第50話
第50話 A地点【横槍】
佐川リョウは、BRAINSの中でも古参の方だが、大した地位にいるわけではない。
下町の廃れたバーでバイトをしていた時に、ふと客が自分に話しているが目線は自分じゃない相手に話していることに気づき、BRAINとしての能力を理解した。
実に実用性のない能力。しかし、子供だましにはとても有効。それは、『幻影』。
本体から自分の幻術を作り出すことができる能力であり、その間本体は、存在しているが見えない。
だから、武藤は不思議な手ごたえを感じていた。
思っていたところに攻撃を仕掛けたが、じつは身体一つ分ずれていたのである。
みねうちは佐川の胴ではなく、その幻術の横にいた本物の腕にぶつかっていたのである。
「殺すって言ったってよ、殴るだけじゃ死なねえだろ。」
「それはそうめぅ。弱いうちらじゃあの人に勝てないめぅ。」
「殺傷力がない能力なのですね。」
「武器はせこいな。どうするかぁ。」
「悠長に話してる時間はないめぅ。そこのバール様な物を使うめぅ。」
「いや、これはバールの様な物じゃなくて列記としたバールだな!」
「よりによって廃墟に忘れものですか。面倒ですね。」
武藤は、相手が武装したことを内心嫌がった。
それは、日本刀が玉鋼を使った硬い刃物だとしても、鉄の塊であるバールで叩かれたら曲がってしまうからだった。刃も欠けるし、最悪、折れてしまう。みねうちでの戦闘不能を狙っていたが、それもできなかった。武装した相手を制圧するには、ある程度本気で戦わなければならない。
しかも、メウが視界を遮ってくる。これもまた非常に面倒だった。視覚外からの攻撃だと時間を引き延ばしたとしても被弾してしまう場合がある。
相手は、能力不足と言っているが、武藤からしたら十分すぎる相手だ。能力の分かっていないことも相まって厄介さが際立ってきた。
そして、戦闘が本格的に始まった。
メウが武藤の視界を遮り、佐川がバールで殴るという単純な攻撃だが、メウのひらひらした服が余計に視界を遮ってくる。
さらには、日本刀でガードをしたとしても、なぜか被弾してしまう。
メキメキと武藤のボディスーツのプロテクターにひびが入る音が聞こえる。
「ぐっ!」
緑川は狙撃位置を変えるために廃墟の中に入ってきた。
インカムから武藤の息遣いとうめき声が聞こえている。追い込まれているのは容易に想像できる。
急いで、武藤の元へ向かっている。その手には、ライフルではなく、短射程と広範囲に攻撃できるショットガンを装備している。
もちろん実弾ではない。これもまた制圧用のゴム弾である。
相手の能力はわからないが、一点集中のライフルよりも広範囲の攻撃であれば何かしら情報が得られるのではないかと判断した緑川は、階段を駆け上がる。
「ヒカル、もう少し耐えて。」
「私は大丈夫です。少し慣れてきたので・・・。この攻撃の誤差に。」
佐川の攻撃を受けながらその攻撃の出所がずれて被弾する現象を肌で感じている武藤は、佐川が別の場所にいるのではないかと考えていた。
それは、佐川の能力の核心に迫っていると言えた。
しかし、割れたボディスーツのプロテクターを通り越して貫くバールの衝撃は武藤を容赦なく蹂躙する。時間を引き延ばして回避してるとはいえ、視覚外の攻撃は避けようがない。辛うじて急所は何とか避けている。
佐川は、武藤が反撃すると急に攻撃を止め回避に専念する。やはり見えている実体と本体にずれがあるため、武藤が佐川の致命傷を避けて攻撃しても、本体には致命傷と成りうる位置に攻撃が当たる可能性があるからである。
妙な動きをする佐川に違和感を持った武藤はメウを完全に無視して攻撃に転じた。
「『時間加速』。」
佐川やメウは目で武藤を追うことができない。
緩急をつけた武藤の動きは、残像をいくつも出現させている。
超高速の不可避の横薙ぎを武藤は佐川に放った。
「『神薙』」
日本刀が高速で振りぬかれたことにより、風を切る音が広い空間に広がった。
そして、佐川はその攻撃をバールで受け止め、吹き飛ばされた。壁に激突した佐川は無理やり肺の空気を押し出されて、血を吐いた。
「がっは!」
「佐川!」
メウがスーッと佐川に近寄る。
武藤は、日本刀のみねのちょうど中心部分で攻撃したつもりでいたが、日本刀は先が折れていた。
そこに緑川が、ようやく到着した。
「ヒカル!」
「ミナミさん、なんとか一人制圧しました。」
緑川の呼び声に後ろを振り向き、制圧したことを伝えた瞬間。
「ヒカル!」
緑川が叫んだ。
武藤の後ろにはバールを振りかざした佐川が立っていた。
「まじで痛てえよ。」
完全に意識を刈り取るまではいかなかった攻撃は、佐川を本気にさせた。
それと同時に、躊躇することなく緑川は、ショットガンの引き金を引いた。
ドンと響く銃声と共に飛び散るゴム弾の散弾が、武藤の横を通り過ぎる。しかし、佐川は攻撃を止めない。
「お前じゃねぇよ。」
佐川が振り下ろしたバールが直撃したのは、緑川の方だった。
武藤はなにが起きているのか理解できてない。
ゴンと鈍い音だけが響いた。そして、緑川はどさりと倒れた。さきほどまでの一人分の距離ではなく、完全に何もないところからの攻撃を緑川は受けた。
佐川は能力の最大値を隠していた。相手が二人いる以上、どちらも倒すには、相手を引き寄せる必要があると。
そのためには、能力を調整し、被弾覚悟で武藤にわざと攻撃させることだった。そして油断したところに援護者を刈り取る。
なんとも狡猾なやり方だった。能力者ではない緑川はバールの一撃を食らい倒れている。
すぐさま、武藤が緑川の傍に駆け寄った。そして、抱き寄せて、顔を見た。
頭から血を流している緑川はまだ意識があった。
「ま、まだ、やつが近くにいる・・・。」
佐川は緑川のすぐそばにいた。
今度は武藤の頭に振り下ろされるバール。
しかし、武藤はそれを見向きもせずに折れた日本刀で止めた。
「幻術から本体が距離を取ったら音でわかるんだよ。」
イラつきが顔に浮かんでいる武藤が、佐川を睨んだ。
佐川は驚いた。見えていないはずの自分の姿を武藤は捉えている。
武藤は振り下ろされるバールの風切り音から佐川の居場所を特定した。
先ほどまでは、幻術と本体の距離が近いためにその正体がよくわからなかったが、今の状況をみればだいたいの能力は理解できる。
「あそこに突っ立っているのは、偽物の幻影だろ。そして、そこにいるのが本体。」
「まじかよ。」
佐川は、武藤のその鋭敏な感覚に驚愕した。
「メウ!逃げろ!こいつはやべえ!」
「それはできないめぅ!メウも戦うめぅ!」
するとこの緊張した空間に似つかわしくない声が現れた。
「魔法少女マリーの登場でーす。佐川チン、メウちゃん。頑張ってますかぁ?」




