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悪魔の魚

 漁村インシュラスでの買い付けは思った以上に早く終わった。塩と魚醤しか買ってないからだ。オレは海鮮をいろいろと箱買いして、ベアトリクスに冷凍保存してもらおうと考えていたのに興ざめだ。


 ……感覚的に言って、この海の生き物はナニカに汚染されている。魚はどれも目玉が大きく飛び出ており、貝は妙に色鮮かに発色していて、海藻はしなびた灰色をしていた。加工すれば十分食えるとは聞いたが、とてもじゃないが食う気になれない。だが、海そのものは澄んでいてむしろ綺麗だったし、口に含んでみて違和感もなかった。


 手持ち無沙汰なオレたちは採取に行くと言うドリについていき、岩礁地帯で見覚えがある軟体生物をみつけた。


「タコじゃん」


 ヒョウモンはないし、マダコっぽい。っていうかマダコだ。ここ日本ってこと? 気候が日本と酷似? それとも海温? いやまてそもそも日本に目玉の飛び出た魚はいない。


「なんでタコだけオレが知ってるタコなんだ?」


 疑問はあるが近場から長い枝を拾って絡ませてみる。そんなので捕れるくらい、マダコは大量にいた。


「カケルさん、それどうするんですか?」


 興味深そうに聞いてくるドリュー。


「食ってみようかと」


「ぐえぇ、明らかに海魔だろ……」


 汚いものを見る目で顔をしかめるブレイズ。


「ドリ、ひょっとしてこれ、悪魔の魚とか呼ばれてないか?」


「あ、そうです。この漁村では忌避されていて水揚げされないんです。毒はないはずですよ」


「悪魔繋がりねぇ……」


 ここまでくると何者かの恣意的なものを感じる。だがイヤな感じはしない。


「ブレイ、ちょっと鍋と火くれよ。ドリは塩もってきてくれ」


「ほ、本気で食う気か?」


「大丈夫だ、こいつの事はよく知ってる。じゃがいもは区別がつかなかったが、これは間違いなく安心安全純正ヤマトの生物だ」


 オレは借りた鍋に海水を汲み、乾いた木を組んで焚き火をブレイズした。海水が沸くまでの間にタコを締め、ドリ塩でもみ洗いしぬめりを取る。肩越しにのぞきこむのは好奇心旺盛な我が主ベアトリクス・ハイランド。


「手慣れてるのね」


「言ったろ? よく知ってるって」


 足を手頃なサイズにカットして、串を刺していく。


「これを沸かした海水にさっとくぐらせる。新鮮なとれたてタコの食い方だ」


 味見しようとして、わくわくした顔の主の視線を感じ、思案する。


「……ビィ、最初に食べてみるか?」


「おい、いくらなんでも先に毒味を」


「カケルが大丈夫って言うなら食べるわ」


「ああ、ビィがオレを信じてるなら大丈夫だ。きっとお前が好きな味だ」


「どういう……」


「……はむ」


 ビィがタコにかじりつく。


「……はむ、はむ、はむ」


「……うまいか?」


「ごく……すごい弾力ね! とってもおいしいわ」 


「そうだろ? ほら、みんなも食え。こんな味、海でなきゃ食えないぞ。ドリ、調理法を記載するなら海水の塩分濃度も記載しておくといい」


 やはり地元のうまいもんは客に食わせないとな。


「ええい、神よ! ……いけるなこれ。レイ、ライそっちの焼いたのはどうだ?」


「うまいぞ?」


「そっちもくれ」


 焼きタコをガツガツ食い始める。フレイムウルフの3人。


「ほいひいですね」


 魔物っぽいタコ絵を描きながら食ってるドリ。


「うん。うまい」


 パーティー全員でタコを頬張る。オレたちタコパを現地の人達は信じられないものを見る目でみているが、うまいもんはうまい。


「おいしー!」


 このビィの笑顔はよく知ってる。じゃがバタや、フライドポテトを食べた時と同じだ。


 悪魔としてこの世界に召喚され、悪魔と呼ばれる芋、悪魔と呼ばれる魚が存在してる。そのどちらもが、オレの良く知ってるものだった。 


「ビィが嫌いなわけが無い。きっとこいつらはビィに呼ばれたんだ。ビィが望んだから、ビィの願いを叶えるために、はるばるヤマトからやってきたんだ」


 鈍い俺でもさすがに気付く。こいつらは俺と同じで日本から『悪魔召喚』されたんだ。場所と時間はズレてるが、ハイランドに呼ばれたことは間違いない。タコもきっと困ったろう。海無いじゃん!ってな。


「これをハイランドの特産にしよう。簡単に捕れるし、氷があれば漁村から問題なく運べる。これだけ繁殖してるなら漁村も困ってるはずだ。セイレムも潤い、ここにもいつか大きな港ができるかもしれない」


「うん……わかるよ。最初は誤解されてても、みんな好きになってくれると思う」


「そうさ、みんな知らないだけだ」


「カケルさん、あなたは本当にヤマトから来たんですね」


「カケル、今度こそ教えてくれ。お前はどうやって海を越えてきたんだ? 俺は海の向こうを見てみたいんだ!」


 詰め寄ってくるドリとブレイ。ビィに合わせて二人を愛称で呼ぶようになり、距離が一気に近づいた感じがする。もう他人ではないと。オレはカケル呼びのままだが。


「オレがヤマトの悪魔だって言ったら、お前たちは信じるか?」


 オレはゆっくりとターバンを取る。二人は固まったまま、オレのツノを凝視している


「ことさら見せびらかすもんでもないから隠しちゃいるが、まぁそういう事だ」


 オレはターバンを巻き直す。


「ど、どういう事だ?」


「……ボクはわかりましたよ。カケルさん」


「うん?」


「悪魔と思われているただの人間ってことですね!」


「そうなのか!? そのツノは!?」


「いや、そこんとこよくわからん」


 ズルッ


「二人とも海で滑ると危ないぞ」


「あははは、カケルったらバカね! どうみたって人間なのに!」


 ケラケラとお腹を抱えて笑う主の声が、静かな漁村に響き渡った。



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