第58話
第58話 C地点【絶望への帰還】
「こちらハジメです。すべての捜査官へ通達。青木サキの居場所判明。繰り返します・・・。」
ハジメの得た情報はすぐさま、黒木や白中などの捜査官に共有された。
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特殊能力者調査部隊の本部に一台の車が停車した。
それは、ケイスケが操作する車だった。
特殊能力者調査部隊の入り口まで、ノリピーはウイを支え、歩いている。
入口にはハジメが待っていた。
ゆっくりとした足取りで、ハジメのいる入り口へケイスケとノリピーとウイが向かう。
「ここが特殊能力者調査部隊の本部。とにかく回復しないと。」
「私は後回しでいいですので、ウイさんが治療を受けてください。」
そんな話をノリピーとウイはしている。
その先をケイスケが振り向きながら進む。
そして、その時がきた。
ケイスケがノリピーとウイ、そしてハジメの目の前で消えた。
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「わかっていたことだが、ノリピーとケイスケは裏切るだろう。」
「ノリピーはそんなことしないわ!」
「わかっていないな。マリー。あれは、ケイスケに対する母性だ。ケイスケが助かるなら身を犠牲にするだろう。だが、ケイスケはそれに耐えうる精神力を持っていない。ゆえに、重要な情報を提供することで、身の安全を保障してもらおうとするだろう。」
「ケイスケってそんなに頭いいの?」
「頭の良し悪しではないぞ?マリー。そうせざるを得ないかどうかだ。」
BRAINSの館のなか、カイとマリーが話している。
「じゃあどうするのよ。」
「ケイスケの能力は、世界を変えてしまう。この世は機械によって大半が制御されている。ケイスケが大国の兵器システムに触れば、核攻撃のし放題。ネットワークに繋がれば、好きな情報を抜き取り放題。そんな脅威はBRAINSにいることで、制限されていたんだが。相手の手に落ちれば、いや、ケイスケ自体がそのことに気が付いた時点で、この世は終わりだ。だから、ケイスケには消えてもらうしかない。」
「はいはい。汚れ仕事は私ってわけね。魔法少女はそんなことのためにいるんじゃないんだけどね。」
「すまないな。しかし、重要なことだ。BRAINを保護するためにBRAINを殺すのは矛盾している。しかし、摘まなければならない芽もある。」
「わかったわ。ケイスケたちが相手に保護を求めた時点で、殺していいんでしょ?」
「いや、マリーが思う最高のタイミングでいいさ。」
「とりあえず、メウちゃんを回収してから行ってくるわ。」
「あぁ。頼んだ。」
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「グシャ!・・・。」
鈍い音が響いた。その場にいたハジメもノリピーもウイも理解できなかった。
突如消えたケイスケが、上空から落下して、目の前で見るも無残な姿で横たわっている。
割れたスイカのように放射状に飛び散った鮮血が、目をチカチカさせる。
「は?」
ハジメは、現実を受け入れられない。
こちらに助けを求めてきたケイスケを受け入れる準備ができているというのに、その命が目の前で消えた。
「ケイスケ!」
ウイの支えを止めノリピーが半狂乱でケイスケに近寄り、抱きかかえる。
ケイスケは即死だ。顔も見られたものではない。しかし、そんなこと関係なくノリピーはケイスケを見つめている。そして、絶叫し号泣した。
「うわあああああああああああ!」
ノリピーの絶叫が、特殊能力者調査部隊の本部に響き渡る。
そこに似つかわしくない、最悪が現れた。
「ノリピ~!どうこの最高のタイミングでのプレゼント!」
マリーがノリピーの後ろに現れた。
「ケイスケは残念だけど死んでもらうことになったわ。それでノリピーはどうする?帰ってくる?それともそっち側に行くの?」
ノリピーは、後ろを振り返ることなく、振り払い、マリーを殴ろうとした。
しかし、瞬間移動のできるマリーは距離を取り、ノリピーの攻撃は空を切る。
「・・・ケイスケはまだ子供ですよ。」
「カイ曰く、ケイスケの能力は世界を破壊できる能力だって言ってたわ。手に余る能力を摘むのはしょうがないことじゃないかしら。」
「それは、導く人と本人の問題です。」
「導く?よくわからないんだけど。危なかったら切り捨てる方が安全でしょ?」
「あなたにはわからないでしょうね。」
「ノリピーってそういうこという人だったけ?」
「嫌悪してるんですよ。腹の底からあなたを。」
「なんでよぉ!命令だし、ケイスケが暴走したらみんな死んじゃうんだよ?」
「ケイスケはそんなこと絶対にしません。悪いことが何かちゃんと理解していました。だから、ここに助けを求めて、自分を改めようとしていた。それなのに・・・。」
「はぁ。わかったわ。もうノリピーは来ないのね。」
「そちらに行くくらいなら死んだ方がましです。」
「じゃあ、死ぬ?」
ふと、マリーが消えた。
そして、再びノリピーの傍に現れた。
そしてマリーの手がノリピーの方に触れる寸前、白い靄を纏ったウイの回し蹴りがさく裂する。
しかし、その強烈な蹴りは空を切り、マリーはまた消えた。
「危ないわね!というかなんで、私の速度についてこれるのよ!」
「黙れ!」
ウイは感情を露わにしている。体から滴る血などお構いなしに、激昂していた。
BRAINS同士の仲間割れについてはどうでもいい。しかし、助けてほしいと言った人間を助けずにさらには石を投げるようなことをするマリーにどうしても我慢ならなかった。
ウイも特殊能力者調査部隊の一員である。
だからこそ、BRAINの保護というのがどういうことか保護されていた自分が一番理解している。
能力が制御できない者、能力が強力すぎる者など数多の保護対象はいる。
それに共通するものは、保護されるに至った経緯があることだ。大概は悪いことばかり。
それに耐えきれず、逃げることしかできなくなってしまったBRAINを守るのがウイの仕事だ。
もともとウイとユイを保護してくれていた特殊能力者調査部隊に配属になったウイは、保護対象を守ることができなかったことと、目の前にいる常軌を逸した考えのマリーに激怒していた。
ウイは、瞬間移動するマリーに限りなくぎりぎりで攻撃を当てようとする。
マリーはなぜこんなぎりぎりで能力を発動しなければならないのか理解できなかった。
気を抜けば、強烈な蹴りが顔面に直撃する。だからこそ、マリーは瞬間移動し続ける。
回転しながら踊るように、移動し、マリーの瞬間移動先に驚異の速度で先回りし攻撃を繰り出すウイ。
そして、マリーの思考を読んだウイの移動速度が、マリーの思考速度と同化した瞬間。
「『月蹴』」
マリーは、反射的に両腕で顔面を守った。
振りぬかれる横薙ぎの上段蹴りの衝撃は、マリーを穿った。
そして、マリーは吹き飛ばされた。しかし、そのまま姿を消し、マリーは逃げた。
「くっそ!・・・」
ウイの口から悔恨の言葉がでた。
そして、ノリピーとの闘いから酷使していた身体に限界を迎え、その場に倒れた。
銃を構えていたが何もできなかったハジメは、急いで全員を特殊能力者調査部隊の病院へ運んだ。




