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後夜祭

 新年祭はつつがなく進み、三日目の後夜祭で最後の酒と肉が振る舞われる。振る舞いの肉は領主である我が主ベアトリクス・ハイランド手ずから肉を切り分け与えていくのが慣習だ。


 この時に一人一人、顔を覚えていくのだろうか。オレはそれを手伝いながら、希望者にオリーブの苗を配っていた。


「たくさん鉢植えを用意してると思ったら、みんなに配るためだったのね」


「さすがに全部は発芽させられなかったが、ちゃんとバジが土を用意してくれたから、きっと各家庭で芽吹くだろう。うまく芽吹かなくてもミラさんが手伝ってくれる」


「いいわね……オリーブの種がみんなの手で育てられて、それがハイランドの未来に繋がるなら……これからも続けましょう。新しい子が産まれたら、オリーブの苗を贈るの」


「あぁ、楽しみだな」


「さぁーて皆さんお立ち会い! 玉屋も鍵屋もございませんが、月夜の花火屋ここにあり!」


 口上を聞いて見上げれば、まるで江戸の火消しのようにハシゴに立つツクヨがいた。広場にある物見櫓から男衆がハシゴを立て、その先端で羽織をなびかせている。器用な奴だ。


「あいつ、なにする気だ?」


「これぞ音に聞こえし百裂花火! 我が御業とくと御覧じろ!」


 ――バチバチバチバチバチバチバチ


 ツクヨから放たれたいくつもの火花が夜に弾け、まるで小さな太陽のように辺りを染め上げていく。


「すごい……まるで火の華が咲いたみたい」


「ヤマトで言う花火だ。普通は火薬を使うんだが……あいつの魔法もこう言うときは綺麗でいいな」


「火薬……錬金術師がつくるって言うアレね、ちょっと火事が心配だけど……」


「まぁあの高さなら大丈夫だろ、エルゥも傍で見てるみたいだしな」


 ――バチバチバチ……パアン! パアン!


 打ち上げ花火もできるのか。飛ばしてるのはエルゥの風かな?


「上手ね、あんなに効率よく火を使える人ははじめて見たわ」


「魔法のことはよくわからんが、そうなのか」


「えぇ、火は大まかに『着火(イグニッション)』と『燃焼(バーン)』に分かれてるんだけど、燃焼は魔力維持が大変なの。あれはほとんど着火だけだから、あんなにたくさん使えるのね」


 シュボッと指先に火を灯しながら説明してくれるビィ。我が主は三属性全部使えるらしい。


「なるほどね……」


 この世界の魔法は、一部オレの科学では説明のつかない現象はあるものの、基本的には科学に準じている。


 火が起こす着火の原理は不明だが、燃焼は魔力から酸素が供給されているのだろう。


 水は空気中に水蒸気や水を生み出す。その原理は不明だが、明らかに空気中に存在しない量の水が生まれているので、魔力が水そのものに変わっているんだろう。


 風はシンプルだ。風といいつつ、あれは空気を操作している。一定の空気を飛ばしたり、引いたり、回したり自由自在だ。その特性から射程距離が圧倒的に広い。


 なら、氷はなんなんだろうか? 空気を冷やしたくらいであんな瞬間凍結は起こらない。オレの知る限りあんな凍り方をするのは……。


「……カケル、どうしたの?」


「いや、氷魔法ってどんな魔法なんだ? 理論じゃなくて、感覚で教えてほしい」


「んー……感覚でいうと、水魔法に近くて、それをもっとギュッてするの」


「水を固体化させてるとか?」


「ううん、水は別に発生させないと氷にはならないわ。氷のもとになる水があって……」


 ――それは


「……ビィ、もう氷室に一人で行かないでくれ。オレでなくてもいい、氷魔法を使う時は必ず誰かそばにいるときに使うんだ」


「そんなに心配しなくても……」


「だめだ、オレの勘だがビィが倒れるのは、魔力枯渇だけが原因じゃない、氷魔法のせいだ」


「どういうこと?」


「それをいま説明するには、言葉が足りない

 ……頼む、もし氷室でビィが一人倒れたらと思うと」


 頭を抱えるオレに、そっとあたたかい手がふれた。


「心配させてごめんなさい……言う通りするわ、だからそんなにつらそうな顔をしないで」


「あぁ……すまない、せっかくの祭りなのにな」


 ――パチパチパチパチ


 ツクヨの花火は終わり、拍手喝采を浴びながら、江戸っ子の花火師は退場していった。そして中央に組まれた薪に火が灯され、大きな篝火が上がった。人々は酒を片手に歌い、踊り始める。


「ね、私たちも踊りましょう」


「踊ったことなんてないよ」


「歌に合わせて体を動かすだけよ、ほら」


 ビィに手を引かれ、オレも踊りの列に加わった。軽快な笛の音にあわせて踊りながら、オレは氷魔法のことが頭から離れなかった。


 ――おそらく氷魔法とは……液体窒素を生み出す魔法。だとすればビィが倒れる原因は魔力枯渇だけが原因ではない。


……酸欠だ。

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