第60話
第60話 裏切り
炎煙は、復讐のチャンスと言い、FQ3を完全に裏切った。
これはFQ3にとってかなりの痛手だ。道化も炎煙の能力は一目置いていた。
それが、カイの一言によって簡単にかき乱された。
八咫烏は、内心とても焦っていた。
声も出せない状態で意思疎通は取れない。完全に相手の流れに飲まれている。
カイと炎煙を合わせて六人が目の前にいるが、誰かの能力によって声を出すことを封じられている。
ここでいきなり戦いを繰り広げてもいいが、敗北は明らかだ。
とくに道化のせいで、零骨と黒鉄の能力を知らない八咫烏は、どれほどの戦闘力を持つのか図ることができず、即戦闘の選択肢は消えた。
まずは、帰還。相手の情報をできるだけ持って帰ることがこの場での勝利条件だ。
八咫烏は、相手の戦力を見た。
まずは、天堂カイ。理性的だが、異常なまでの狂気性を孕んでいる。BRAINSで中核を担うと言っていたことにより、あれはSランクだと感じた。
さらに、右隣にいる人物。ヘッドホンを装着して、目を瞑り音楽を聴いている様子だ。黒髪の長い前髪は顔を隠すためなのか、表情がうかがい知れない。およそAランクだろう。
そのさらに隣。机に足を乗せふんぞり返っている男。能力は全くわからない。これと言って特徴もない。しかし、その派手な金髪の髪が、印象に残る。何もわからないが、威圧感からしてAランク相当だ。
その金髪男の隣に座っているのは、あきらかに豚だ。どうみても人間ではない。意味が分からない。BRAINとは人間が異能力を発揮した者たちを言うはずなのにもかかわらず、豚がこの場にいる。さらにバナナを食べている。理解不能だ。よって、Aランク。
その豚の横に座っているのは・・・。座っているのではなく置いてあるのは、アイアンメイデンだ。もはや、その中を覗くことができないため、人がいるのかどうかもわからない。ランクなど測定できるわけもない。
そして、炎煙だ。
アイアンメイデンの横に堂々と座っているが、鞍替えして間もないというのに、敵意をむき出しにして燃え上がっている。さては、道化への因縁だろう。
そんなことを考えていた八咫烏は、声が出せないので、そのあとの行く末を黙って聞いているしかなかった。
―――――
「道化のやつには、炎煙が裏切ったとはっきり伝えて構わない。」
「炎煙さんはなぜそちら側に?」
零骨は記憶がないため純粋に炎煙の心に土足で入り込んだ。
「覚えてないんじゃしょうがない。けど、それも言う必要はない。」
「がはは!闇深い組織ゆえ何か嫌なことでもあったのであろう?」
黒鉄が、さらに傷を抉ってくる。
「・・・あぁ。そんなところだ。」
そんなやり取りをしているとカイが、ヘッドホンを付けた男の方に手を置いた。
すると、八咫烏は、喉のつまりが取れたようにしゃべれるようになった。
「ふぅ~。何の能力かはわからないけど話し合いで相手に話させない能力なんて卑怯だね~。」
「これは失礼した。しかしながら、先ほども言いましたが、個人の意見は尊重すべきです。とくにBRAINSとしては、BRAIN同士の争いは無意味だと思っていますし、本当であればFQ3のBRAINたちもすべてこちらに鞍替えしていただきたいと思っています。」
「それはできないですね~。こちらも目的がありますし、遂行のために駒となる覚悟もあります~。」
「うーん。BRAINは今後の世界を担っていく者であり、人間よりも高次元の存在。食物連鎖での人間よりも上の位置にいるべき者だと思っているのですが。やはり、ビッグエアーの会長のご子息を利用させてもらうしかないようですね。」
「!?」
「なんで?っという風に思っているんですか?そのペストマスクでは顔色は伺えませんが。」
「なぜ、会長のご子息の存在を知っているんですか~?」
「逆に会長のご子息と遊んでいる子を知っていますか?」
「は?会長のご子息はいつも完全に隔離させれた部屋で、監禁されている状態です~。出入りなんて、医師や看護師くらいですよ~?」
「そうですね。会長のご子息は、発達障害のため自我が存在していない・・・いや、2歳程度の知能しかない状態ですものね。」
「そこまで!?」
