第8話
第8話 FQ3
「次の案件に取り掛かってもいいですか!?」
青木が白中の顔を覗き込んで聞いてきた。
「もう新しい事件あるの?」
「いや、パトロールがてら事件を探しに行こうかと!」
「無理に見つけなくてもいいんじゃない?」
「黒木課長!白中さんがこんなこと言ってますよ!」
「おい!言うなよ!」
「まぁ。何もなければそれに越したことはないのだが、凶悪事件については白中も把握してもらいたい。その説明に時間を割くのはどうだ?」
「わかりました!じゃあ一番危ない案件を説明します!」
「あぁ。俺の出番のありそうなものは把握しておくべきだな。」
「では、まず知っておいていただきたい組織があります。それがこれ「FQ3」です。通称ファッキューサンです!」
「何て名前してんだ。」
「この組織は、人間至上主義を掲げて、BRAINの排除を目的にした銃や刀身の長い殺傷能力のある武器を武装している集団です!」
「めちゃめちゃ治安悪いな。」
「そうなんです。銃の所持自体、法律で禁止されているので、事件の中で銃が出てきたら真っ先にFQ3を疑います!」
「BRAINとの交戦がある場合、一般人にかなりの被害をもたらす。先日あった上野の電車爆破事件もFQ3の工作員の仕業だった。」
「上野の電車を爆破?」
「はい!満員電車のなかに手榴弾を投げ込んだんです!大勢の人が亡くなりました。その中に、「透視」能力を持つBRAINがいました。電車で透視と言えばよくないことを考えてしまいますが、これと言って犯罪歴があるわけでもない人でした。その人を狙うためだけに大勢の人を巻き込んだ犯罪集団です!」
「満員電車に手榴弾・・・。」
「あれは、かなりひどかったな。殺傷能力を上げるために小さい金属の棘を火薬に練りこんでいたようだ。」
「それによって、大量の死傷者をだしました。FQ3は要注意テロリストです!」
「今のところ、BRAINと一般人を区別するには、その能力を目視で確認するくらいしかない。ゆえに、FQ3が手あたり次第に攻撃しないのは、唯一の救いだ。」
「隠れ家やアジトもわかっていません。銃などの倉庫もあると思いますが、未だ発見には至っていません。捕まる人も下っ端の工作員ばかりで、幹部たちは武器を人知れず渡して命令するだけのようです。」
「厄介だな。下っ端に武器を持たせたら使いたくなるよな。その好奇心を煽ってBRAINを狙うのか。」
「どこの誰かもわからない人間が、凶器を持って前触れもなく暴れられたら、こちらは何も手出しが出来ない。後手だ。だから、出来るだけBRAINの情報は把握しておきたい。」
「なるほど、だからサキちゃんのBRAINの情報は役に立つんっすね。」
「はい!能力者のなかには、害の無い人たちもいます。そういう人たちは、能力を隠して暮らしてもらっています。場所も特定してありますし、何かあれば連絡がくるようになっています!」
「そういえば、FQ3の見分け方とかないのか?」
「ありません。唯一あるとしたらこの写真ですね。」
青木が一枚の写真を投影した。
「これはFQ3の関係者であろう人間の写真です!」
「なんであいまいなんだ?」
「これはFQ3関連の事件現場に共通していた人間の写真なのですが、ぶれぶれでよくわかりにくいんですよ!首筋にタトゥーがあるくらいしかわかりません!」
「これだけじゃ何が何だか・・・。」
「公開できる情報はここまでだな。BRAINだけじゃなく、BRAINを殺せるのであれば、周りの一般人もいとわないというのがFQ3の危険なところだ。」
黒木が難しい顔をしていった。
「もう一ついいですか?」
「あぁ。違う組織か?」
「はい!今度は、BRAINの集団です。これには名前はないのですが、分かっているのは、Aランクの能力者が複数いることです。」
「Aランクなら何とかなるか?」
「いや、いくら白中さんがSランクだとしても、一人で太刀打ちできる数ではないと思います。」
「とくにこの人物。Aランクでも限りなくSランクに近い能力者です。能力は「念動力」です!ありとあらゆる物体に干渉でき、そのものを移動させる力があります。たとえ白中さんでもこの能力者によって上空空高く持ち上げられて、落とされたら死んじゃいますよ。」
「確かに、能力によって生命を維持できないようなことがあれば、白中でも対処できない。」
「いくら能力で身体能力が向上してても、さすがに生き死にに関わるダメージ受けたら無理だと思うんだけどな。」
「まあ、この組織自体は、FQ3との抗争をしたくないようで、息をひそめていますけどね。」
「なにが火種になるか分からない状態だ。白中、頭の中に入れておいてくれ。」
「わかったっす。ちなみに他に分かっている能力者いるの?」
「今のところは、この人物だけが主に表に出てきてますね。銃の弾丸も止めることもできるようですし。かなり強力な能力です。」
「なんか、身体能力が向上してても勝てる気がしないんだけど。」
「いや、それは違う。SランクとAランクで身体強化の差があるのは、かなり大きな違いだ。例えばこの「念動力」の使い手も銃で撃たれれば死ぬ。しかし、それを能力で防いでいるだけだ。その突破条件さえわかれば対処できる。」
「殺す前提ですか。」
「あぁ。BRAIN関連の案件では超法規的措置が行使されることがある。脅威判定によっては射殺も辞さない。それだけ手に余る力だという事だ。能力を善の行いで使うのであれば、良いのだが、悪に走った場合、殺してでも行動を制限させなければ多大な被害が出る。」
「FQ3も討伐対象になる場合がありますよ!彼らは人間ですが、やっていることはテロリスト同然。正義を振りかざしたものほど力の下限を知りませんから!」
「それらが、今は落ち着いていると・・・。」
「まぁ、そういうことだな。能力者か非能力者か判断する術がないから交戦が起きていないというのが本当のところだろうが。」
「なるほど・・・。」
「だから、表立って能力を見せびらかす人はあまりいないんですよ!発動条件だとか、特に秘匿にしておくことですから!」
「そんなこと言ったら俺なんて寝るが発動条件だからな、どうしようもない。」
「私は黒木課長のこと言ったつもりなんですけどね!ほかの能力者に絶対に知られちゃいけませんし!」
「あ、俺じゃなかったのね。」
「能力が強ければ強いほど条件は厳しくなるものだ。それを見つけ出し最適解で制圧するのが我々の仕事と言ってもいいな。」
「めちゃめちゃ頭使うっすね。」
「大丈夫ですよ!そんな簡単に事件なんておきませんから。」
青木がそんなフラグのようなことを言った時だった。
一本の電話が鳴った。