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オリーブの種

「ミラさん、オリーブの種ってお持ちですか?」


「オリーブですか? 保管してありますよ」


 オレはバジから聞いたオリーブの種をもらいに教会へやってきた。


「いくつか育ててみたいのですが分けていただけますか?」


「まぁ! それはうれしいお話ですわ。……でも、残念ながらハイランドでは育たないと思います。ローランドでも冬を越せないそうですから」


 まぁそうか。育てて無いのは育たないからだよな。


「そうですか……残念です」


「でも観葉植物としてなら教会でも育ててますから、お屋敷でも育てられると思います。良ければ苗をご用意しましょうか?」


「苗からいただけるのでしたらぜひ」


「ではこちらへどうぞ」


 ミラに案内された先は教会裏にある果樹園の保管庫で、そこに種も鉢植えもあった。どう見てもただの倉庫で苗床などは見受けられなかった。


「ではご用意いたしますので少々お待ち下さい」


 ミラは小さな鉢植えに土を用意すると、乾燥したオリーブの種を取り出しハサミで尖端を切り取った。そして両手で握りしめおもむろに唱え始めた。


「神聖教会ミラが神に代わり命の芽吹きを今ここに……」


 ……マジか。


 それは植物に対する治癒術だった。種は癒やされる代わりに発芽していた。……なんてこった、チートもいいとこだ。教会が力を持つわけだ。彼らは医と食の基盤を治癒術で支えていたのだ……。


「私では芽吹かせるのがやっとですが、どうぞこちらを」


 ミラは発芽した種をそっと鉢植えに移した。


「……ありがとうございます。教会ではこうやって種を芽吹かせていたのですね」


「そうですね、しおれても病気でなければ祈りで元気を取り戻します。治癒の務めがありますからあまり多用はできませんが、果樹の種でしたらこのように芽吹くところまではお手伝いさせてもらっています」 


「魔石があればたくさん作ってもらえたりしますか?」


「……? できなくはないですが、魔石を売って育った苗を買われたほうが良いのでは?」


「確かに。魔石の方が貴重ですよね」


「聖都なら果樹専属の治癒師もいるぐらいですが、さすがに魔石を用いることはないかと思います」


「わかりました。こちらでも種から育ててみますので種もお分けいただけますか?」


「喜んで、袋いっぱいにご用意いたしますわ」     


 やはり教会の果樹に対する熱意は相当高い。これが、領民の食志向にも影響を与えているわけか。


 ――


「と言うわけでバジ、教会の育苗はオレが思っていたのとは違ったよ。種はたくさんもらえたからこれも育ててみよう」


「へい、わかりやした」


「ただやはり冬越は厳しいそうだ。屋内の鉢植えでどこまでも育てられると思う?」


「育ちが違いますから、4〜5年かけんと実までは難しいかと」


「ふむ……じゃあ、苗だけ育てて領民にプレゼントしようか。いつか大きく育ったものを植え替えれば冬も越えられるかも知れない」


「ありがたい施しです。皆喜ばれるでしょう」


 みな信心深い人たちだ。ハイランドで育てるのは難しくても、いつかオリーブの実がなると思えばきっと良く手入れをしてくれるだろう。


 ――


 屋敷に戻ると我が主ベアトリクス・ハイランドから声がかけられた。


「ねぇカケル、春の取引も落ち着いてきたから、もうすぐ新年祭を開こうと思うの」


「祭りか。どんなことをするんだ?」


「新しい年を祝って、三日間お酒とお肉を振る舞うの。騎士主催でトーナメントしたり、領民は羊毛早刈りコンテストとか、各ギルドでその時々の催し物とか、屋台もたくさん並ぶから旅人にも領民にも人気よ」


「そりゃあツクヨが喜びそうだ。あいつ絶対祭り好きだぞ」


「そうね……」


 急にビィの顔にかげりが出た。これはあれだ。ツクヨだな。オレは鈍感系主人公ではない。好きあってる相手に同郷の親しい感じの人が現れたら気にもなるだろう。それはわかる。わかるんだがどうしたらいいのかはわからん。どうしよう……。


「カケルは、ヤマトに帰りたい?」


「あー……もちろん恋しくはある。食べ物とか、文化とか、違いはあるしな。でも自分でも不思議なことに帰りたいと思ったことは一度もない」


「そうなの? 私が無理やり召喚したから、本当は帰りたいのかなって……最近思うようになって……」


「オレは今の暮らしが好きだ。ハイランドの人たちも好きだし、今はやることがたくさんあって……いままで学んできたことで、この国を少しずつ良くしていけるという充実感がある。……それになによりビィが好きだ」


 はっきり口にする。これが大事だ。そうだよな……ブレイ。


「うれしい……でも、ツクヨさんはいいの?」


「なんであいつが出てくるんだ? 正直オレの好みとは真逆だぞ」


「……カケルの好みって?」


「髪はふわふわの金髪がいい」


「……ミラやリリもそうね」


「瞳は宝石みたいにきれいな青がいい」


「……ハイランドにはたくさんいるわよ」


「性格はおっとりしてて、物腰は柔らかいほうがいい」


「まぁ……ツクヨさんはそういうタイプじゃないわね」


 こころなしかビィの機嫌が良くなってきた。髪をくるくるしながら頬を赤らめている。かわいい。


「責任感が強くて、領民のことが大好きで、領民の皆に好かれてて、いつも人に施し、その笑顔をみて喜ぶような人だ」


「私は、頑張れてるかな……?」


「頑張ってるさ。疲れたらいつでも支える。一緒に頑張ろう」


「ありがとうカケル……大好きよ」


「オレもだ……ビィ」


 オレは迎えを待つ主の柔らかい唇にそっと口付けをした。


 ――


「でもそれって、ミラもずいぶんカケルの好みに近いってことよね?」


 正直その通りなので、嘘が苦手なオレは誤魔化すのに一苦労だった。

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