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新年祭

「カケルくん、さっそく屋台を見に行こうじゃないか!」


「カケル、トーナメントにはもちろん出場するんだろうな?」


「カケルさん……良ければ教会の聖祭(ミサ)にお越しになってください」


 新年祭、オレはお三方からおデートの誘いを受けた。もちろんオレはギャルゲの主人公ではない。好感度やデート先を考える必要はなく、仕えるべき我が愛しの主ベアトリクス・ハイランドの傍らにいるだけだ。


「カケル、私はちょっと忙しいから遊んできていいわよ」


 その主からにべもなく放り出されてしまった。まぁ外交やら儀礼的な挨拶にオレがいてもやることないしな。


 ……ただ先日のこともあって、ミラやツクヨと過ごすのはちょっとはばかられる。トーナメントで闘牛ショーするのもイヤだし、ドリやブレイらと酒でも飲みに行くかと思っていたら、二階から声がかかった。


「カケル、祭りに行くならお土産がほしいのです、買ってきてもらえますか?」


 ……アヴィはこんな日でも出かけない。確か、さっさと出かけていったツクヨの三度笠がおいてあったはず。


「お土産と言わず、一緒に見に行かないか? アヴィ」


「……いいのですか? だいぶ気を使わせますよ?」


「主のかわいい妹のためだ。望むなら人力車だってやってやるさ」


「ふふ、またエルゥに馬だ馬だとからかわれますよ」


 ――


 アルビノのアヴィは陽の光に弱く、細っこいので人混みも危ない。オレは小さな荷車を人力車に見立て、実際に引くことにした。


「なんだか恥ずかしいのです。偉そうじゃないですか?」


 三度笠に日除けのレースを取り付けたアヴィはまるで御簾(みす)を垂らしたお姫様のようだった。


「いいじゃないか、実際領主の妹だろう。荷台の座り心地はどうだ?」


 さすがに荷台そのままでは座り心地が悪かろうと、椅子を取り付けてある。突貫工事なので丸太そのままだが。


「悪くはないのです」


「それじゃ、ゆっくり進むから観たいものがあったら言ってくれ」


「行き先はお任せするのですよ」


 普段なかなか一緒に出かけることのない、アヴィとの一日が始まった。


 ――


「おう、カケルくんにアビっち! 面白いもん乗ってるねぇ!」


 さっそく屋台でツクヨを見つけた。屋台巡りどころか屋台で商売をはじめてる。


「ツーちゃんの傘を借りているのですよ、それは何ですか?」


「こりゃタコせんだ。屋台の主人がタコそのままじゃどうにもうれねぇってんであーしがテコ入れしてやってんのさ」


 鉄板で焼いているのは見た目は薄いパンだが、タコやらネギやらを細かく刻んで堅焼きにしているようだ。ちゃんと外でも食べやすいよう工夫してるあたり年の功だな。


「うまそうだな、二つくれ」


「あいよ、お代は領主につけといてやるよ」


 見た目はせんべいみたいだが、中はふにゃっとしていてあたたかい。時々出てくるタコのコリッとした歯応えがアクセントとなり、香草や魚醤の風味も良い。……タコ焼きとお好み焼きが食べたくなる。


