第31話
第31話 閃光
「あひゃー!危ない!」
「ちょこまかと逃げ回って!」
「その殺意!尋常じゃない!あひゃー!」
ここは大阪の繁華街のど真ん中。閃光と呼ばれる特殊能力調査部隊関西支部のSランクBRAINとFQ3の幹部の脱兎との戦いの最中だ。
「あひゃー!このBRAINの脳は絶対に持ち帰るんだからうちも本気だすよん!」
「低ランクのBRAINが私に勝てると思っているのか?」
「あひゃー!勝ち負けにこだわっているようじゃ大事なものを取り逃すよん?」
「口だけは達者なようだな!」
閃光と呼ばれる、武藤ヒカルは、日本刀を振り脱兎を追い詰める。
武藤ヒカルの能力は、Sランクのなかでも特殊であり、肉体強化がない。しかし、驚くべき能力は、時間の引き延ばしである。
「『時間加速』。」
超高速で動き始める武藤。目で追うことのできない速度で攻撃を仕掛ける。
脱兎はもろに日本刀の両断を受ける。
「あひゃ!」
「・・・!?」
しかし、脱兎を両断することができない。
その理由は、脱兎が身に着けていた装備にあった。服は耐刃性にすぐれ、切ることができない。
さらにはその服の下に、軽量かつ硬質のプレートを付けていた。
「あひゃ!痛すぎ!金属の棒をその速度で振り回したら危ないってわかんないの?」
「今度は殺すために振るう!」
「でもさ!自分の速さに体がついて行ってないんでしょ?正確に頭を狙えるのかなぁ?」
「・・・。」
「あひゃー!図星も図星!スーパー図星!いや、ここはハイパー図星かな?」
「うるさい!」
高速ですぎる時間のなかでの風景というのは、武藤の動体視力を以てもうまくとらえることができない。脱兎はそれを見抜いていた。だから急所を的確に射貫くことはできない。
それを知られたうえでも、武藤は攻撃をやめない。
脱兎は、柔軟な体を生かし、ぎりぎりで避けようとするが間に合わず、日本刀の攻撃に被弾する。
しかし、どれも致命傷にはならない。
単なる切り付けでは埒が明かない。武藤は、自身の持つ能力を最大限に生かした技を繰り出した。
「閃光雷貫」
武藤がいたところが爆ぜた。そして、脱兎へ向かっての一直線の突きの攻撃。
狙いすました攻撃は脱兎の顔面を捉えようとしていた。
しかし、脱兎の手のひら一つで受け止められてしまった。その刃は、手のひらを貫き、顔面すれすれで止まっていた。
「あひゃー!あぶねー!でもこれで捕まえた!じゃあ、逃げるが勝ちってことで!」
脱兎は、武藤の肩に手をのせた。
すると、武藤の体に電撃が走ったような感覚に陥った。
「がっ!」
「そのままそこで麻痺ってなさい!あひゃ!」
ずるりと刃から手を引き抜くと、脱兎はものすごいスピードでその場から逃げ出した。
武藤は、声も上げることができず、突きの態勢から動くことができずに、脱兎を取り逃した。
―――――
「あひゃー!痛てぇ!」
手のひらを日本刀で貫かれた脱兎は、包帯を巻いていた。
「で、うちがまじで頑張ったんだからあのBRAINの脳は大丈夫なんだよね?」
「はい。回収済みですでに無名様に届ける準備ができています。」
「はい!優秀!うちがね!腕一本くらい持っていかれると思ってたけど、Sランクでも大したことないね!」
「閃光と渡り合えるのは、幹部の皆さんくらいしかいないんじゃないですかね。」
そう話すのは、脱兎の手下の男だった。
彼もその場限りの役回りを任された人物の一人で、組織からしたら大した男ではない。しかし、脱兎が表立って戦うスタイルの関西地区では、そのフォローのすべてを任されていた。
「あひゃ~。かなり疲れたなぁ!道化の手下にBRAINの脳を渡すって言ってたけど無名はなにを考えてんだか。何か労ってもらわないとね。」
「そうですね。今回の任務はすべて脱兎様一人で行いましたから。」
「閃光が来るなんて聞いてないし、うちも関西地区から東京に戻りたいんだけど。」
「BRAINの脳が無事に無名様のもとに届いた場合は、幹部会議があるのではないでしょうか?」
「その時は、ちょっと報酬をもらわないといけないね!」
「ご提案するのが筋かと。」
「うーん。何にしようかな。」
「時間はあるので、ゆっくり考えていいと思います。」
「そうするよん。」
―――――
閃光の名を持つ武藤は、仲間に回収され、病院へと搬送されていた。
その中でようやく声を発することができるようになった。
「すまない。脱兎のやつを取り逃がしてしまった。」
「いいえ。命を取られなくてよかったです。武藤さんを一人にしてしまった我々の失態です。」
そういうのは、武藤と同じ関西地区の特殊能力調査部隊の一人、広瀬マルタだ。
彼もまたBRAINだが、白中同様関西地区の特殊能力調査部隊に入ったばかりだった。
「その通り。今回は脱兎一人に執着しすぎた。捕まえることを優先しすぎて裏に隠された事象を把握できなかった。」
「矢切課長。脱兎と戦って分かったことがあります。見ての通り、脱兎の能力は相手を麻痺させる能力だと思います。」
「武藤の能力は身体強化をするものではないからな。毒のような類は相性が悪いな。」
矢切課長と呼ばれる男は、長身の眼鏡をかけたスマートな男だ。
「しかし、サポートができずに申し訳ない。関西地区の特殊能力調査部隊も東京同様、特殊能力調査部隊の力の向上を図っている最中だ。もう少しすれば、新しい人材も入ってくる。」
「それは楽しみです。Sランクに分類されている私でもさすがに今回のようなことがあると厳しいです。」
「あぁ。わかっている。ヒカルばかりに頼っていては、関西地区の秩序は保たれん。マルタ。お前もその能力を発揮する機会が来る。東京に後れを取らないようにしろ。」
「はい!わかりました!」
現状の関西地区の特殊能力調査部隊は、Sランクの武藤とBランクの広瀬だけがBRAINとして活躍している。それ以外は、オペレーターやシステム担当がいるが、BRAINはこの二人だけに頼っていた。
矢切は、人材の補充をするために、保護対象から2人のBRAINに声を変えていた。それは東京の東雲姉妹同様に特殊能力調査部隊の強化のためだった。




