秘められた力
「では手合わせのルールを定めよう」
半身の構えでレイピアの切っ先を向けるハイランドの女騎士エルフィン。
「貴殿が私を捕まえれば勝ち、貴殿が降参すれば負け。私からは手をださないし、急所は避けよう」
「捕まえるだけでいいのか。 魔法は?」
「もちろん使う。安心しろ、私は風一辺倒だ。近づいた所で火に焼かれることも水に溺れることもない。せいぜいそよ風が顔に当たる程度だ……先のように、お前のような男に捕まれば抗いようもない」
風は近づかれると弱いのか。
「……わかった、やってみよう」
柔道の構えでにじり寄ると、レイピアの切っ先がヒュンヒュンと振られる。これに近づくのか……。
「はは、捕まえられたら種付けしても構わんぞ!」
覚悟を決めて距離を詰め寄るしかない、オレは大きく踏み込んで手を伸ばした。
「……はッ! ……あれ?」
強い風が吹きエルフィンの姿が消えた。いない? 違う、横に飛んだ、一足で5メートルは離れてる。
「おそい、おそい……なんだその及び腰は」
ジェット噴射みたいな移動してるのか……もう一度、距離を詰め仕掛ける。
「……フッ!」
今度は一足飛ぶと同時にレイピアの切っ先が右手とすれ違った。鋭い痛みを感じ、顔が歪む。
「いッ……つう!」
腕の甲から肘にかけて切り裂かれドクドクと出血していた。
「カケル!」
駆け寄ってくるベアトリクス。
「……ふむ、本当に痛みに弱いのだな。まるで無垢な子供のようだ」
「そうよエルゥ! わかったでしょう! カケルは戦わせちゃダメなの、彼は治癒魔法のない国からきたのよ!」
ベアトリクスがオレを庇うようにエルフィンの間に立ちふさがる。自分に情けなさを感じながら、オレは傷口を強く抑える。
「……バカな、エセリエルの加護もなく人が生きられるはずが」
「……あぁ、ヤマトは医者はいても治癒師はいない、日常では戦いも戦争もない平和で豊かな国だ」
「それは恵まれているな……いや、だが神がいない……? それは……」
「カケル……大丈夫? ケガを見せて」
オレは抑えていた手を離す。野盗に刺された時と同じで、ケガが塞がっていた。正確には何らかの力で治癒されていた。
「……大丈夫だ、ビィ。オレも最近気づいたが、どうやらこの体はオレが思っていたより『頑丈』らしい」
「すごい……自己治癒術だわ……!」
「……それは治癒術ではないのか? いや、己には治癒できんはず……」
「下がっててくれ、ビィ。……さぁ続けようエルフィン、オレも自分を試してみたい。話はそれからだ」
「……楽しくなって来たじゃないか」
――
「ハァ……ハァ……クソッ」
自己治癒能力があるこの体を、オレはまだまだ持て余していた。近づけばレイピアで突かれ、刺される。傷は抑えれば瞬く間に塞がるものの、その痛みと恐怖でどうしてもあと一歩が踏み出せずにエルフィンを取り逃がしていた。
「フッ! ゼェ……ゼェ……」
ならばとオレが始めたのは、顔を伏せた全力タックルだ。武器が見えなきゃ怖くない。これは結構有効だったらしくエルフィンは避けることに集中しはじめていた。
「くそ……ピョンピョンとカモシカみたいに逃げやがって……」
「お前こそ……興奮した雄牛のようではないか」
二人して息は上がってるが、どう見てもこっちのほうが疲労している。埒が明かない。打開策を探していると、二階の窓からこの闘牛ショーを眺めるアビィと目が合い、さっき教えてもらったことを思い出した。
「……? どうかしたのです? カケル」
「いや……精霊言語か……」
自動翻訳もとい精霊言語の特徴として、バグった時にほぼ驚かれる。ブレイズは魔法の詠唱かと驚いていた。ただそれだけだ。それだけだが『合せ技』なら、効くかもしれない。あまり気は進まないが……。
「……ククク……ハァーハッハッハッハッ!」
いきなり笑い出したオレにみんな揃って驚いた。久しぶりに大声で笑ったオレは、おもむろにターバンを外しツノをあらわにした。
「……自己治癒だけでなく……そのツノ……まさか……?」
「……追いかけっこにはもう飽きた、ここからは本気で行くぞ」
オレのツノをみてひくりと口を歪ませるエルフィンにむけて、オレなりに精一杯の怖い顔……もとい『笑顔』で名乗りを上げる。
「……我はヤマトより召喚されし悪魔、鬼人ヤマトカケル……汝に恐怖を与えよう!」
ビィは目を丸くし、エルフィンはひるみ、アビィは窓から身を乗り出していた。




