郷に入っては郷に従え
「カケル、おはよう! 今日の予定は?」
陽が昇る前から元気いっぱいな屋敷の主人は我が主ベアトリクス・ハイランド
「ああ、おはよう。今日は昼にギルドでフレイムウルフと会うぐらいかな」
「盾の訓練をするのね! じゃあ朝ごはんいっぱい食べないとね? 鹿肉の美味しいところ出そうか?」
「ハハ、起き抜けにそんなに食べれないよ……玉子取ってくる」
「うん!」
――
「オムレツおいしいね! カケル」
「ああ、パメラさんの料理は流石だな。オレが作るより数倍うまい」
「カケル聞いて、さっきアヴィを起こしに行ったら、またエルゥと一緒に寝ててね……二人してめんどくさいからご飯持ってきてって言うのよ!」
「二人とも朝に弱いな。オレも人のことは言えないけど」
「うん、それでね……」
――
「ねぇカケル、もうギルド行くの? パン持って行く?」
「いや、まだだけど……パンは大丈夫だ。あっちで何か食うよ」
「そう……あ、そうだ、お小遣い用意しないとね?」
「……前のがまだ残ってるから大丈夫だよ」
――
「ねぇねぇ、カケル」
「なんだ?」
「ベイオウルフ家から手紙がきててね、ブレイの……」
――
「それでね、ミラを労いに行ったらサラサがいたから……」
「……うん」
――
「カケル! さっきね……」
「あぁ……すまない、もうギルドに行かないと」
「そっか……夜はお肉用意しておくからね」
「わかった、楽しみにしてるよ」
「行ってらっしゃい、カケル」
「行ってきます」
――
「……べべ様がずっと付いてくる? ……立場が逆じゃないか?」
オレは冒険者ギルドでフレイムウルフらに最近のビィの様子について相談していた。
「いや、そうなんだが……ビィの方が忙しいだろうに、隙を見ては話しかけて来るんだ」
「親しくていいじゃないか、何が不満だ?」
「不満というわけじゃないんだが……どうしたらいいかわからん……」
「まぁ俺だって女に四六時中ベタつかれるのは好かんが……まて、お前べべ様と何があった?」
「何がと言われると……その、先日告白した」
「……は?」
「……分不相応なのはわかってる」
「そんなことを言ってるんじゃない……お前、そんなの漁村でとっくに済ませてるんじゃなかったのか!?」
「な、何言ってるんだ? あの夜はビィが怖くて眠れないって言うから一緒に寝ただけだ!」
「……レイ、ライ、どう思う?」
「信じられん」
「……文化の違いじゃ済まねぇなぁ」
「ホントに何もしてない!」
「何もしてないのが問題だって言ってるんだ……真夜中に女が寝所に訪ねてきて! 翌朝から親しげに特別な愛称で呼び合う! 誰がどうみてもそういうことだろうが!!」
「あ……そうか」
「あんなにあからさまだから俺だって特に触れなかったものを、まさか何もしてないとは……それで? 何を告白したって?」
「……あ、愛してると」
「声をはれ声を! ガキみたいに恥ずかしがるな! お前俺より年上だろうが、聞いてるこっちが恥ずかしくなる!」
「こっちの文化に慣れてないんだって! オレは家族にだって好きだの愛だの滅多に言ったことがない!」
小学校の頃、幼馴染にうっかり好きと言ってしまって大失敗した記憶がよみがえる。
「はぁ〜、だいたいわかった。それで? べべ様との距離感が近くなりすぎて戸惑ってると」
「そうなんだ……オレはただでさえ元の国でも無神経とか朴念仁とか言われてきたから、どう対応していいかわからない」
「妙な比喩を……まぁ意味はわかるが。別にこっちだって平民ならそういう男の方がむしろ多い。女から話しかけても『……ん』とか『わかった』しか言わない奴。ライなんかそのタイプだ」
「……んむ」
「しょうがねえ、貴族や騎士の男らしい対応ってのを教えてやる。これさえ覚えりゃ女なんて一発で静かになる」
「ほ、ほんとか!」
「あぁ、帰ったら抱きしめながらこう言ってやれ、いいか……」
――
「おかえりなさい! カケル」
「ああ、ただいま」
玄関口まで迎えに来たビィをそっと抱きしめる。よし、言うぞ……言うんだ……恥ずかしいことじゃない……。
「……カ、カケル?」
「……今日もかわいいなビィ。こ…今夜はお前を抱いて眠りたい」
「……!」
言った! 言えた! ビィも顔は赤いが嬉しそうだ。
「もう……カケルったら、そんな文句どこで覚えてきたの……? エルゥの真似? それともブレイズ?」
ビィが腕の中ですごくもじもじしてる……かわいい!
「……ブレイに教えてもらった」
「もう、男っていつもそういう事ばっかり話すんだから、もう、もう」
顔を真っ赤にして腕から逃げ出すビィ。
「じゃ、じゃあ私、夕ご飯の準備手伝ってくるから! また、あとでね! 汗流してからゆっくりでいいからね!」
「あぁ……わかった」
ビィの方から、離れた……こういうことか……ありがとうブレイ。心の中でお前を兄と呼ぼう。
――
ハイランド家の夕食
「おいベティ? 聞いてるのか?」
「え……うん」
「まったく、急にボーっとしだして、熱でもあるのか?」
「ううん……大丈夫……」
「それで野盗の隠れ家だが、今の戦力で直接出向くのは危険が多い。そこで例の……」
「うん、ごちそうさま……」
「ベティ?」
「やっぱりちょっと熱があるみたい……リリ、部屋にお湯を持ってきてもらえる?」
「かしこまりました」
ビィが侍女リリに声をかけ、席を立つ。
「ベティ、大丈夫か?」
「だ、大丈夫! こんなの寝たらすぐ治るから! ね、ね、カケル!」
「あ……あぁ」
「む……?」
「クフフフフ……エルゥ、お姉様は大丈夫なのです。それより今夜もアヴィとお話しましょう?」
「おおアヴィ! 今夜もお前を抱いて眠れるなんて嬉しいかぎりだ!」
「クフフ、楽しい夜になりそうなのです」
「……覗くなよ」
「クッフッフ……」
アヴィの笑い声に怯えつつ、リリにバレないようビィの部屋を訪ね、その夜はビィと共に過ごした。最高の夜だった。ありがとうブレイ。心の兄よ。




