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ハイランドの春

 ハイランドに春が来た。


 春と言うにはまだ肌寒いが、雪は溶け色とりどりの花が咲き始めた。花の名前など詳しくないが、黄色い花がタンポポであることだけはわかった。


 ハイランドはその名の通り、セイレム地方北方部の高地全般を領地としている。耕作は川に面した限られた地域でしか行えず、それ以外は丘陵地帯のゴツゴツとした岩場と草原が広がっている。


 ハイランドのメイン産業は牧畜だ。飢饉となれば家畜を潰すしかなかったが、いもとタコのおかげで彼らも冬を越すことができた。他にも採掘資源があるが、食料も男手も足りない中では必要最低限な石炭や粘土だけ、そしてこれからは魔石も採掘される。


 限られた耕作面積ではまかなえる人口にも限りはある。五百人ほどの現状では問題無くとも、今後いかに小さな範囲で多くの収穫量を確保するかが課題となるだろう。


 足りない作物は主に南のローランドから買い付ける。低地であるローランドは盆地・平地の肥沃な大地だ。イナゴや冷害さえ無ければ小麦、大麦、葡萄などが多く育つという。うらやましい限りだ。


 そして領主の仕事も春から忙しくなる。早速応接間にてローランド領との商取引を行うのは我が主ベアトリクス・ハイランド。


「今回は南でもかなり家畜が減りましたので羊四頭と牛二頭をそれぞれ番で、羊毛の他にチーズをもう一箱、それと干し肉を……あとはいつも通りこちらの目録から必要なものをお選びください」


「小麦がこんなに高いなんて……家畜を出しても差額はこちら持ちになりそうね。必要なのは小麦粉と大麦、ワインと……カケル、あと何か必要なものはある?」


「そうだな……作付けの時期だ、ドリに種を選んでもらいたい」


「わかったわ。それではゼンジ、先にうちの倉庫に案内してあげて」


「かしこまりました。こちらへどうぞ」


 ローランドからの商人と執事が退室し、入れ替わりにドリがやってくる。ドリは種の目録を見ながら候補をあげた。


「マメとトマトはありますから、この中ならピーマン、ニンジン、てん菜(ビート)、それとアーティチョークですね」


「……全部嫌い」


「ビィ好き嫌いするな。どれも栄養価抜群だ。てん菜はぜひ欲しい……アーティチョークってどんな野菜だ?」


「一年かけて咲く大きなアザミです。つぼみが食用で、マメみたいな味です。何回か収穫できますよ」


「一年かかるのか……いまは育てやすくて収穫が早いものがいい」


「うーん、どれも似たり寄ったりだと思います。いずれにせよハイランドで種が芽吹くかが問題ですから。アーティチョークなら自生してるので簡単でしょうけど、ボクも農夫ではないので作付けがうまくいくかは……」


「ならアーティチョークを保険に、全部の種を試してみよう」


「試すのは構わないけど、今ハイランドで育ててない種は、いままでいくら種を巻いても芽吹かなかったものよ?」


「オレも農業経験はないが……寒くて芽吹かないなら苗にしてから植えればいいはずだ」


「その苗にならないから難しいんですよ……果樹なら教会に頼めば苗を分けてくれますけど」


「畑に直接種を撒くんじゃなくて、先に鉢植えを用意して種が芽吹きやすい環境を用意してやるんだ」


「あぁ……なるほど。成育段階ごとに環境をわけるわけですか」


「まぁダメで元々だ。高騰してる麦を買うぐらいなら色々試してみよう。ホントはじゃがいもを一番作付けしたいんだけどな」


「せめておいしい果実がいい……アーティチョークなんて大嫌い!」


「だめ、もっと緑の果実も食べなさい。野菜もシチューにすればおいしいぞ。じゃがいもだっておいしかったろ?」


「ふえ〜ん!」


 ――


「カケルくん、早速いい薬草が見つかったよ」


「ほう」


 ツクヨがタンポポを満載に摘んできた。


「タンポポか。お茶になるのは聞いたことがあるが、薬になるのか?」


「お茶どころか根から花まで全部食えるよ。薬効はまだ未検証だけどね。西洋タンポポ(ダンデライオン)はヤマトと違って年中咲くらしい」


 日本だと年中咲いてたな。あれ外来種だったのか。


「検証前から薬草になるってわかるもんなのか?」


()()()くんの話と実際の生え方を見れば大体わかるよ。この花はね、()()んだ」


「ふむ」


 ひさびさに聞いたな、ドリのあだ名。


「薬草には特徴がある。それは他の植物を押しのけて育つ強さだ。その強さが薬効になるのさ。このあたりの植生にあるアザミとミントも使えるだろう」


「なるほど、確かにタンポポはどこにでも生えてたな。確かコーヒーにもなるとか」


「こーひーってなんだい?」


「えーと、お茶をもっと苦くした飲物かな」


「そんなもん飲むのかい? 物好きだねぇ」


「オレも砂糖無しでは飲まないが……砂糖ほしいなぁ……」


「こっちじゃトウキビは無理だろう? あーしはそれより米が食いたいよ……」


「やめてくれ、思い出したら恋しくなる……」


「まずはよく漬け込んだ漬物をポリッ、ほかほかの米をたらふくかき込んだらそこに昆布で出汁とった味噌汁を、ずずずぃとね」


「やめろーーー! ……って別に漬物はつくれるな。今日適当な野菜漬け込むか」


「……乗ったぜ、タンポポのお浸しと吸い物でよけりゃ作ってやろう」


 オレはツクヨと日本の味を恋しんだ。

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