第40話
第40話 東雲ユイVS鳥飼アヤセ
「第三試合を始める。東雲ユイ、鳥飼アヤセ両者前へ。」
黒木がそういうと、二人は訓練場の中央に立った。
ユイの方は準備万端といったところで、腕をぐるぐると回し、気合十分だ。
アヤセの方は、特にやる気を感じない。それどころか、遠く空のかなたを眺めている。
「なんで、そんなにやる気ないの?」
「いや、Sランクに等しい人と戦うのなんてどう考えても勝てるわけないなぁって。」
「そこは自分の能力を出し切って戦えば評価してもらえるんだよ!」
「はぁ。誰に評価されたいんだか・・・。」
「・・・?」
鳥飼アヤセは嘆息した。
今の彼女は心ここにあらずの状態で、とりとめのないことを考えている。空が青いだとか、訓練場の砂埃が舞って口に入ってくるだとか、試験に対して全く集中していない。
それがわかるからこそ、ユイは内心、苛立っていた。
前の二試合とも真っ向勝負での本気の戦いだった。それを目の当たりにし、特に姉であるウイの力を見て驚愕した。自分もあれと同等の力を見せなければならないと思っていた。
「では、試合開始!」
黒木の声が響いた。
「ガンガン攻めて行くよ!」
「集中力がないとできないんでしょ?あの技。じゃあ、こうするだけ『群鴉』」
アヤセが能力を発動した。どこからともなく大量のカラスが飛んで、ユイに群がる。
その数100羽以上。みるみるうちにユイは黒い塊に覆われ、ついばまれ、引っ掻かれていた。
「うわぁあ!数が多すぎ!」
カラスたちはヒット&アウェイで次々にユイに攻撃している。そして、アヤセは空を眺め何もしない。ユイは、カラスに打撃を撃ち込み、羽を散らして息絶えるカラスの羽がさらに視界を悪くする。
圧倒的な数の暴力。カラスたちは、ただやみくもに攻撃しているわけではなく、目や喉を狙い攻撃してくる。それを躱しながら、反撃しているユイも驚くべき身体能力である。
人の心を読む能力を持つユイでも、動物の心までは読めない。
ゆえに、カラスが何を考えているかなどわからない。さらに、その先にいるアヤセも今は全くカラス任せで、攻撃に参加しようとしない。
無理やりこの状況から飛び出して、アヤセを狙えば勝機はあるとユイは思っていた。しかし、Sランクに匹敵するユイが一瞬でやられ、のちに大変な事態が発生するとは今はだれも思っていなかった。
―――――
「鬱陶しいなぁ!」
ユイの打撃の手数がさらに増えていく。
黒い暴力をすべて両の手だけで捌ききっていく。カラスたちの断末魔が遠くに聞こえだしたころ、ユイは無意識化でゾーンに入っていた。
ユイを纏う白い靄と黒いカラスのコントラストが鮮明になっていく。
死してもなお、増え続けるカラスの軍隊は、突撃をやめない。黒い羽根とカラスの死骸が訓練所に散らばっていく。
今までにない、清々しい戦いではなく、血泥にまみれた生々しい戦いとなっていた。
「ぶっつけ本番!『絶根』!」
ユイは、地面に向けて大技を繰り出した。
ウイによってひびの入った訓練場の土台が、衝撃でぐわっと持ち上がった。
その石たちを素早く次の技で破壊した。
「『万打螺』!!!」
螺旋の力を加えた幾万の打撃が、浮いた石を穿つ。
その石が破片となり、辺りに拡散し飛び散っていく。それは、鋭利な凶器となりカラスたちを貫き八つ裂きにしていく。
高速で飛んでいく石のつぶては、カラスたちを一網打尽に墜落させた。
大量の黒い羽根と血しぶきにより、訓練場は地獄絵図となっていた。そして、ユイは低い体勢でアヤセに向かい電光石火で突進した。
―――――
「あぁ~。なんて今日はいい天気なんだろう~。そして、鳥として命を散らすにはとても相応しい日和だ~。ん~?死ぬ日に日和なんてあるか~?」
急に口調の変わるアヤセ。
ユイは突進している。目の前の鳥飼アヤセが姿を変えた。
ペストマスクを被った黒いコート来た人物に代わっていた。それも一瞬の出来事。
ユイの動体視力は能力で上がっているが、何も気づくことができなかった。
上空から命を捨てた最速の鳥がユイを狙撃したことに。
「がは!」
ユイの後頭部に強烈な衝撃が走った。
そして、ユイの目の前がブラックアウトした。
―――――
「あれ~。死なないじゃん~。普通、最高速度のハヤブサが頭に直撃したら死ぬでしょ~。」
ユイに何が起きたかというと、カラスの群れから脱出し、一直線にアヤセに近接戦闘を行おうとしたとき、上空から落下してきたハヤブサがユイの後頭部に直撃し、意識を刈り取られた。
通常であれば、時速400㎞にもなる直滑降のハヤブサが頭部に当たれば即死だ。しかし、ユイは白中同様、ゾーン中であればSランクに分類される身体強化を得ていた。それにより、即死は免れた。
訓練場の空気が変わり、黒木が叫んだ。
「全員!戦闘態勢に入れ!」
「派手な登場って最高~!残念ながら鳥飼アヤセは偽物で~す!」
「誰だ!貴様は!」
矢切もユイを庇うように立ちふさがり言った。
「FQ3幹部が一人~。八咫烏~。最強の鳥使い~。見たでしょ?今の『鳥の狙撃』をさ~。」
「全員、幹部を取り押さえろ!」
「っと!任務遂行~!」
全員がわっと八咫烏を取り押さえようとしたときだった。
ふっと、八咫烏が姿を消した。そして。
「ん~~!!!!!」
「はい。捕獲~。」
皆が視線を向けた先にいたのは、八咫烏に口を押えられ、身動きの取れなくなっていた青木サキだった。




