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領主の快復

「ふぅ……蒸し風呂ってのもいいもんですねぇ……」


「そうよ、カケルが作ってくれたの。ヤマトの人ってみんなお風呂が好きなのよね?」


 ツクヨと二人、療養のため汗を流すのは我が主ベアトリクス・ハイランド。オレは火の番をしながら二人の会話を聞いていた。


「あーしは湯に入る方が好きですが、蒸し風呂でガンガンに汗をかくのはお身体にもよろしいでしょう」


「そうなの? 気持ちよくて、きれいになって、体にもいいなんてすごいわね!」


「えぇ、汗をかけば体の毒素も抜けていきます。薬だなんだと言っても、最後に頼りになるのはやはり体の自浄作用でやすからね」


「じゃあヤマトの人はみんな健康のためにお風呂に入ってるの?」


「健康なんて二の次で、誰も彼もただの風呂好きですがね。水風呂、銭湯、薬湯……どれもいいですが、やはり一等好きなのは温泉でやす」


「北の関所の近くには温泉があるわ。今は敵国のせいで近づけないけど、昔は家族でよく行ったものよ」


「そりゃいいことを聞きました。今すぐ関所にカケルくんを乗り込ませましょう!」


「アハハ、ダメよ。カケルは泣き虫なんだから」


「そうでしょうなぁ……姉さんが寝込んでる間はずっとメソメソしてやしたからねぇ」


「そうなの?」


「おい通訳させといて好き勝手いうな!」


「こら助平! 覗くんじゃねえやい」


「うふふ、覗くくらいなら一緒に入りましょうよ」


「いやいや、あーしもいるんですが……まぁ隣に大輪の百花美人が咲いてりゃあーしみたいなドクダミなんて目に入らねぇか。おーいカケルくん、入っていいぞー」


「入らんわ!」


 ――


 ビィが快方に向かい始めて三日後、全快とは言えないもののビィは療養を終え、屋敷の者と関係者を集め領主として快気祝いの場を設けた。


「此度、ハイランドを担う者として、皆に長く心配をかけたこと申し訳なく思う。今は皆の尽力のおかげでこのように快復した。私は再び領主の任に戻り、貴族としての責務を果たそうと思う」


 ビィは領主として厳かにその思いを伝えた。


「ベティ……良かった……本当に良かった……お前を死地に向かわせてしまったこと……私は詫びる言葉もない。もはや英霊達にも会わせる顔がない……私は騎士失格だ」


 エルゥは涙を流しながら跪き、細剣を捧げた。


「ベアトリクス様、此度のことは全て私の不徳の致す所によるもの。ハイランド家に危急をもたらした者としてどうぞ如何ようにも処分ください」


 ミラは両手の指先を合わせ祈るように跪き、頭を垂れて処罰を求めた。


「風の騎士エルフィン・ハイランド、神聖教会シスターミラ、あなた方はダンジョン討伐任務において己が役割を果たしたに過ぎません。そのような忠義者をどうして処罰などできましょうか。どうか顔を上げて、今後もハイランドのためにその力を奮ってください」


「……この身尽きるまでハイランドの為に」


「ベアトリクス様の寛大なお言葉に心より感謝申し上げます」


 二人は一度だけ顔を上げ、再度頭を垂れた。


「そして此度、病床に伏せた私のため特に尽力してくれた従者ヤマトカケル、旅の薬師ツクヨ。この両名には領主として感謝の意を示したい。その心のままに望みを聞かせてほしい」


「オレはビィの元気な姿が見られればそれでいい。これからも傍にいさせてくれ」


 あまり儀礼的なやりとりを覚える気がないオレは、ビィの隣でいつも通りの口調で答えた。


「欲のない従者をもつのも困りものだ。それでは存分にツクヨを労うとしよう」


 ビィの言葉に皆が軽く笑い声をあげ、その視線は次のツクヨに向けられた。オレはさっきの言葉をツクヨに伝えて、通訳をはじめた。


「某は旅の流れ者に過ぎません。一宿一飯の恩義に報いただけのことで、ご領主様に求めることなど何がありましょうか」


 ツクヨの言葉になんとなく違和感を覚えたオレは、ビィにだけ聞こえるように通訳した。


「そうなの? なんにもなくていいの?」


「いや……どうだろ……」


 ちらっとツクヨを見ると、やっぱりなんか困ってる。と言うかなんかオレに言いたげだ。いや、仁義なんて知らんって


「あー、多分もうちょっと聞いてほしいんだと思う」


「……? ツクヨさん、本当に何もいらないの?」


「いえいえ、とんでもございません、このような流れ者には過分なお言葉だけで痛み入ります」


「そうなの……」


 なんだよツクヨ、身振り手振りじゃわかんねえよ。


「ビィ……もう一回聞いてやって……」


「……ツクヨさん、そう言わずに私の感謝を形にして受け取ってもらえないかしら?」


「ご領主様にそうまで言われちゃ仕方ありません! 薬師が薬を作るなど当然のことではありますが、いかんせん言葉も通じぬ異国の地ではこれ生業とするのは難しく、幸いなことにこちらには某と言葉通じる同郷の者がおりまするので存分にこの腕を振るえるものと存じます! どうぞこの身を食客として置いていただけますでしょうか! 平に平に!」


 だからお前は口上が長いんだよ。


「雇ってくれってさ」


「それはこちらとしては願ってもないことだけど……まぁ後で話しましょう」


 ビィは立ち上がり厳かに宣言した。


「では旅の薬師ツクヨ。広大なるハイランドを統べるベアトリクス・ハイランドが汝に導きを与える。汝がハイランドに仕え、我が為にその力を振るうならば、我が庇護を与え、その働きに報いましょう」


「……御身の御心のままに」


 最後は訳さなくてもお互い通じ合えてるようだった。


 ――


 ツクヨとカケルの後日談


「お前もっとわかりやすく言えよ」


「だってあれじゃ、あーしだけ意地汚くみえるだろ? だからニ回は格好つけて断って、三回目には姉さんの顔を立てて仕方なく欲しいもん言うんだって」


「知らんし。なんていうかそういうやりとりこっちで見たことないんだよ。精々直接的な表現を避けるくらいで、労いとか施しとか欲しい時はすぐ欲しいって言うんだ。空気読んだりとか言葉の裏を読むとかもない。良く言うとみんな純朴なんだよ。言われたら言われたままにしか受け取らないから」


「そっかぁ……」


「そういえばこっち来て悪そうな奴とか、なんか企んでそうな奴、全然見たことないんだよな。精々イキってた頃のブレイぐらいで、あれも別に悪いことしてないし、野盗も大体がやむにやまれず食うに困ってだったし……」


「あー、そういや女の一人旅はいつも何かと狙われるんだが、こっちじゃまだ見たことねえやな」


「ひょっとしてだが……」


「うん?」


「大天使エセリエルってのは、ガチで善人しか助けなかったのかもな」


「はは、そりゃいいや。憎まれっ子は海の藻屑ってわけだ。ヤマトも是非そうしてもらおう」


「……まさかな」

(*'ω'*)ベティお姉様が元気になってなによりなのです。

(*-ω-)/呪殺の魔女アビゲイル・ハイランドが命じます。評価がまだなら評価するのです。ブクマもお願いするのです。

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