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ギガントスライム

「やーだー! 絶対やーだー!!」


 巨大スライム退治を全力で嫌がる家長は我が主ベアトリクス・ハイランド。ハイランド家ではダンジョン嫌いな主人を説得すべく話し合いの場が設けられていた。


「我が家で一番の魔石喰らいなんだから我慢しろ!」


「最近使ってないもん! 魔石ならカケルがいるもん!」


「カケルの魔石だって無尽蔵とは限らないのですよ? むしろそちらこそ温存するべきなのです」


「やだぁ……ダンジョンなんて暗くて狭くて臭くて怖いとこ行きたくないぃ……」


「……ビィがこんなに嫌がってるんだ。他の手を考えよう」


「カケル! さすが私の従者!」


「甘やかすなカケル!」


 なんと言われようとオレはビィの味方なのだ。


「まぁ……ベティお姉様を危険に晒すのは確かに問題ではあるのです」


「とはいえ、話を聞く限り巨大スライムを倒せるのは氷の使い手だけだ。ヴィークがいない今、この討伐を担うのはベティの義務だ」


「お兄様……今すぐ生き返って……」


「この事業の発端はカケルだ。お前も責任をとれ」


「巨大スライムはさすがに想定外だよ。別に欲張らなくても手前の採掘でいいんじゃないのか?」


「そうよそうよ!」


「それでは足りん。フロストランドとの戦いに備え、十分な魔石の備蓄に加え、戦争のための資金が必要なのだ!」


 エルフィンは力強く続ける。


「平時なら良い、だが我々はなんとしても関所を取り返さねばならん。そのための戦力が今のハイランドには無い! 無ければどこからか調達せねばならん、そのためには資金が必要なのだ!」


「……」


 金か……あまり意識してなかったが、傭兵を雇ったり騎士を迎えるにはやはりそこがいるか。


「生石灰を対スライム石として売り出し、資金調達するのはどうでしょう?」


 ドリから別方向の意見がでる。だが……


「……多少は稼げるだろうが、それで軍をまかなうのは厳しいだろうな。有効と分かればどこも作り始めるし、なにより石灰岩がハイランドでは採れない。個人ならともかく事業単位で採掘しだせばセイレムも黙ってないだろう」


「そっか……大発見なのに残念です」


 この世界に特許があればドリは大富豪にもなれたろうに、少しかわいそうだ。


「……ベティ、一度だけだ。巨大スライムの討伐その一回だけ、お前の力を使ってくれないか?」


「……二匹目がでたら諦めてよ?」


「よし、いいんだな?」


「それとエルゥも一緒ね」


「な……」


「いやとは言わせないわよ? あなたがいたほうが『範囲』が広がるんだから」


「ぐ……わかった、一緒に行こう」


「ベティお姉様、領主は自らが戦に赴く時、治癒師の同行を要請する権限があるのです。ミラも連れて行くのです」


 ヒーラー付きはありがたい。贅沢なパーティーになりそうだ。


 ――


 巨大スライム討伐にハイランドの総戦力が集まった。氷の魔女ベアトリクス、風の騎士エルフィン、炎剣のブレイズ、盾持ちのオレとライ。


 ダンジョン入り口では待機組として家臣団から執事のゼンジ、侍女のリリ、ディガーのドリ、そして治癒師のシスターミラ。レイは待機組の護衛に回る。


「皆様に神の加護があらんことを……どうかご武運を」


 ミラが戦勝の祈りを終え、ダンジョンアタックを開始した。


「ではくれぐれも足元にご注意を、カケルとライは俺と一緒に先行して上に注視してくれ」


「わかった」


 ブレイの炎剣とエルフィンの持つ松明を灯火にダンジョン内部へと進み出す。道中はあらかじめ頭に叩きこんだドリの地図通り進む。やがて大部屋へ繋がる横穴までたどり着いた。


「この先の大部屋に奴がいます。ご準備を」


 ブレイの指示に従い、各自が覚悟を決める。盾を構えるオレの肩に、震える手が触れた。 


「ビィ、いけるか?」


「……うん」


「……よし、行くぞ!」


 大きく息を吸い進みだすと、それは待ち構えていたかのように姿を現した。自重で体を大きく波打たせながら何本も触手を延ばす巨大なスライム、オレたちが『ギガントスライム』と名付けたボスと対峙した。


「我が剣は炎!」


 延びてくる触手をブレイが炎剣で断ち切る。ブレイの手が足りないところはライがカバーする。オレはビィの前で盾を構えて仁王立ちし、魔法の発射台となる。飛び散る酸をオレが受け止めている間に、ビィが首飾りを左手に、右手をオレの肩に乗せて詠唱を開始した。


「我は凍てつく氷……」


 エルフィンが合わせる。


「我は一陣の風……」


「「我ら万物を凍てつかせる氷華の旋風!!」」


 ビィの腕から途轍もない冷気が放たれ、それをエルフィンの風が更に押し込む。極寒の吹雪の如き風が洞窟内に吹き荒れる。ブレイの炎剣が揺らめくと同時にかき消され、ギガントスライムの姿は暗闇に消えた。


 敵の姿が見えなくなるも、ビィもエルゥも限界まで魔法を放ち続ける。滴る地下水すらも空中で凍りついていき、やがて限界に達したようにビィの魔力放出が止まった。


「……やったか?」


 オレは凍りついた盾ごしにスライムの姿を探す。やがて暗闇の中からカシャンと音を立てて何かが崩れ落ち始めた。


「我が剣は炎……」


 再度、ブレイの剣に炎が灯ると、前方には巨大なスライムの氷像が出来上がっていた。


「とんでもない威力だ……これがハイランド貴族の力か……」


 オレ達は慎重にそれを砕き、飛び散った破片が粉々になるまで踏み潰した。


「やったな!」


 オレはブレイとライの二人と手を叩き合う。


 ――ドサリ


「ビィ?」


「ベティ!」


 その音を聞き、オレは自分が役割を間違えていたことに気づいた。オレはもっとビィの状態を気にかけるべきだった。もっと早く振り返っていれば、魔力枯渇で倒れる彼女を支えることができていたはずなのに。

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