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BRAINS  作者: 愛猫私


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第29話

第29話 泣く道化



 炎の扱いが分からない。この能力がどんなものかわからない。

 公園の時はとっさに炎の壁を出現させることができたが、今はただ燃えているだけだ。

 そもそも俺に戦闘技術は皆無だ。

 道化のナイフを捌くことはできない。だから、最初から捨て身で行くしかない。

 ナイフで刺されたときに相手を掴み一気に炎上する。そうすれば相手も燃え上がってただでは済まないだろう。


 そんなことを考えている、目つきの悪い男。

 

 「しかし、派手だね。本当に本当に君がうらやましいよ。」

 

 と言い、ナイフを取り出す道化。

 ナイフを器用にくるくると回し、遊びだとしても卓越したナイフ捌きを見せてくる。

 薄暗い倉庫の中、ひと際明るい炎の男と、それに照らされた闇と言っていいほどの道化が、じりじりと対峙する。

 

 ここで目つきの悪い男が、負ければあの二人の脳を食わされてしまう。

 何としてでも、それだけは阻止しなければいけない。道化から与えられた任務とはいえ、二人を守るのは目つきの悪い男の約束だ。

 

 「僕が勝ったら君には二人分の脳を食してもおらう。君が勝ったら、僕が自害して君を後見人とするよ。」

 「随分と余裕だな。」

 「あぁ、余裕さ。ずっと君を見てきたからね。君だけを。人間そのものである君をね。苦悩、葛藤、失望、すべてをさらけ出した人間がやることは一つさ。ドゥーユーアンダースタンド?」


 するとそこに、一人の男が割り込んできた。

 

 「お取込み中のところ申し訳ないのですが、この場を仕切らせていただいてもよろしいですか?」

 「無名!なんでお前が出しゃばってくるんだ!」

 

 無名と呼ばれるスーツを着た男。ビッグエアーの会長の側近として、組織の幹部の一人が現れた。

 明らかに嫌悪する道化。状況がつかめない目つきの悪い男。


 「折衷案をお持ちしました。道化様にもそちらの炎のBRAINにとってもいい話だと思いますが。」

 「あのさ~。パイロ君には、どれだけ時間をかけたと思ってるんだよ。幹部だよ?幹部。自然発生させたBRAINにどれだけの価値があると思ってんのさ!」

 「それは重々承知です。しかしながら、そちらで転がっているお二人にも利用価値は十分とあると判断させていただきました。」

 「それは戦闘スキルの問題だろ?そういうのは補填が利くだろ。」

 「はい。その通りですが、ちょうど別動隊が能力の高いBRAINの脳を手に入れたので、お二人に食してもらいたいと考えております。」

 「おい!待てよ!BRAINの脳を食べると能力まで奪えるのか?」

 「もちろん自然発生したBRAINよりも能力は劣化します。しかし、もともと強い能力であれば、その劣化も最小限に抑えることができるでしょう。どうしますか?」

 「どうしますか?じゃないよ。幹部を3人も増やすのかい?」

 「我々の組織としては、力の保有が最優先だと考えます。しかも、道化様が選んだ人物であれば、相当の人材だと思っています。」

 「ははは。それはそうだ!だけどね。この戦いは、彼をもう一段階レベルアップさせるために必要だったんだよ。仲間を食らうということでさ。」

 「役割のはく奪による絶望ですか。」

 「そういうこと。」

 「あまりいい趣味とは言いえませんね。」

 「無名。いくら君が強いからと言って立場は同じなんだよ?」

 

 道化の声色が急に変わった。

 悪寒のする声は、目つきの悪い男を動揺させ、炎を揺らがせた。

 

 「しかし、幹部同士の戦いはご法度。それもまたご存じでは?」

 「・・・まったくもってくだらないことを言うね。無名は。」

 「戦力の低下に繋がることをしたくないだけです。さて、お答えいただけますか?」

 

 道化はくるくると回していたナイフをしまった。

 そして、目つきの悪い男に問いかけた?


 「パイロ君。どうする?僕は君と一戦交えたいと思っていたんだけど。あれがあんなこというから。」

 「二人が助かるなら戦う理由はないだろ。」

 「はぁ。そうだよね。」


 そう道化がため息をついた、その瞬間。

 道化は瞬時に目つきの悪い男の懐へ近寄り、首にナイフを当てた。

 その腕を無名が止める。一瞬のことで何がなんだか理解できない目つきの悪い男。

 

 「言っておくけど。僕と相打ちするような考えは二度と持たないことだ。どう考えても能力を発現させる前に君は死ぬ。そういうのが一番嫌いなんだよ。弱いからって、刺し違える覚悟を作って守りに入るのはさ。ドゥーユーアンダースタンド?」

 

 目つきの悪い男は、自分がやろうとしていたことを道化に悟られていたことに驚愕した。

 

