第62話
第62話 同志
書棚がたくさんあり狭い特殊能力者調査部隊の本部には、青木を追うために三か所に配置されたメンバーたちと関西地区のメンバーが集められていた。その中心にいたのは、黒木ではなく、ハジメだった。
「えーっと。ウイちゃんのおかげというか、BRAINSの一人が青木さんの居場所を教えてくれました。その場所はここです。」
そういうと、紙で作られたスクリーンに青木の居場所を映す位置情報とすでにハジメが飛ばしたドローンの情報が映し出されている。
外観は大きな屋敷と、周りを森で囲まれている立地を詳細に伝えるハジメ。
「BRAINの情報に惑わされてしまい、さらには、三か所で待ち受けていた強敵を倒している間にかなりの時間を要してしまいました。青木さんの安否が確認できない今、早急にこの館を制圧したいと考えます。どうでしょうか。」
ハジメは、沸々湧き上がってくる怒りを抑え込み冷静に話す。
それは、ケイスケの死だ。助けを求めたケイスケが目の前で死んだことで、BRAINSに対して激怒している。しかし、ハジメは戦闘員ではない。あくまでもシステム担当だ。緑川が負傷したことにより、計画を考えるのはハジメの役目になっていた。
「ハジメちゃん。あんま、一人で抱え込まなくて大丈夫だぞ。」
白中が気を利かせてハジメに声をかける。
「ありがとう。でも、現状、動ける人員は少ないです。例の三か所で、緑川さん、ウイちゃんが今後の屋敷制圧には参加できません。もちろん、ユイちゃんもまだです。作戦を立てないと皆さんの命にかかわります。」
会議をしている薄暗い特殊能力者調査部隊の本部に重い空気が流れた。
しかし、その空気を切り裂く、声が聞こえてきた。
「ハジメちゃん。もう大丈夫だよ!完全復活のうちが来たから!」
「私ももう平気。」
「ユイちゃん!?ウイちゃん!?」
「どういうことだ?」
黒木や皆が疑問に思っていることに答えるように、隣にいた神戸チユが言った。
「この二人の自己治癒能力が異常ってことだよ。」
「神戸・・・。」
黒木はばつが悪そうに神戸を見た。
神戸に言われていたとおり、ウイは負傷して帰ってきた。能力をフル回転させた挙句、本来ユイとウイが二人かかりで行う『押圧』を一人でやってのけた。その代償は大きかったはずだ。
しかし、その負傷していたはずの二人が元気な姿で特殊能力者調査部隊の本部に現れた。
「しかし、いいのでしょうか?回復したとはいえいきなり屋敷への突入任務に就かせても・・・。」
ハジメが、黒木の顔を見た。
「正直、二人には無理をしてでも我々を助けてもらいたい。どうだ?神戸。」
「まぁ。限りなくSランクに近いAランクの能力者と判断したのが間違いだったかもしれないね。彼女たちは自分たちの脳をほとんど制御しつくしている。簡単に言うと、自分の体のことなら完璧に制御できるってこと。筋力制御のリミッターを外したり、はたまた自己治癒能力を上げてみたりとさ。彼女たちは列記としたSランクBRAINだよ。」
「そうか。」
「まぁ。報告は私からしておくよ。」
「あぁ。ありがとう。」
「二人ともSランクだとしても、無茶はダメだよ。」
「わかってます!」
「うん。」
「じゃあ、私はこれで。っと、あと一人、話し合いに参加したいやつがいたんだ。詳しいことはわからないが、特殊能力者調査部隊に入りたいとのことだ。黒木、前向きに検討してやってくれ。」
神戸はそういうと手を振り、部屋を後にした。
そしてその代わりに入ってきたのは、ノリピーと呼ばれていた紫水ノリコだった。
「この度は、お騒がせいたしまして申し訳ございませんでした。元BRAINSの紫水ノリコと申します。誠に勝手ではございますが、特殊能力者調査部隊の本部に入りたいと思いまして、ここに来ました。」