「結構うまいな、アヴィはどうだ?」


「魚醤が香ばしいのです。パンにも合うのですね」


 小さな口でもぐもぐしてるアヴィは小動物みたいでかわいい。


 周囲では領民たちも物珍しそうに眺め、それがアヴィであることに気付くとアビ様だ、アビ様だと声が上がりはじめる。アヴィが小さく手を振るとまた小さく歓声が上がった。


「アヴィも結構人気だな」


「珍しいだけなのです。アヴィはお姉様と違って施しもしないので人気などないのですよ」


「水は使えないのか?」


「アヴィは呪殺の魔女なので」


「……そういやそれ、どういう魔法なんだ?」


呪殺(ガンド)という、始祖ハイランドが先住民から受け継いだ魔術なのです。端的に言えば、指さした相手を呪い殺す魔術なのです」


「そういうのもあるのか……氷といい、こないだの精霊魔法といい、結構三天使の以外の魔法もあるんだな」


「精霊術は精霊にお願いしてるだけで魔法ではないのです。ハイランドは元々……異端としてバニシュされた家系ですから。他所とは少し毛色が違うのですよ」


 少女の白い髪が風に揺れる。アヴィはその容貌からは想像もつかないほど、淡々と語る。


「……そうか。まぁ最北端だもんな、過去には色々あったか」


「そうなのです。それでも今は王国の庇護下で領地の保有も認められている。ありがたいことなのです」


 オレたちは雑談しながら、屋台の珍しい果実や羊の毛刈りショーなどを楽しんだ。アヴィも子どもたちに食べ物を施し、満足そうな笑みを浮かべていた。領民の喜ぶ顔が好きなのは姉妹共通らしい。


「それじゃ、次はトーナメントでも見に行きますか」


 ――


 トーナメントはすでに決勝まで進んでいた。オレは主催のエルフィンに声をかけ、アヴィを主催側の観覧席にまで案内した。


「今は流れの冒険者でダグラスという男とブレイズが戦う所だ。ダグラスは魔法こそ使えないものの巨大な戦斧(バルディッシュ)使いで、ここまで全て一撃で決めた強者だぞ」


「すげぇな、まるで関羽や呂布みたいだ」


「聞かぬ名だ、ヤマトの英雄か?」


「いや、中国だが……こっちにもあるのか?」


「ああ、中つ国か。昔ヤマトとは陸続きだったと聞くな」


「意外とそういう海外の話残ってるんだな」


「大航海時代といってな、海の向こうを目指して巨大な帆船を作り、海に出るのがはやった時期があったのさ。そしてその尽くが沈んでいった。わずかな生き残りや資料が打ち上げられ伝承として残っている」


「そうか……」


「カケルやツクヨのような異国の生存者は珍しいですが各地に残ってはいるのです」


 大航海時代後だとすると、この世界の歴史は思ったよりも進んでいるのだろうか? 海が断絶されていることが文明発展の大きな妨げになっていることは間違いなさそうだ。


「それより決勝だ。ずいぶん見合っているが、胆力に差があるな。ダグラスは炎を恐れもしないがブレイズは戦斧の間合いに入れないようだ」


 ――ブゥン


「……すげえなあの戦斧、ここまで風がきたぞ」


「アヴィよりおっきいのです」


「恐るべき膂力だ。これは掘り出し物だぞ」


 ジリジリと距離を詰められたブレイズが、意を決したように前へ出た。


「……こっちも一撃で決めなきゃ勝負にならねぇな。行くぞ、我が身は焔となりて汝を貫かん!――」


 ――ブォン!


 ――ドンッ


 周囲に炎をまとって突っ込んだブレイズだが、その炎ごと戦斧でふっとばされた。刃を保護してなきゃ体は真っ二つだっただろう。


「小せえ、小せえ……ガタガタ抜かす前に、もっと飯を食え小僧」


「……勝者ダグラス! トーナメント優勝の栄誉は汝に掲げられよう!」


 エルフィンは優勝者のダグラスの栄誉を称えにいった。エキシビションで次はエルフィンともやるらしいが、風でアヴィの傘が飛ばされても困るので、オレたちは先に退散することにした。ブレイも乗せてやろう。


 ――


 夕暮れ、治療院にブレイを預け、教会の聖祭にも顔を出した。清水と小さな果実をもらい、みんなでこの一年の豊穣と安全を願った。


「今日はいろんなものが見れて楽しかったのです。ありがとう、カケル」


「これぐらいならいつでも付き合うよ」


「では……荷車の椅子はもうちょっと改良してください」


「すまん、やっぱり痛かったか」


 アヴィははふふっと微笑み、


「今年も一年、よろしくお願いするのです」


「ああ、今年もよろしく。アヴィ」


 後に、王国戦記に残る、ハイランド激動の一年が始まった。

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