第51話
第51話 A地点【意地】
「魔法少女マリーの登場でーす。佐川チン、メウちゃん。頑張ってますかぁ?」
緊迫した状態の中に突如、現れた異質な少女。
「取り込み中のところ申し訳ないんだけど、佐川チン、あと頼める?メウちゃんは死なせられないんだって。」
「・・・まじかぁ。まぁ、カイがそういうならしょうがねえな。メウ、お迎えだ。行け。」
「嫌だめぅ!マリーなんで佐川を置いていくめぅ!?」
「えぇ?時間稼ぎが必要じゃん。あとメウちゃんの能力は私とおんなじで結構重要なんだよ?」
「そ、そんなひどいめぅ。」
「いいからメウ。マリーと行け。」
「先ほどから勝手なことを言わないでもらっていいですか?」
怒りを露わにした武藤が、折れた日本刀を構えマリーに攻撃した。
しかし、マリーは武藤の攻撃を消えるように避けた。
「あのね!あなたの相手はそこの佐川チンなの!やめてもらえる?」
「マリー。さっさとメウを連れてけ。」
そういうと、姿の見えない本体の佐川が武藤を攻撃する。
しかし、音で素早く反応した武藤は、バールを日本刀で受け止める。
「はーい。じゃあ、帰ろ~。メウちゃん。」
「佐川!」
「じゃあな!メウ。」
―――――
メウと佐川は、BRAINSの同期である。
佐川の能力とメウの能力は下から数えたほうが早いほど弱かった。コンビを組んでから何かとずっと一緒にいた二人は、お互いの能力を知り尽くしていた。
佐川は、メウの能力が弱いと思ったことはない。メウの能力はただの目くらましではなく、素晴らしい可能性を秘めていると感じていた。
だからこそ、マリーが回収にくることを素直に受け入れることができたし、今やらなきゃならないのは、この目の前の敵を倒すこと。それも自分よりも明らかに強者を。
マリーとメウは一瞬にして消えた。
佐川は一人取り残された。ふーっとため息をつき武藤に向き直った佐川は、話し始めた。
「あんたの見立て通り、俺は幻影を作り出すことができる能力だ。幻影を作っている間、本体は目には見えない。だがあんたは、俺の歩く音や攻撃するときに出る音だけで場所を特定した。どう考えても力の差は歴然だ。能力じゃない、BRAINとしての五感の質が違う。正直、勝てねえ。が、勝てねえなりに戦わせてもらう。」
「私は今、猛烈に怒っています。私をだしに使い、ミナミさんを狙った。卑怯極まりない。」
「いやいや、そうでもしないと勝てねえんだわ。メウは戦えない。2人いる時点でサポートを狙うのは決まってた。」
下を向き、いら立ちをかみ殺している武藤が言った。
「・・・青木サキの居場所は?」
「は?」
「・・・青木サキの居場所はどこですか?」
「なんだよいきなり。知ってても言わねえよ。」
「こちらは超法規的措置を実行できます。青木サキの居場所は?」
「だから、知らねえ。」
「・・・では、BRAINSの仲間として、あなたを討伐します。」
「全力で抗って見せるぜ!」
武藤は、緑川を抱き上げ、壁際まで運びそっと横にした。
そして、振り向きざまに緑川が持っていたスモークグレネードを広い空間の中央へ放り投げた。
シューっと音をだしながら巻き上がる白い煙。
それは、佐川にとっては余計な代物だった。幻影を発動している間は、相手には見えないが、実体はある。その実体が動けば、音もなるし、煙も揺らぐ。
武藤は、この方法で確実に佐川の居場所を把握することができる。あとは、脱兎戦でも露呈したが、克服しなければならないとわかっていたこと、それが自分の能力への順応だった。
時間を引き延ばして加速することで、高速で攻撃できるが、自分自身の動体視力が追い付いていないため繊細な攻撃はできない。
この煙で視界の悪い状況で、能力を使っても相手の急所を正確に穿つことはできない。