「まじかよ!?敵だろ!何考えてんだよ?」
「状況を伝えたのは僕です。」
そういったのはハジメだった。そして、ハジメはパソコンを操作すると、ビデオ通話を画面に映した。
「あーっと、黒木課長見えますかね?」
「緑川か。怪我は大丈夫か?」
「心配ないです。でも、ちょっと治るまではもう少しかかりそうです。」
「そうか。で、聞かせてもらおうか、この人物が我々の部隊に入りたいというこの状況を。」
「はい。端的に言うと、その紫水を仲間に入れることで、人員の確保と情報の確保ができると思っています。ちなみに、私とヒカルで制圧した佐川という人物に声をかけましたが、拒否されました。そこにいる紫水に話を聞いたところ、敵の人数は我々のおよそ5倍程度。それも全員がBRAINとなってます。現状、猫の手も借りたいところで、紫水はその提案に乗ってくれました。」
「すまんが、敵の一人を理由もなく素直に仲間に入れることは簡単じゃないぞ。」
「はい。そこで私が、紫水を強く入職させる理由ですが、彼女は、BRAINSで行動を共にしていたケイスケという少年を保護するために、またケイスケ君の意思もあり、我々の保護下に入ろうとしたと聞いています。しかし、マリーという瞬間移動のできる能力者によって、ケイスケ君を殺されたということで、BRAINSに対して復讐心があります。」
「復讐心・・・。」
「復讐心が重要なのではなく、ケイスケ君を保護していたという点です。能力者には、大小さまざまな能力があり、力があるゆえに身を守らなければならない能力者もいます。それを保護するのが我々特殊能力者調査部隊の仕事だと思います。とくに、青木がやっていたことですが。ですので、復讐心というよりも、BRAINを保護する、その気持ちを持っている紫水を、私は信頼できる人物と判断いたしました。」
「・・・なるほど。」
「ちょっといいですか。」
間が開いたところで、ウイが黒木と緑川の話に入ってきた。
「ウイ。なんだ?」
「私もこの人を仲間に迎えたいと思う。」
「なぜだ?」
「戦っていてわかったんだけど、戦いの最中もずっとケイスケ君のことを案じていた。むしろそれしか考えていなかった。その気持ちがあるなら、ほかのBRAINに対しても同じように接することができると思う。」
黒木は、腕を組み考えている。
「紫水。お前は人間とBRAINに対して分け隔てなく、接し、困難に打ち勝つことができるか?」
「できます。失うことはもうしたくありません。」
「そうか。緑川、私の代わりに手続きを。」
「ありがとうございます。」
「いいの!?スパイだった時マジでヤバくないっすか?」
「白中。ハジメとウイの顔を見ろ。」
そこには、紫水と同じ状況下にいて、ケイスケを守れなかった二人が沈痛な面持ちで立っていた。
「お前も守れなかっただろ。その気持ちは痛いほどわかるはずだぞ?白中。」
「それは・・・。そうっすね。」
「同じ意志を持つものは、仲間として迎え入れるべきだ。と私は思う。」
「わかりました。」
重い空気が少し軽くなった気がした。
そして、緑川がハジメだけに聞こえるように言った。
「これでいいんでしょ?」
「ありがとう。」
ハジメは自分には、黒木を説得できるほどの力がないとわかっていた。だからこそ、今回の一件を緑川に相談した。そして、自分の力不足でケイスケという保護を願い出たものを助けることができずに後悔した。それを払拭するために考えた案が紫水の入隊だった。それを緑川に相談し、黒木と交渉してほしいとハジメは緑川にお願いした。
「では、ユイちゃん、ウイちゃん、紫水さんを含めた全員で屋敷攻略と青木さん奪還作戦を考えます。」
ハジメ中心で会議が進み始めた。