 「無名!放せよ!」

 「私の話を聞いていなかったのですか?今のあなたは、彼を本気で殺そうとしていました。」

 「当たり前だろ!真剣勝負になめた真似をしたのはこいつなんだから!」

 「そう言わないであげてください。彼だって能力が発言してまだ、何時間もしていないんですから。」

 「けっ!いいさ!僕の育てた彼らを無名の好きなように使えばいいだろ!」

 「人聞きが悪いですね。道化様には引き続き彼らの面倒を見てもらいますよ。能力の使い方などの伝授がありますので。」

 「はぁ?また面倒なところは僕がやるのか?」

 「おっしゃる通りです。」

 「・・・。はぁ。パイロ君、どうかよろしく頼むよ。」

 

 首をゆるゆると振りながら、思ってもいない挨拶をする道化。

 

―――――

 

 「さて、ではこのお二人に脳を食してもらいましょうか。とは言いつつも、脳はだいたい1.5㎏もあります。そのすべてを食べる必要はありません。重要なのは、脳漿と脳幹です。この混合物を摂取し適合すればBRAINとなることができます。」

 「そんな説明はいいからヴァンタブラックのスーツを脱がせるのと手伝え。無名。」

 「これは失礼しました。知っておきたいことかと思いまして。」


 道化と目つきの悪い男は、傷だらけの少年と屈強な男の二人のヴァンタブラックのスーツを脱がしている。


 「こんなにボロボロにして。かなり高かったのに。こっちはマスクが粉々じゃないか。どうしたらこんなことになるんだよ。パイロ君、一部始終を見ていたんだろ?」

 「あぁ。でも悪いが、相手の能力はわからない。急に身体強化されたように見えたくらいだ。」

 「・・・本当に役立たずだね。」

 「てめぇ。それでも二人を運んで逃げてきたんだぞ。」

 「無名が折衷案を出してきたから助かった命だろ。あたかも二人を生かしているのは自分だみたいな言い方をするな。」

 「くっ。」

 「それくらいにしてください。彼らが生き残っているのは、まさに僥倖。実験材料としては、とてもいいサンプルです。これを二人に飲ませてください。」

 

 無名は、どろりとした液体の入った瓶を渡した。

 これが脳漿と脳幹のブレンドされた液体だとすぐに分かった。

 

 「意識がないうちに飲ませてあげるのがせめてものやさしさじゃないですか?」

 「わかった。俺がやる。」

 「当たり前のことをさも偉そうに言わないでもらいたいね。」

 「突っかかるなよ!」

 「けっ!」


 道化はなんとなくイライラしている。

 目つきの悪い男は、どろりとした液体を二人に飲ませた。

 

 「ちなみに、BRAINとして覚醒するかどうかは半々といったところです。ダメだったときは、残念ながら消えてもらうしかありません。」

 「・・・頼む。起きてくれ。」

 「そんなにすぐには起きませんよ?彼らは戦闘でボロボロですし、体が回復するわけでもありません。このまま、休ませてあげてください。」

 「あぁ。そうか。」

 「ところで、どんなBRAINの能力を二人に与えたんだい?」

 「脱兎様のグループが倒したのは、骨を強化するBRAINと皮膚を強化するBRAINでした。こちらの少年には骨を強化するBRAINの能力、そちらの大柄の男性には、皮膚を強化するBRAINの能力を飲ませています。」

 「なんとも地味だね。」

 「いや、これがかなり強敵でした。脱兎様もかなり苦戦したようで、脳を取り出すのに苦労したとおっしゃっていました。」

 「へ~。脱兎がねぇ。」

 「脱兎ってなんだ?」

 「幹部の一人でございます。」

 「じゃあ、幹部は全部で6人になるってことか?」

 「馬鹿じゃないの?幹部とは言ったけどいきなり僕とか脱兎みたいなポジションになれるわけないでしょ。幹部補佐程度だよ。」

 「なんだ。そうなのか。」

 「今のところ、このお二人がBRAINになったと仮定した場合、補佐的な立場として幹部に割り振りたいと思っています。」

 「やったぁ!全員僕が面倒を見なくていいんだね?」

 「さすがにそこまで道化様にやらせるのは心苦しいので。」

 「幹部補佐か。」

 「不満でもあるの?戦う?」

 「いや、なんでもねぇ。」

 

 目つきの悪い男は、自分が組織を破壊しようと思っていたが、どんどんと違う方向に流されていく感覚に陥っていた。

 組織の作る荒波に一人ではどうもできない感覚がまた蘇ってくる。力で破壊するだけでいいはずだったが、得体のしれない道化や無名、そして脱兎。

 これらをどうにかしなければ、弟の復讐など夢物語だ。しかし、その復讐のビジョンが浮かんでこない。今さっきも無名に生かされたばかりだ。目の前に横たわる仲間の行く末を見守ることしかできなかった。



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