「Cランクの黒沢メウという能力者がいます。彼女の能力は『幽体離脱』。ありとあらゆるものを透過することができます。さらには、幽体なので監視カメラにも映らない。人には見えますがね。」
「その女性が、会長のご子息と遊んでいる?」
「はい。その通りです。会長のご子息は誰よりもメウと一緒にいるはずです。ですから、情報は確かです。会長のご子息の能力を知っていますか?」
「・・・『理想を現実に変える力』?」
「幹部の方にはそう伝えられているのですね。彼の能力は神のような力ではありませんよ。彼の能力は、『描いた絵を具現化する能力』です。」
「な!?」
「驚くのも無理はないでしょう。彼の力を利用してBRAINのいない世界を作ろうとしていたFQ3にとって彼の能力が違うというのは致命的。どうですか?」
「信じられない・・・。」
「正直なところ、理想を現実に変える力と言っても過言ではないんですよ。しかし、その発動条件が厳しすぎる。メウの監視によってわかったことがいくつもあります。彼の能力が発動するタイミングはすべて絵を描いているときであること。さらには、その絵のクオリティによって、具現化されたものの完成度が変わること。そして、その具現化されたものは、時間がたつと消える。メウは最初具現化されたものを見て何を描いているか理解できなかったそうです。しかし、同じ時間を共有することで、部屋にあるぬいぐるみや、運ばれる食事、そういったものを描いているのだと理解したそうです。」
「じゃあ、その能力を使って人間だけの世界を作るとしたら・・・。」
「はい。不可能です。なぜなら、人間とBRAINの見た目は変わりません。よって、絵の表現だけで、BRAINを排除することはできないと考えます。」
それを聞いた八咫烏は項垂れた。
というよりも、絶望した。狂気じみていた組織の鎖は、例外なく八咫烏にも絡みついており、人間だけの社会にする目的を遂行するため、八咫烏も組織に囚われていた。
しかし、その目的自体が達成不可能となれば、話は違う。無名や道化、脱兎は知っているのか?
完全にかき乱された。八咫烏の心の中だけではなく、FQ3という組織全体を狂わされた。
この情報を持ち帰ったとして、無名や道化に話していいものなのか、頭を回転させた。しかし、情報の内容が強烈すぎて上手く頭が回らない。
「だ、だとして、うちらをどうする~?」
「だから、最初から言ってます。BRAINSに入らないか?と。」
「・・・。」
「話は分かりました。」
混乱する八咫烏の代わりに零骨が話し出した。
「いったん組織に持ち帰らせていただきます。あなたが言う、ご子息の能力が本当なのかどうかもわかりませんし。」
「はい。疑うのは大いに結構。しかし、疑いが晴れたあかつきには、我々のもとに来ていただくという最良の選択を取ることをお願いしたい。」
「それは、ここでは即答できません。申し訳ないです。」
「まあいいでしょう。実際のところ、あなた達がいようがいまいが、世界は変わりません。しかし、同族として慈悲を与えたいと思ったまでですから。」
「がはは!慈悲とは!そこまで我々は弱くないぞ!」
「そうですね。しかし、FQ3という組織は、BRAINの力を人間に与える以外にも何かきな臭いことを企んでいるようで・・・。」
「というと~?」
「彼をご覧ください。」
天堂カイは、豚を指さした。
「彼は、FQ3から逃げてきた『ANIMAL』の生き残りだそうです。」
「ANIMAL?」
「BRAIN同様、人間の力を超えた者であるのは確かですが、詳細はあまりわかりません。しかし、彼は人語を話せますし、特殊な能力もあります。これは、身体に影響のあるBRAINとも言い換えることができます。」
「人間と動物のハイブリッドってこと~?」
「そういうことになりますね。そういった者を秘密裏に作っているような組織を信頼できますかね?あぁ。返答はいいですよ。十分に身内を疑ってください。」
八咫烏もしらないANIMALという存在。
そして何よりも、BRAINをすべて消すというFQ3の目的の喪失。
八咫烏たちは、炎煙を失い、さらにはFQ3の疑念を持ち帰ることになった。




