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戦いの後

「べべ様をすぐに外へ!」


「ビィ……すまない、オレがもっと気をつけていれば……」


 オレはビィを担ぎ上げ、すぐにダンジョンの外へと向かった。力なくうなだれる彼女の腕からはポタポタと血が滴っている。倒れたときに洞窟内の岩で切れたのだろう。スライムやコウモリのはびこる洞窟内での怪我……感染症が心配だ……


「……皆様ご無事で……ベアトリクス様!」


「あぁお嬢様……なんと痛ましい……」


 ダンジョンを出て待機組の待つ野営地までたどり着くと、ビィの様子に執事と侍女が顔を青ざめた。オレはすぐに明るい場所でビィの怪我を確認しはじめた。


「ビィが昏倒して腕を怪我した。傷口の確認と洗浄をするから水と火酒を出してくれ、ミラさん治療をお願いします」


「お任せください」


 ビィは右腕から倒れたらしく、肘から手のひらにかけて深い裂傷が走っていた。ミラは受け取った水で傷口を洗い流し、火酒を浸した布を傷口に押しあてる。


「……!」


 ビクンとビィの体が跳ねる。痛みで一瞬反応したようだが、意識は戻らなかった。ビィの体は驚くほど冷えており、オレは不安が胸からどんどんと広がっていた。


「……神聖教会の治癒士ミラが、神に代わって汝に施しを与えます」


 ――ミラが傷口に手を当て、その歌声のような祈りとともに、淡い光が収束していく――


「……傷はふさがりました。体温がかなり低下していますので、暖めるものを」


 各自が火と掛けるもの、温かい飲物を準備してビィの意識が戻るのを待つ。エルフィンらは家臣たちに状況を伝えた。


 ――ウォオオオオオン


 森に遠吠えが響き渡る。野犬か狼か、はたまた魔獣か……なんでこんな時に限って!


「俺達に任せろ、お前はべべ様のそばにいろ」


「私も迎え撃とう。ちょうど今……気が立っている所だ」


 フレイムウルフとエルフィンが周囲を固めた。リリやゼンジも魔石を取り出し襲撃に備えている。


 ――ガサガサガサガサ


 森の中をなにかが駆け抜けてくる、それは驚くほど早く、真っ直ぐにこちらへと向かってきていた。


 ――ハッハッハッ……ワォオオオ――


 ――ピュン!


 ――グリ


 ――ドサ


 茂みから恐ろしい勢いで飛び出してきた餓狼は、それ以上に恐るべき速さで突き出されたレイピアによって、的確に眼球から脳髄をえぐられ地に伏した。


「……他愛無い。とち狂った魔獣より、群れた野生の獣のほうがよほど慎重で手強い」


 ピシュンと血しぶきを飛ばし、レイピアはエルフィンの鞘へと戻った。その烈風の如き速さに誰もが息を呑んでいた。


「う……うん……」


「ビィ! 大丈夫か?」


 目覚めた主の体をそっと支えに行く。


「私……また魔力枯渇で倒れたのね……?」


 ビィが胸元の首飾りを握りしめ、そこにあった大きな魔石が砕けて割れていることを確認した。


「そうだ……すまない、オレがそばを離れなければ……」


「カケルが悪いんじゃないわ……私はもともと()()なのよ、カケルがいるからって、使いすぎたんだわ……」


「ごめん……もう、二度とこんなことは起こさない。必ずビィを支える、約束だ」


 オレはビィの手をしっかりと握り、誓った。


「……うん、ありがとう……カケルは、あったかいね……」


 ビィがもう一度眠りについたことを確認し、オレはビィを背負って帰路に付いた。


 ――


「ギガントスライムのいた大部屋の調査をしておきました」


 屋敷への帰宅後、遅れて夜にもどったドリからの報告を聞いた。


「大きな下穴は奥が確認できないほど深く、降りることも難しいため他の下穴と同じく塞いだほうがいいでしょう。また、奥の横穴は崖……ダンジョンの外へと繋がっていました。これでダンジョンのマッピングは完了したと言えるでしょう」


「安全も確保できそうか?」


「安全と言うには危険が過ぎますが……ごく一般的な冒険者やディガーならいくらでも魔石を採掘できるでしょう」


「領民だとさすがに厳しいか?」


「領民でも大丈夫だと思いますが、死んで困らない人にしておいたほうがいいのでは?」


「……まぁ、そういう扱いか」


「えぇ。ボクもディガーですからそういう扱いの方が慣れてます」


「オレはドリに死んでもらっちゃ困るよ」


「ハハハ、ボクだってイヤですよ」


「生きてる事に感謝を」


「ダンジョンの攻略に乾杯」


 オレ達は一献の酒を酌み交わして、ビィの頑張りを無駄にはしないよう魔石採掘の計画を話し合った。

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