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森の開拓

 カーン……カーン……


 オレは男衆と一緒にもくもくと斧を叩きつけている。西の森からダンジョンに向けての道を切り拓き、冬越えの薪を集めるために。


 カーン……カーン……


 森には魔獣と呼ばれる獣が出るらしい。通常、人数を集めて森に入れば、森の生き物は人を避けるものだが、それらはなぜかどんなに人がいても襲ってくるのだという。


 カーン……カーン……


 その中で特に危険なものは黒妖犬(ヘルハウンド)狂狐(マッドフォックス)闘猪(バトルボア)餓狼(がろう)などと呼ばれ、ミアズマに憑かれた獣なのだという。それらに噛まれた人間は高い確率でミアズマに侵され、時としてなす術なく死を迎えるとか……


 カーン……カーン……


「狂犬病だとしたらやばいよなぁ……狐はエキノコックスみたいな寄生虫ありそうだし、野生の獣怖ぇ……」


「森の獣如きに怯えているのか? そんなことでは冒険者にはなれんぞ」


「ならねーよ」


 軽口を叩くブレイだが、護衛にこいつがいるとかなり安心感がある。もちろんレイやライも頼りになるが。なんというか『強い俺様が守ってやる』と言うオーラを感じるのだ。ま、実際剣が使える火炎放射器だしな。


「大丈夫よ、カケル! 何が出ても私が守ってあげるから!」


「一番襲われたら危ないのはビィだって……」


 負けじと肝っ玉な母性を溢れさせているのは我が主ベアトリクス・ハイランド。貴族的には自分たちのために働く領民を守るのがノブレスなオブリージュなのだろう。


 森を切り拓くのはハイランド家の事業なので時折こうしてビィやエルゥが顔を出しては激励している。領民のやる気が段違いに上がるので実際効果的だ。


 カーン……カーン……


「ま、この辺りはまだ安全だろう。魔獣どもはダンジョンの近くに巣食うのが常だからな」


「ダンジョンの近くか……それ、スライムが原因じゃないのか? 聞く限り魔獣はミアズマに侵された普通の獣っぽいが」


「そういう噂もある。だがスライムがいないダンジョン……例えば蜘蛛型のダンジョンであってもやはり周辺には魔獣が出るらしい」


「じゃあ、また別の生き物……コウモリやネズミあたりが媒介してる可能性があるな。あるいは魔石か……」


「それもヤマトの知恵か? 教会でも聞いたが、ミアズマにずいぶん詳しいそうじゃないか」


「まぁな。原因がオレの知ってるミアズマと同じなら生き物を狂わせる病気だろう。それは唾液や血液から感染する可能性が高い。だが、明らかに生物として理が異なる『魔物(スライム)』が存在している以上、それが正しいとは限らない」


「……もし感染したらヤマトではどうするんだ?」


「傷口は洗浄して、医者に診てもらい、薬があればそれを飲むが……なければ神に祈るしかない」


 せめて抗生物質があればとは思うが、ペニシリンが青カビから作られるって知識だけではどうしようもない。


「……結局はそれしかないか」


「薬師がいればな……悪いがオレに薬を作る知識はない。ダンジョンではネズミやコウモリと侮らず噛まれないようにしてくれ」


「言われるまでもない。そのための革鎧だ」


「キャア!」


「ビィ!?」「どうした!?」


「ヘビ、ヘビいるぅ……」


「毒のあるやつか?」


「わかんな……――スパッ――い?」


「斑文様のヘビ……死ぬほどではないが、噛まれれば高熱が出る類いの毒蛇です。お怪我がなくて何より」


「あ、ありがとうブレイズ」


 なんて素早い対処! 最近ブレイの評価がうなぎ上りだ。


「ブレイ、そのヘビ食えるか?」


「あ……? いや毒があるって言ったろ」


「毒があるのは牙だろ? 身には普通、毒はない」


「なん……なにを言ってるんだお前は……」


 オレはブレイが切断したヘビの頭を掴み、牙を引っ張り出した。


「ほら、牙から毒液がでてる。この牙に毒腺が繋がってるんだ。そこ以外ならまぁ大丈夫だろう」


「カケル……食べるの?」


「血と皮は避けるよ。身だけ焼いて食ってみる、ヘビ肉を食ったことはないが、うまいらしいぞ」


 オレは皮を剥いて血抜きし、枝に巻いたヘビを焼き始めた。火付けのブレイから訝しげな目が刺さる。


「……? そんなに変か? 冒険者ならヘビなんて良く食いそうなもんだが」


「……飢えていれば食うこともある。だが今はそうじゃないし、何よりそれは毒持ちだ。逆になぜお前は領主の従者でありながら、わざわざそんなものを食おうとするんだ?」


「なんでかな……長い目で見れば食料に余裕があるわけではないこと……それに、命に申し訳がないことだな」


「……それはべべ様を狙った毒蛇だぞ」


「別に蛇にそんな意志はないさ。蛇が人間を噛むのは食うためじゃない、怖いからだ」


「……」


「蛇から見ればオレ達は住処を荒らす侵略者だろ? 襲われても当然だが、襲われたらこっちも殺すしかない。殺したなら、その命を無駄にするべきじゃない」


「野盗の時にも、そんなことを言っていたな」


「そうだな、食えるなら食わないともったいない」


「お前の考え方はわからん、わからんが……間違ってはいないと俺の心が言っている。俺にもよこせ、俺が殺した獲物だ」


「じゃあ、半分こだ」


「カケル、私も一口食べていい?」


「あぁ、一緒に食べよう」


「……うまくはないな」


「まぁ素焼きだしな。タレがあいそうだが……」


「だが歯応えはいい、命を食ってる感じがする」


「いいな、その言い回し」


「命の恵みに感謝を……」


 ビィが祈り、オレたちも続いた。


 ――


 その夜、ビィから熱烈に誘われオレも止まらなかった。詳しくは省くが、すごかった。


「またあのヘビが出たら一緒に食べようね?」


「そ、そうだな……」


 今後は気をつけよう。

ドリの生物メモ:森マダラヘビ 危険度中 牙に毒アリ 症状:発熱、嘔吐、意識白濁 肉は食用可、精力増強効果大

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