しかし、武藤の感情の高ぶりが、BRAINとしての次のステージへ押し上げることになっていた。
「まあ、やれるだけやってみるか。」
佐川は、広い空間に煙が充満する前に移動し全く動かなくなった。
そして、手に持っていた、そこらに落ちていた廃材を武藤の方へ放り投げた。
すると、武藤は煙の揺らぎを見て折れた日本刀でその廃材を切り伏せた。
その隙に、佐川は、移動した。そして、また廃材を投げた。それを繰り返しているうちに煙はどこもかしこも揺らぎ始め、武藤は煙だけでは佐川の居場所がわからない状態になっていた。
「せこいと言われようが関係ねえからな。」
というと、佐川はこぶし程度の大きさの石を武藤目掛けて投げた。
武藤の目の前に急に佐川が現れ、武藤は、気を取られたが、能力を使いぎりぎりで背後から飛んできた石を避けた。
幻影を使い、気をそらして本命の投石。なんとも狡猾な戦法だ。
しかし、それだけでは終わらなかった。投石の延長線上には、ドラム缶があった。武藤の避けた石はドラム缶を直撃し、大きな音を立てた。
佐川はそこを見逃さなかった。その大きな音に紛れ武藤に近づき、バールを思い切り振り下ろした。
完全に取ったと確信した佐川は、握っていたバールが地面を穿ち、手が痺れていた。
なぜなら、そこにいるはずの武藤がいないのだ。
完璧な手順を踏んだ一撃が躱された。そう、武藤は最初から能力を全開にしていた。
時間加速の能力と緩急のある動きで残像を作り出していたのであった。
煙の存在と佐川が煙を揺らがせることによって、武藤もまた煙の中に隠れていた。
そして、佐川が幻影を出した場所と反対側、さきほど緑川にやったような同じ位置に必ず来ると信じて待っていた。
そして、床から伝わる打撃音と衝撃が佐川本体の居場所を武藤に伝えた。
「『神薙』!!!」
神速の一振りは、煙もすべて吹き飛ばし佐川に直撃した。怒髪天を衝く怒りを抑え込むほどの冷静さと集中力が生んだ一刀両断は、みねうちゆえに佐川の両腕と胴体を切り裂くことなく吹き飛ばした。
「ごはっ!!!」
大量に口から吐血した佐川は、壁に激突し大きなひび割れを作った。
そして、だらりと倒れこみ意識を失った。佐川は戦闘不能になった。
A地点での情報収集は失敗となってしまったが、武藤と緑川のおかげでBRAINSの一人を制圧することができた。
―――――
武藤は緑川と一緒に救急車両に乗っていた。
佐川は、重傷だったため、別の救急車両に乗せられ、本部へと運ばれていった。
「ん・・・。」
「ミナミさん!大丈夫ですか!?」
「あ、あれ?どうなった?」
「制圧に成功しました。しかし、相手は重傷で意識がない状態になってしまいました。すみません。」
「ヒカルが大丈夫ならよかったよ。」
「いや、ミナミさんが怪我を!」
「仲間がやられるところを見るくらいなら自分が犠牲になる方がまだましだよ。今回はラッキーだったわ。」
「そんなこと・・・。」
「後方支援を名乗り出たのは私だし、あのまま私が行かなければヒカルがヤバかった。結果オーライだよ。けど、守るつもりが守られてちゃ意味ないね。」
横たわる緑川は、にこやかに武藤に言った。
武藤は緑川がやられたことによって、自分の能力が一段階上に上がったと思っていた。
不謹慎だが、緑川がやられていなかったら、時間加速中に繊細な状況判断や攻撃は出来ていなかった。青木サキという仲間を奪還するためにコンビを組んだ武藤と緑川は、短期間で武藤が自身の能力の問題点を克服するほどの信頼関係を構築するに至った。
「ミナミさん。本当にありがとうございました。」
「いいよ。別に。こちらこそ、助けてくれてありがとう。」




