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高台から見える景色

 屋敷の外、見晴らしの良い高台。


「この高台から見える範囲が全てハイランドの領地よ」


 風になびく振り向き美人は我が主ベアトリクス・ハイランド。


 ローブを脱いだベアトリクスに連れられ、オレ達は屋敷の地下室から出て、辺りを一望できる外の高台までやって来ていた。


「すごいな……」


 オレはベアトリクスから借りたローブのフードを外し、遮るものが何一つない壮大な景色に目を奪われた。


「北の山脈が敵国フロストランドとの国境、東の道は漁村へ、南の道は神聖国の聖都に繋がってるわ。西側は森の先に未開のダンジョンがある危険地帯。この高台の真下に広がるのがハイランドの町よ」


 北はアルプス山脈のように険しい山々が連なっており、戦火の後が見えやや荒廃している。高台に近くなれば大地は緑一色の丘陵に農家や牧場がポツポツと見えてくる。遠方の畑は襲われたか働き手がいなくなったのか、家屋も畑もボロボロに崩れている。


 高台を背にした屋敷から先に町が広がり、教会を中心としたレンガ造りの建物群に人々の営みが感じられる。その町から伸びる道は緩やかにどこまでもどこまでも、地平線へと向かっていた。


「……」


「聞いてる?」


「悪い、あまりにも雄大な光景に圧倒されてた。あのでかい屋敷が小さく感じるくらいだ」


 ハイランドの屋敷はめちゃくちゃでかかった。おそらく城としての機能も備えているんだろう。そして聞き流していたがさらっとダンジョンも出てきた。魔女と悪魔がいるならダンジョンぐらいあるか。


「ふふ、そうでしょう? この高台はお気に入りなの。父様も兄様も、ハイランドの英雄はみんなここに眠ってるわ」


「……あの石碑は墓だったのか」


 ポツポツと規則性なく石が建ってるだけだから墓とは思わなかった。なにげなしに手を合わせ、挨拶しておく。


「これみよがしに立派な墓を建てると荒らされるからね。どれが誰の墓かは、家族だけが分かってればいいの」


「なるほど」


「それで、何から始めたらいいと思う?」


「うーん」


 領地経営シミュレーションなら多少やったことはあるが、ざっと聞いただけでもリアルにハードモードすぎる。


「とりあえず、領内の問題を改めて書き出してみよう」


 他国からの侵略――北の関所を奪われ領内まで侵攻の恐れあり

 戦力(民兵)――敗戦により怪我人多数

 村の防備――見張り台と木柵のみ

 村民の安全――野盗発生中

 村民の状態――流行り病発生中

 食料生産――イナゴ被害による食料難

 冬の備蓄――戦争の持ち出しで残りわずか


「ぶっちゃけ詰んでないか?」


「だから悪魔の力も借りたいのよ」


 なんでこんなになるまで放っておいたんだ! と叫びたくもなるが、天災がどうしようもないことは身を持って知っている。不幸なのはそれに敵国からの侵略と致命的な敗戦が重なったことだろう。


 敗戦の理由も、イナゴ被害で食糧が集まらず、国内の援軍が間に合わなかったからだと言う。援軍を信じ、ギリギリまで関所を守った前領主とその息子は戦死。その後、一旦は神聖国軍が押し返したものの、冬を目前にして双方軍は撤退、と。


「春まで次の戦争はないと考えて良いんだよな?」


「えぇ、さすがに山越えの遠征を冬まで続けたら敵軍も持たないわ」


 どちらにせよ戦争となればオレにできることはないだろう。戦争に関しては一旦考えないこととする。


 なら食料と備蓄、そしてけが人と流行り病が目下の課題だ。


「森で採集や狩りはできないか?」


「個人で取れる量はたかが知れてるし、魔獣が出るから危険も多い。今は人手が足りないわ……」


「買い付けは?」


「今はどこもカツカツよ。漁村へ行けば多少は手に入るでしょうけど、野盗は交易路を真っ先に狙ってくるわ」


「だよなぁ……」


 空気からパンを作る魔法でもないと無理だ。どうせ春まで農耕はできない、なら必要なのは当座をしのぐマンパワーか。


「ん……?」


「おにぃちゃん、誰?」


 いつのまにか5歳ぐらいの子がこちらを見上げていた。手には紫色の小さな花を持っている。


「えーと、オレの名はカケル。キミは?」


「……サラサ」


 できるだけ怖がられないようしゃがんで目線を合わせる。オレは顔が怖いからね。


「こんにちは、サラサ。きれいな花だね。一人かい?」


「うん、おとうちゃんに会いに来たの」


 少女は近くにあった石を指差した。


「……その花はパパに?」


「うん」


「そうか……良い子だね」


 そっとサラサの頭を撫で……どこかゲーム感覚だった自分を殴りたい気持ちで一杯になった。


「……いい子にしてたら、またおとうちゃんに会えるって神父様が言ってたから」


 ……だめだ、とまれ。


「だからサラサ、泣かないの」


「泣くのは……悪いことじゃないよ」


 ……そうだ、泣くのは悪いことじゃない。でも、泣いちゃダメだ。


「……お兄ちゃん?」


 ……こんな小さな子ですら、受け入れているのに


「ふぐ……うぅ……」


「泣いてるの?」


 ……ダメだ、とまらない


「……会いたいよなぁ、おとうちゃんに……寂しいよなぁ……」


「……うん……あ、あいたい……ひっく……う……うええあええん」


 馬鹿みたいに、顔をグシャグシャにして、オレは泣いた。本当に泣きたいのはサラサの方なのに、サラサは泣かなかったのに、オレが泣かせてしまった。


「……なんで、あなたが泣くのよ……」


 俺たちが泣き止むまで、ベアトリクスは背を向けていた。


 ――


「バイバイ、泣き虫なお兄ちゃん」


 共に墓石へ花を添え、家路につくサラサへ手を振って見送った。


「……悪魔のくせに意外と涙もろいのね」


「悪いかよ。お前の時だって我慢してたんだぞ」


「別に悪くないわ……一緒に泣いてくれる人がいるのは、少し気持ちが楽になるから」


「……サラサの父親は、戦死か?」


「……帰ってはきたけど、重篤で治療が間に合わなかったと聞いてるわ」


「……わかった。まずは、けが人と流行り病からなんとかしよう。傷病者を集めてるところに案内してくれ」


「わかったわ。教会に行くから、そのツノは念入りに隠しておきましょう」


 ベアトリクスにターバンを巻いてもらったオレは、その目に涙の跡があることに気がついた。


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