第41話
第41話 試験という名の戦場
「サキちゃん!」
白中の声が訓練場に響く。
身動きの取れないサキは、なすすべなく八咫烏に捕まっている。
「はい。動かないで~。少しでも動いたら殺しま~す。」
喉元にはナイフが突きつけられており、刃が首を切り裂かんとしている。
武藤は、日本刀に手をかけ、いつでも能力で突撃できる準備をし、大門も本物の銃を取り出し、銃口を向けている。ウイは、ユイの元に駆け付け、矢切と共に容体を心配しつつも八咫烏を睨み、広瀬もそれを守るように陣取っている。
「何が目的だ。」
黒木が静かに八咫烏に尋ねた。
「さぁ。わかりません~。私はこの青木サキの捕獲依頼を受けただけ~。」
声色とは裏腹にペストマスクのこもった声が、気色悪く聞こえる。
「しっかし、遅いなあ~。幹部補佐は何してんだ~?」
「・・・!?」
「白中!まだ増援があるかもしれない!あたりを警戒しろ!」
「うっす!」
周りを警戒しつつも青木の状態が気になる一行。
八咫烏は、何かを待っているようだった。
すると、そこに炎が混じった黒煙が降り注ぎ、新たな侵入者が現れた。
「あぁ~っと。遅くなってわりぃ。まだ上手く飛べなくてよ。」
「君が無名が言っていた。パイロ君かな~?」
「あぁ。そうだ。けどそのパイロ君ってのやめてくれねぇかな。もう新しい名前があんだよ。炎煙って名前だ。」
「えんえん?なにそれ、だっさ~。」
「うるせぇよ。」
―――――
「パイロ君。君には八咫烏の補佐をお願いするよ?」
「どんな仕事だよ。」
「簡単さ。人さらいだよ。人殺しの苦手な君にはうってつけだろ?」
「っち!うるせぇな。」
「あと、パイロ君って名前をやめようと思っているんだ。なぜなら、君の能力はパイロキネシス。炎を操るもの。安直な名前すぎて、相手に能力がばれてしまうからね。」
「付けたのは道化、お前だろ。」
「ははは。その通りだね。今回もいい名前を思いついているよ。今度から君は炎煙だ。」
「えんえん?」
「そう。えんえん。自分の弟を殺し、子供みたいにえんえんと泣いた君に取ってもお似合いな響きだろ?」
「・・・殺すぞ?」
目つきの悪い男は、一気に燃え上がった。
「名前が嫌なのかい?それとも過去をほじくったのが嫌なのかい?」
「どっちもだよ!」
「だって事実じゃないか。事実を指摘されて、逆切れするのは君のよくないところだよ。ドゥーユーアンダースタンド?」
「っけ!本当に癇に障る野郎だ。」
「ははは。言うようになったじゃないか!何かい?能力が向上すると態度まで大きくなるのかな?」
「はいはい。付き合いきれないぜ。」
「しかし、目を見張るものが君にはあるよ。やっぱり。この間までは、ただ炎の壁を作るので精一杯だった君が、完全燃焼と不完全燃焼を使い分けて、炎と黒煙を両方扱えるようになった上に、空まで飛べるなんて。卑怯極まりないね。どう考えたってSランクじゃないか。」
「褒めてんのか、嫌味なのかどっちかにしろよ。」
「もちろん嫌味さ。たかだか空が飛べるからなんだって言うんだ。物理攻撃はちゃんと効いてしまうじゃないか。炎なのに。煙なのに。」
「知らねぇよ!芯があるだからそりゃあ、攻撃もあたるだろ!」
「完全に不定形のものになれるBRAINだとしたら、止めることができないのになぁ。本当に残念だよ。」
「もういいだろ!ちくちく話は。本題はなんだ。」
「あぁ、そうだね。君への嫌味はこれくらいにして、八咫烏が今、特殊能力調査部隊の関西地区に潜入している。それで、今度東京地区と関西地区で合同試験があるみたいなんだ。」
「それで?」
「そこに必ずいるであろう『青木サキ』を捕獲し、連れてきてもらいたい。」
「目的は?」
「知る必要はないね。とにかく上からのお達しだ。黙って言うことを聞くことだ。」
「はぁ。またそれか。大事なことは知らされないままかよ。」
「まぁ。十中八九、戦闘になるだろう。そこで君の煙と飛行能力でさっさと帰ってきたまえ。」
「なんだ。戦わなくていいのか?」
「逆に戦いたいのかい?特殊能力調査部隊の精鋭のなか、さらには東京地区と関西地区両方を相手するんだぞ?馬鹿なのか?」
「いや。聞いてみただけだ。」
「まぁ。いざというときは、八咫烏のしんがりを務めてもらうことになるだろうけど、君もできるだけ逃げに徹してくれ。」
「お、おう。」
「心配しているわけではないからね。君の新しい装備にかかる費用が無駄にならないようにということだから。」
「・・・。はいよ。」
―――――
黒煙と共に訓練場に降り立った男は、真っ黒い特注のフルフェイスのマスクを被っていた。
それは、燃え上がる炎に照らされているが、マット加工されており、光を反射せず、黒煙に紛れれば、どこに顔があるかわからないような仕様のヴァンタブラックのマスクだった。
「あぁ。どうも。特殊能力調査部隊の皆さん。東京地区の人は久しぶりだな。」
「お前はあの時の!」
白中は、東雲姉妹の公園での激闘を思い返していた。
FQ3を捉える寸前に横やりを入れてきた男、そうあの目つきの悪い男を思い出していた。
「悪いが、この女を連れて行かなきゃならねぇんだ。争いたくはない。引いてくれねぇか?」
「できるわけねぇだろ!」
「まあ、そうだろうな。」
「白中、私があの八咫烏とやらをやる。あの炎煙とやらを頼めるか?」
武藤が白中に声をかけた。
「うっす!任せてください!」
「だとさ。どうするよ。八咫烏?」
「いやいや~。聞いてないの?逃げの一手だって。君がどうにかするんだよ~。」
「じゃあ、行くぞ。『大煙界』。」
と、ヴァンタブラックのマスクを被った男がそういい、大量の煙をあたりにまき散らそうとしたときだった。
「は~い!魔法使いの登場で~す!」
「そのダサい登場しないとダメなの?」
「もう!ノリピー!私の特別な登場シーンを邪魔しないで!」
「はいはい。」
と、華奢な体躯と大きな帽子とローブを着た少女と、すらっとした眼鏡をかけ、ラフな服装をした女性が、どこからともなく現れた。




