鬼人ヤマトカケル
短めなので2連投稿になります。
「我はヤマトより召喚されし悪魔、鬼人ヤマトカケル……汝に恐怖を与えよう!」
「……馬かと思っていたが……その実、魔獣の類であったか……」
あれだけ凛としていたエルフィンの口がヒクつき、明らかに腰が引けている。よし。オレはゆっくりと、ただ歩くように近づくと、エルフィンが飛び退った。
「……どうした、ずいぶん及び腰になったじゃないか?」
努めて笑顔で歩み寄り続ける。レイピアの間合いに入った。
「よ、よるな」
レイピアが来るタイミングでオレは叫んだ。
「クエン酸!」
「ッ我は一陣の風!」
エルフィンが今までより大きく飛んだ。彼女の周りにはドーム状の風が渦巻いてる。防御魔法か?
「なんだ!?」
「知らんのか? 体にいいぞ」
やはり効いた。ブレイズと同じく魔法に聞こえるらしい。オレは4〜5メートルほどの距離まで近づきもう一度詠唱する。
「ありおりはべり、いまそかり」
「っ!?」
エルフィンが飛んだ。やはりこの距離から警戒してる。覚えてるぞ……一般的な魔法の範囲は十二畳。これぐらいの距離からだ。……おいアビィ笑うな! バレるだろ!
「……さっきからなんだ! その詠唱は!」
「ラ行変格活用だ、それよりそんなにポンポン魔力を使って良いのか? オレはまだ何もしていないぞ」
この世界の住民は、ただの領民ですら覚悟を決めれば武器に怯まない。おそらく教会でそう教育されているのだろう。神の加護があるから恐れるなかれとか。だが貴族の使う魔法や、わからないもの、恐ろしいものには途端臆病になる。信心深さは迷信深さだ。
「近づくな!」
エルフィンから突風が吹き込み肌が切り裂かれる。しっかり痛いがレイピアと比べればましだ。
「そよ風だな……墾田永年私財法!」
「……ひっ!?」
突き出したオレの腕に、目測を誤ったであろうレイピアが手のひらに突き刺さった。
「ふん!」
刺さったレイピアごと手を握り込む。もちろんすっげえ痛い。痛みは全て笑顔に変える。
「この……抜けん……」
オレは満面の笑みでエルフィンの首を捕らえた。
「……捕まえた」
「……や、やだ……食べないで……」
腰を抜かしたエルフィンがペタリとその場にへたり込んだ。
――
「全部ハッタリだと!」
夕食の場でオレはエルフィンに種明かしをした。
「あぁ、アビィにはすぐバレたようだが、アレは全部ただの日本語だ」
「あんなに怯えたエルゥをみたのははじめてなのです。良いものみたのです」
「はぁ……いや、しかしアレは確かに武器で脅すよりよっぽど有効だ。あんなに恐ろしい名乗りのあと、未知の詠唱が聞こえて警戒しないわけがない!」
「もう二人とも無茶しすぎよ! 心配するこっちの身にもなってよ!」
「ハハハ! 許せベティ! 外ではこうやって親睦を深めるものだ! ところでうまいなこれ、歯応えがあってまるで肉のようだ! 貝か? 魚か?」
オレ達はちらりと全員目を合わせ、キッチンから生タコを運ばせた。その姿を見たエルフィンは、再び腰を抜かして椅子から転げ落ちた。




