「……フリーズ!」
杖の先端部から流れ落ちる水滴が地面に向かって流れ落ちた。
――コン、コロコロ、コロ……コロ
氷結水は白い雫となって、地面に転がっていた。
「……どう? カケルの言う水とは違うんじゃない?」
「なんですかこれ?」
「まずはよく見て、素手でさわらないようにね」
気になる。オレはそれを袖ごしに拾い上げて観察した。
「……ドライアイスだ」
「正解、知ってたのね」
翻訳も通じてる。そうか、ドライアイスだったのか……いやその理屈はおかしい。
「ドライアイスで瞬間凍結なんて起きないだろ?」
「水に入れてみればわかるわ。ドリューさん、コップを」
「はい」
水の注がれたコップに、投入してみる。すると白い泡と煙が吹き上がった。
「マジでドライアイスだ……なんで」
――ビキッ!ピキピキピキピキ
!?
水がドライアイスのあったところから放射状に凍結し始めた。
全ては凍りつかず、中で形成された雪の結晶のような氷がコップの中で浮きあがる。
「なん……なんだこれ」
「すごい……」
「それが氷結水。普段は水に混ぜて作るんだけど、こういうふうに氷結水だけだと白い膜で覆われるの」
……まてまて、順を追って考えよう。
ビィが作ったのは氷結水、氷結水は水を内部から一瞬で凍結させる。液体窒素でもあり得ない。
そして氷結水は空気中でドライアイスに覆われた。なんでだ?
……空気中にある二酸化炭素が凍結したとか? その場合、窒素は?
「……悩んでるところ悪いけど、先に私の結論を伝えるわね? カケル」
「あ、わかった。あとで考える」
「あなたの仮説の結論は正解よ。氷魔法は危険で、使い方を謝れば死を招く……使いすぎれば呼吸も難しくなるわ」
ビィは続けて言った。
「でもね、過程が違うの。氷結水は水の魔素が変容した魔法物質よ。魔素の無いカケルの世界には存在しないわ。魔素が生み出す水も、火も、風も同じ。そうでしょう?」
……言われてみれば、確かにそうだ。
「水は水でも、オレの知ってる水とは別物だったのか」
水の成分なんて調べてないし、味も普通だからなんとも思ってなかった。
「魔法学の基本よ、魔法とは魔素の変容がもたらす現象を指し、他の自然現象と区別しなければならない」
「何でもかんでも自分の概念で考えちゃだめだったな……悪かった」
「ふふ、いいのよ。いつもとはちょっと立場が逆だっただけ」
「……とはいえ、危険なら使用を制限するという話は変わらないのでは?」
ドリはいつも鋭い。
「まぁそうなんだけど……まずはお互い理解してからでしょう」
「ではボクが氷室の安全規定を作りましょうか? ヒヨコで実験させてもらえれば大体わかります。炭鉱やダンジョンでは必須ですから慣れてますよ」
「じゃあ……お願いしようかしら」
「さすドリ……」
二人のほうがよっぽど学者だな。あとで氷結水に関するレポートも作ってもらおう。
「オレはもっと勉強しないとだめだな……」
「カケルも十分かしこいわよ」
「文字さえ読めればもうすこし色々捗るんだが……」
「文字が読めないなら、教会ですよ。説法や教義で常識を知るのも、悪く無いと思いますよ?」
……なるほどね、たまにはエセリエルとやらの話も聞いてみるか。




