悪魔召喚
――
生前、オレは目つきが悪い男だった。無表情も相まってよく人に誤解されたが、オレ自身はわりと素直で単純な子供だったと思う。
『いい子にしてればサンタさんが来てくれるわ』
その言葉を信じたオレは一年中ずっといい子でいようとしたし、仲の良かった幼馴染との関係をクラスの男子にからかわれた時も
『うん。オレ、くーちゃんのこと好きだよ?』
なんてバカ正直に答え、幼馴染をずいぶん困らせてしまったこともある。
『あの時は学校に行けなくなるぐらい恥ずかしかったんだからね!』
と、幼馴染と同窓会で再会した時はバカ、無神経、悪人面、朴念仁と、散々に怒られたりもした。
『君は誤解されやすいかも知れないが、そんな事は気にせずに自分が善いと思う生き方をしなさい』
尊敬していた先生から卒業の時に送られた言葉は、今も胸に残っている。
まぁ、何が言いたいかって言うと、オレは確かに悪人面ではあるが……
――
「……悪魔召喚される覚えはないんだが、そこんとこどう思う?」
「うーん……くーちゃんとの再会後の関係はちょっと気になるかも?」
「そこじゃなくてさ」
暗い石造りの部屋で、オレはいかにも魔女といった出で立ちの女性と座って相対していた。
彼女はドレスの上からローブをまとい、手には年季の入った杖、表情を隠すようにフードをかぶっている。ちなみにオレはジーンズとシャツにジャケットとごく普通の格好だ。ちょっとボロボロだけど。
フードの隙間から見える金色にきらめくウェーブヘアと意志の強そうな青い瞳。その瞳が、真っ直ぐにこちらを見つめていた。
うん、すごく好みだ。かわいいと美人の中間的な良さとでもいうか、あどけなさの残る美女といった感じ。
ローブの上からでもわかるくらい胸が大きいのもいい。見た目は成人するかしないかぐらいだけど、外国人なので見た目より若いかもしれない。
「ところで、あー……あなたのお名前は?」
「……その問いに答えましょう、デーモンよ!我が名はベアトリクス・ハイランド。汝を召喚せし氷の魔女にして、広大なるハイランドを統べるものなり!」
すくっと立ち上がった魔女の声が石室に響く。決め台詞なのだろうその勢いにフードは外れ、ローブがはためき、ロウソクの薄明かりが、彼女の金髪とオレの足元にある血塗られた魔法陣を照らし出す。
「だから……オレはデーモンじゃない、ただの人間だって」
「……人間にツノは生えてないと思うんだけど?」
「生えてるの!?」
探るように頭部を触ってみる。あるわ。おでこに結構立派なのが一本。やや左曲がりで。
「えぇ……なにこれ? オレ、デーモンになっちゃったの……?」
悪魔の力を身につけた
正義のヒーローデーモンマン。
デーモンイヤーは地獄耳。
デーモンウィングは無いらしい。
「自分がデーモンだと認めたようね」
「うーん……異論はあるんだが、現状を認めて一旦話を進めよう。オレは一体何のために召喚されたんだ?」
「もちろん私の下僕とするためよ!私はあなたの主で、私の命令には絶対服従よ。いいわね?」
「たぶん何かの手違いだと思うので……丁重にお断りさせていただきます」
「往生際が悪いわね!! どうしてもって言うなら他のを連れてきなさい!」
「すいません。うちチェンジやってないんですよ」
残念ながらデーモンの知り合いはいない。
「はぁぁぁ……」
わざとらしいため息はやめてほしい。今はそういうのも立派なパワハラだぞ。オレだって急に知らない上司ができて困ってんだからさ。
「そもそもオレにはなんの力もないと思うぞ。あー死んだなと思ったらここで目が覚めただけだからな」
残念ながら神様からチートスキルを貰ったり、悪魔と合体した覚えもない。
「じゃあなに? ただの死者が悪魔召喚の儀式に応じたとでもいうつもり!? いいから、悪魔なら悪魔らしく私の願いを叶えてよ!」
子供のように地団駄を踏んだあと、せきを切ったように、彼女の感情があふれ出した。
