野党の襲撃
「荷馬車がゆくぞ〜ドンブラコ〜ドンブラコ〜」
「ドンブラコ〜ドンブラコ〜」
護衛につくフレイムウルフと一緒に愉快な歌を歌いながら荷馬車で揺られる陽気な魔女は我が主ベアトリクス・ハイランド。
「ずいぶん気に入ったな」
昨夜寝る前に聞かせた桃太郎の話が面白かったらしい。
「だっておかしいんだもの。どうして『大きな桃が川に流れる音』にしか使わない言葉があるの? しかもそんな限定的な言葉をヤマトなら全員知ってるっておかしいわ! アハハハ」
昨日からベアトリクスの笑いのツボがだいぶ緩い。
「初めて覚えた日本語がドンブラコのやつもなかなかにおかしいけどな」
「おかしいならカケルも笑いなさいよ。あなた全然笑わないんだから」
「そんなに笑ってないか?」
自分ではフッて感じによく笑ってるつもりだ
「なんか口の端をこうニヤッとするだけじゃない、もっと口を開けて笑うのよ」
ニヤッとしていたらしい。フッ。
「あ、それよ!」
「口を開けて笑うと怖いって言われて育ったんだ。仕方ないだろ」
「そうなの? やってみてよ」
「……イヤだね」
オレはニヒルな男でいたいのだ。フッ。
「あーまたやった! 言っとくけど時々イラッてするんだからね!」
ガタン、と急に馬車が止まり、斥候のブレイズが馬越しに急報を入れる。
「来たぞ! 野盗だ! 北西方向から数8と馬2!」
「わかった。ビィ、ドリ、御者と一緒に荷の裏に行け」
「……カケルは?」
「ここにいる。ブレイ、三人で行けるか?」
「馬2が厄介だ。俺が馬で片付けてくるまでレイとライの三人で耐えろ。荷馬車からは出るな、石と弓の的だ」
「わかった」
ブレイズがダッと馬を走らせる方向をそっとのぞき込み、野盗との距離を確認する。およそ500m先、一分ぐらいか。オレは荷台から手ごろな角材を手にし、荷台口の裏に潜む。
「私も戦うわ、カケルは戦えないでしょ?」
「まずは護衛に任せよう。そのための護衛だ。ま、ピンチになったら頼む」
こくりと胸の首飾りをにぎりしめるベアトリクスをみて、そう言えばツノ魔石のことを教えてないなと思い出した。
「ビィ、俺と一緒なら大丈夫だ。むしろやりすぎるなよ?」
コクリとうなづくベアトリクス。
「カケルさん、これを」
よいしょっとタコ箱を一箱担いできたドリュー。
「これは?」
「野盗の狙いは積荷です。危険だと思ったらこれを蹴っ飛ばしてください。群がります」
「さすがドリ、賢い」
バリケードにもなるしちょうどいい。
「野蛮な盗賊ども! この炎剣のブレイズが汝らに炎の裁きを下す!」
ブレイズの名乗りが上がった、魔法を使う開戦の名乗りだ。フレイムウルフのレイとライはそれぞれ盾と弓で投石から荷馬車を守っている。
「ぎぁあああああ!!」
男の絶叫と馬のいななき、ブレイズではない。燃え上がる火に苦しむ男の声だ。
「投射が来ます!」
盾持ちのライの声のあと、幌に外からバシバシと石がぶつかる音に混じって矢が突き抜ける。
シュランとなる抜剣、レイが弓から剣に持ち替えた。敵はもうすぐそこだ。
「何人だ!?」
「残り6!」
多いな……オフェンスのブレイズがもどるまで耐えれるか? 何とか援護しないと……
「ぐ……! はなれろこいつ!」
「レイ!」
剣戟の音がなり、レイとライから苦戦の声。オレは足を氷箱にかける。
「一箱出すぞ!」
蹴飛ばした氷箱に野盗が二人飛びついてきた。オレは片方めがけて死なない程度の力で馬車から角材を振った。
「ギャン!」
一発で一人沈む。意外と強かったか? もう一人は
「カケル!」
ドン、と何かがぶつかってくると同時にベアトリクスの悲鳴が聞こえた。
「……あ?」
左から押し込んでくる粗野な男、オレは左脇腹に何かがえぐり込まれたような痛みを感じ、咄嗟にそいつを蹴っ飛ばす。まずい、刺された。顔をしかめ相手を睨みつける。
「ヒィ!」
なんでお前がビビるんだよ、痛いのオレだろクソ……刺したのはあの短剣か? 内蔵まで達してなければいいが……傷口を左手でグッと抑える。
「ハッ……ハッ……」
背中に冷水を注がれたような寒気を感じながら、震える手で恐る恐る傷口をのぞき見る、すると血はついてるが傷はなかった。あれ?
「……? お前今、なにか刺したか?」
「ヒィ、あ、悪魔ぁ!」
「誰が悪魔だ」
角材で殴りつけるとふらついた男を横から来たでかい盾がトラックみたいにふっとばした。ライだ。
「お怪我は!?」
「たぶん大丈夫だ」
「ぎゃあああああ!!」
少し離れたところから絶叫があがる。騎馬戦はブレイズの勝ちか。ゲームセットだな。
「おいお前らの負けだ! いまのうちに全員武器を捨てて投降しろ! 焼き殺されたくはないだろう!? この草原で馬から逃げられると思うなよ!!」
オレは外の残党に向けて叫び、その声で力無くした男たちをレイとライとともに捕らえた。
「カケル! 大丈夫!?」
「大丈夫だ、オレも刺されたと思ったけど刺さってなかったよ、ほら」
服にだけ穴があいてしまったので、帰ったらメイドさんにお願いしよう。
「よかった……」
ベアトリクスが抱きついてくるのでそっと抱き返す。
「結構汗かいたから、ばっちいぞ」
「そんなの気にするのカケルだけよ……バカ」
オレは確かに刺さされたはずの脇腹をもう一度さすりながら、ギュッと締め付けてくるベアトリクスの温もりを感じていた。




