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農夫バジの挑戦

「それじゃあバジ、よろしくね」


「へい、希望を聞き入れていただきありがとうごぜぇます。頑張らせていただきやす」


 作付け準備に農夫のバジを連れてやってきたのは我が主ベアトリクス・ハイランド。バジはタコ職では無く農夫を続けたいとのことで畑を担当してもらうことになった。自分と一緒に奴隷にされていた妻と娘を置いて漁村に行きたくなかったのだろう。


「まずこっちの基本的な農法を教えてくれないか?」


「へぇ、広い土地では麦、豆、牧草を順に作付して、段々みてぇな狭い畑では果実を、野菜は空いとるとこに種まく程度です。あとは教会で果樹を管理されとります」


「今は段々畑に空いてるところがいくつもあるからそこを使ってほしいわ」


「じゃあ今回は畑でも野菜を育てよう。まずはこの鉢植えで種が芽吹くまで育てて、苗が育ったら畑に植え替えてほしい」


「畑に直接は撒かないんで?」


「あぁ、ハイランドは寒い。まずは暖かい環境と栄養豊富な土で種を芽吹かせてほしい」


「なるほど……教会でやる果樹の育て方でやすね。ご従者様は農法にお詳しいので?」


「カケルでいいよ、バジ。残念だがオレは全く詳しくない、いくつか異国のやり方を知ってるだけだ。だからバジ、あなたの農夫としての経験を活かして頑張ってほしい」


「わかりやした、カケル様」


 だいたいわかった……輪作も育苗の概念もあるが、野菜に対する熱意がないんだ。果樹は教会で苗から手厚く管理され、穀物も栽培法はちゃんと研究されてる。野菜は実をつけるなら良し、無ければ家畜の餌みたいな扱いってことね。


「種はピーマン、ニンジン、てん菜、アーティチョークだ。それぞれ好みの土や温度があるだろう。芽吹かせ方はドリューが買付時の資料を持ってるから彼に聞いてくれ」


「ピーマンとアーティチョークは存じとります。ニンジンとてん菜は家畜用ですね」


「いや、普通に食いたい。てん菜は砂糖も取れるはずだ」


「砂糖……? 大根からですかい?」


「砂糖!? 砂糖なんて作れるの!?」


「てん菜があるのに砂糖作ってなかったのか……品種改良されてないものがどこまで甘いかはわからんがやってみよう」


「うんうん!」


 ビィの食いつきがすごい。やはり甘味は正義。これなら根菜の価値も向上しそうだ。


「わかりやした、肥料はいただけやすか?」


「もちろんだ、それと……アレ使えないかな?」


 オレは大量に溜まった使用済みのスライムツボをバジに見せた。


「……これはなんでやすか?」


「石膏とスライムの残骸だ。石灰がスライムと合体して出来上がったものだ……」


「石灰は肥料になりますが、使いすぎると逆に育たなくなりやす。スライムは……」


「……カケルったら、結局スライムも食べるつもりなのね……」


「いやこれは肥料だから……。一応科学的にはアルカリが中和されて石灰より使いやすくなってるはずだし、スライムも中身は蒸発して蝙蝠の骨が残ってるだけだから……大丈夫だろ、多分」


「お話がむつかしくてよくわかりやせんが、そのままでは使えんかもしれやせん。腐葉土やたい肥と混ぜてよろしいですか?」


「うん、それでいいと思う。使わなくてもいいが、余ってるし用途が肥料ぐらいしか思いつかないんだ。使えなきゃ鉢植えの代わりにでもしてくれ」


「わかりやした。鉢植えはどちらで育てますか?」


「まだ外は寒い、屋内の日当たりのいい場所がいいだろう。今は屋敷の離れを使って、必要なものがあれば遠慮なく言ってほしい」


「恐れ多いことですが、頑張らせていただきやす」


「そうそう肥料があまったら……あまり屋敷が臭くなっても困る。芽が出て食えなくなったじゃがいもと一緒に、適当な所に()()()おいてもらえないか?」


 バジの眉がちょっとつり上がった。


「……へい、芋の生える場所はよく存じとりますので、匂いが残らんよう()()()()()()()を捨てておきます」


「助かるよ、バジ」


「お任せくださいカケル様……へっへっへっ」


「ふっふっふっ」


「……二人してなに悪い笑い方してるのよ?」


 なんだかじゃがいもの為に悪代官みたいなやり取りをしてしまった。


 ――


 バジの腕は確かだった。種は全種類、その多くが発芽した。発芽しなかったのは肥料無しで育てたものだけだった。


「これはすごいな……ほぼ全部発芽してるじゃないか」


「へい、温度と肥料がよかったんだと思います。外ではこうはいきやせん。いつごろ畑に植え替えますか?」


「まだ芽吹いただけだから、しっかりと苗が育って外も暖かくなってからでいいと思う」


「思いのほか芽吹いちまって、鉢植えがたらんのですが、空のツボの水はけ良くして使わせてもらってよろしいですか?」


「いいよ、タコツボはたくさん作ってるしどうせ捨てるつもりだったから。他が育つならアーティチョークはもういいや……今後は苗床専用の小屋と鉢植えが必要だな」


「できましたら、畑のそばにお作りいただければありがたく」


「ビィに頼んでみよう。形の要望があれば相談してくれ」


「ありがとうごせぇます」


 ここまでうまくいくなら温室がほしくなるなぁ。うまく作れないもんだろうか? さすがにサウナじゃダメだよなぁ……


「こんやりかたなら、オリーブも育つかもしれやせんね」


「オリーブ!?」


「あれは暖かくないと育たんし、冬が厳しいと枯れるんですが、それでも育てられたらみんな喜びやすよ」


「種はあるのか?」


「オリーブは葡萄と一緒で南の方でよく取り扱っとります。上等な果実ですから教会が種を持っとるとおもいやす」


「ぜひやってみてくれ! 育たなかったらガッカリさせてしまうから、ビィには内緒にしとこう」


「うまくできても実が取れるのは数年先ですからね、アーティチョークを育ててると思わせておいてオリーブができたら喜ばれるでしょうなぁ」


「ふっふっふっ」


「へっへっへっ」


 野菜の作付けもうまくいきそうだし、バジとは仲良くやれそうだ。

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