「敵国が攻めて来て大勢死んだの! お父様とお兄様が命がけで守った関所も落とされたわ! 村はけが人だらけで流行り病も広がってる! イナゴと野盗に作物が荒らされてご飯は毎日薄いスープ!! もう冬が来るって言うのに男手が足りないから森にも入れない! 薪も食料も、領地の蓄えは尽きる寸前で、領民はみんな苦しんでる! 悪魔の力でも借りなきゃハイランドはもうおしまいなのよ!!」
その声はあまりに必死で、細腕がオレの胸を叩き、ポロポロと涙がこぼれ落ちる。
「だから……お願い、私があげられるものならなんでもあげるから……お願いだから助けてよぉ……!」
胸元で泣きじゃくる彼女の懇願をみて、生前の記憶がよみがえってきた。
――
『お願い! 誰かお母さんを助けて!! まだ家の中にいるの!』
『……わかった、オレが探してくる』
『だめよカケル! 早く高台に逃げないと!!』
『その子を連れて先に行っててくれ、後で合流する』
『やだよ、一緒に逃げようよ!』
『大丈夫、すぐに追いかけるから』
『っ……絶対だよ! 待ってるからね!』
――
バカだよな、逃げれば良かったのに。他人なんて、放っておけばよかったのに。でも、もしも……また同じことが起こったら、オレはきっと同じことをするだろう。
「わかった。オレに何ができるかはわからないけど、困ってるなら力になるよ」
「ホント!?」
「あぁ……人が死ぬのも、街が壊されるのも、それをただ見てるだけなんて辛いもんな」
「……あなた、そんな怖い顔した悪魔のくせに優しいのね?」
努めて無表情にしているが、やっぱり怖い顔をしてるらしい
「別に単純なだけだ、それに領主様なら待遇もいいんだろ?」
「……じゃあ、あなたの名前を教えて」
「上高野 翔だ」
「カミコーヤ……カケル? 変わった名前ね……ヤマトっぽい響きだわ。髪も瞳も黒いし、カケルはヤマトのデーモンだったのね!」
「違和感すごいな。ヤマトのデーモンなら鬼でいいだろ。ヤマトと言うか日本だけどな」
「ふぅん? ヤマトなら真名はヤマト文字よね? どういう字を書くの?」
はいっとチョークを渡されたので、流されるまま石壁に名前を書く。
この人、結構グイグイくるな。
「苗字の上高野は地名由来だと思うけど、意味は上にある高い野原で、名前の方は走るとか、飛ぶって意味かな」
あれ?こんな説明で通じるのか?外国人に日本語で漢字の説明しても伝わらないよな……?
「ハイランドを……かける……」
あ、伝わってるっぽい。
「そういやハイランドも高地とか高野って意味だっけ。語感からすると、ここらはイギリスかアルプス山脈あたりか?」
「いいえ、エセル神聖国、セイレム地方のハイランド領よ」
「全っ然知らない国名でてきちゃったぁ…」
薄々そんな気はしてたけど、異世界確定だ。よくよく聞くとベアトリクスの言葉は日本語でも英語でもない。オレは間違いなく日本語を喋ってるんだが、なぜかお互い通じている。
「あなたの名前、気に入ったわ。でも真名は隠す必要があるから、私の下僕としての名前を付けてあげる。鬼人ヤマトカケル!どう?」
「おぉ、意外なほどカッコいいな」
ちょっとパチモン臭いがデーモンの百倍マシだ。
「それじゃあ改めて、氷の魔女ベアトリクス・ハイランドが汝に新たな名『ヤマトカケル』を授けます。以後、私の従者として仕えなさい」
お? なんかツノが光ってる?
「これで契約は成ったわ。うふふ、今後ともよろしくね? カケル」
何がそんなに嬉しかったのか……ベアトリクスのその無邪気な笑顔に些細な疑問を吹き飛ばされ、オレは苦笑いを浮かべて応じるのだった。
「鬼人ヤマトカケルだ……今後ともよろしく」
なろう処女作となります。至らぬ点はございますがお楽しみいただけたら幸いです。
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