領主の沙汰
「これで全員だ」
野盗との戦いを終え、捕らえた八人の男たちを荷馬車の近くに並ばせる。出血が止まらない野盗の傷をブレイズが焼いた。
「ブレイ、あの二人は?」
炎剣で斬られた二人はそのまま草原に打ち捨てられていた。
「アレはもうダメだ。まだ息はあるがまもなく神の審判を受けに行くだろう」
「……そうか」
「べべ様、この者たちいかがされますか?」
青い首飾りを握りしめながら、金髪を風になびかせるは我が主ベアトリクス・ハイランド。
「……彼らの顔を良く見せて」
ブレイたちが野盗の顔を上げさせる。
「あなた達はノスラ牧場の……生きていたのね?」
「……申し訳ございません、べべ様! 俺達は奴隷にされただけで、御慈悲を、どうか弟だけは!」
「あんちゃん……」
「領民か?」
「野盗に焼かれた北の牧場の兄弟よ。……そっちは農夫のバジよね?」
「……へい、その通りでございます」
「事情は問いません。この三名は連れて帰ります」
領民三人に対してベアトリクスが沙汰を告げる。
「汝らの主たるベアトリクス・ハイランドが命じます。我が庇護の元へと帰り、教会の導きを求めなさい」
三人は深々と頭を下げた。
「あとの五人は領民ではない……バニシュね?」
……よく領民全員覚えてるな。
「……カケルは、どうしたらいいと思う?」
「ん? オレに聞かれても困るぞ、犯罪者の扱いも制度も何も知らないんだから」
「……そうよね、ごめんなさい」
「内ならともかく外での沙汰はご婦人には辛いでしょう。もう荷馬車へ戻り、このブレイズにお任せください」
「ころすのか?」
「みなまで言わせるな」
まぁ……そうだろうな。仮にも領主の馬車に手を出したのだ。
「……」
悩むベアトリクスを御者のメイドがそっと迎えに行く。オレは落として泥だらけになった氷箱のタコを拾いに行く。
「ところで、このタコはもうダメだな。すぐ食わないともったいない」
「今はタコなどどうでもいいだろう」
「別にそんな急ぐことでもないだろ? ここで焼いて食っちまおう。 オレ達だけじゃこの量は食いきれないから、こいつらにも食わせてやろう。 腹減ってんだろ?」
全員に不思議そうな目で見られる。おれはただ本心からもったいないなと思っただけだ。
「……カケル」
「火傷した二人も、この氷水ぐらいかけてやろう。レイ、ライ頼めるか?」
「……わかりました」
二人が大火傷で苦しむ野盗の方へ向かう。
「ドリ、鍋に海水ぐらいの塩水を頼む。ブレイは焚き火を二つな」
ドリは何も言わずにテキパキ動き出した。ブレイは動かない。
「どうした?」
「いや……わかった」
ブレイと一緒に焚き火の準備を始める。
「連れて来ました」
どさり、どさりと降ろされた火傷の二人に箱の氷水を全てかけてやる。
「ほら、氷だ。うちの領主様が氷魔法使えてよかったな。他じゃ手に入らないぞ?」
「うぅ……」
氷箱にすがりつく男たち。オレはタコを串焼きにし、茹でタコのスープを器に注いだら、野盗たちの縛られた両手に持たせた。男たちの腹の虫が鳴る。
「ほら食えよ、見た目は気持ち悪いかもしれないけどうまいぞ」
オレが食い始めると何人かがもそもそと食い始める。
「野盗の暮らしは腹いっぱい食えるのか?」
男たちが首を振る。オレは塩味の効いたスープを飲み、ふぅと息をつく。仲間も食い始める。
「安全な水は飲めるのか?」
水を注ぎ、飲む。器が空のやつには注いでやる。火傷した二人にも渡しに行く。
「その傷は痛むだろう? オレも痛いのは嫌いでな、教会ですぐ治してもらえるとしても、荒事は苦手だ」
みんなで、飯を食う。
「飯食ってる間ぐらいなら、話を聞くぞ? どこから来たんだ?」
ポツポツと、男たちは身の上を語りはじめる。オレはゆっくりとタコをかじりながら、静かに相槌を打つ。一人泣き始めると、次々にすすり泣きはじめた。
「味はどうだ、ブレイ? 一度泥だらけになったタコでも、洗ってやればまだ食えるだろ?」
「……あぁ、全然食えるな……だがこのタコってヤツは見た目が悪い。そのままじゃ町の誰も食わないだろう」
ブレイが串を振る。
「頭を切って、足だけ売ればいいんじゃないか?」
ライが返す。
「屋台なら十分売れるだろうな」
レイが答える。
「頭も切ってこんがり焼けば十分でしょう」
ドリの言葉に一拍の間をおいたあとフレイムウルフらが笑った。ドリにしては皮肉の効いたジョークが冒険者らにウケたらしい。
「……オレ達は好き勝手に喋ってるだけだから、気にせずゆっくり、よく噛んで食べろよ、ビィ」
オレはただ静かにたたずむ主に言った。
「……うん」
全員が飯を食い終わり、静かになった。オレはグッと背を伸ばしながら立ち上がる。
「ただこのタコってのは運ぶのが大変でなぁ。大変な仕事だけど、これを好きなだけ食えるなら、オレはそう悪くない仕事だと思うんだよ」
野盗たちは泣きながら頷いた。
「……ごちそうさまでした」
オレは主の方へと向き直る。
「……決まったか? ビィ」
「……うん。ありがとう、カケル」
ベアトリクスは立ち上がり、野盗たちに沙汰を告げる。
「……広大なるハイランドを統べるベアトリクス・ハイランドが汝らに導きを与えます。庇護を失ったあなた達がその罪の全てを教会に告白し、再び王国の庇護を求めるならば……」
その細い指先から、朝露のような雫が滴り落ちる。
「……我が施しを受け取りなさい」
すべての男が、その雫を受け取った。




