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BRAINS  作者: 愛猫私


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第27話

第27話 ウイの激闘



 「どんな能力かはわからないが、体格差をみれば十分理解できるだろ?」

 「確かに。捕まれたら終わり。だけど、それはできない。」

 「ふん。貴様の能力なんだろう?さっきから攻撃が全く当たらないのは。」

 「さあ。教えない。」


 ウイと屈強な男の戦いは、至ってシンプル。屈強な男の攻撃を食らえば一撃で終了。

 ナイフを持っている、持っていないにかかわらず、体格差が圧倒的に違いすぎた。道化に仕込まれたナイフ捌きを以てしても、ウイには攻撃が当たらない。

 ウイも反撃しているが、ヴァンタブラックのスーツと屈強な体の男に有効打を与えることができていない。


 ユイは、打撃や関節技、締め技に特化しているが、ウイは違う。武術というよりもそれを複合させ自分で編み出した体捌きだった。我流の攻撃は、当たりはするものの、威力に欠け、屈強な男を倒すには至っていない。

 一番厄介だったのは、屈強な男の隙の無さだった。無理に攻撃しようとはせず、確実に攻撃を当てようとする。ナイフの戦いのセオリー通りであり、最小限の動きで動脈を狙い、出血死を狙っていた。

 派手に動けば、対策され反撃を許してしまう状況で、ウイの我流の武術もうまく機能していない。

 

 ヴァンタブラックのスーツの立体感のなさを克服するために、集中はしているが、心を読むことと相手の動作に反応するのにタイムラグが生じ、徐々に切り傷が増えていく。

 辛うじて致命傷を避け切り、反撃するウイだが、屈強な男は後追いしてこない。ゆえにカウンターもできない。失血死を狙っているのが分かる。


 「相手を甘く見ることはしない。ゆえに正攻法で勝たしてもらう。」

 「うーん。やっぱりトミーズのワンポイント格闘レッスン観ておけばよかったかな。」

 「トミーズのワンポイント格闘レッスンか。あれはなかなかいいものだな。」

 「げっ。観てる人ユイ以外にも居たんだ。」


 話かけてくるのも時間稼ぎなのだとわかっているが、今のウイには攻撃の威力がない。

 ヴァンタブラックのスーツの硬度もあり、生半可な攻撃は通らない。さらには屈強な肉体の持ち主。

 ウイは考えていた。どんな攻撃をすれば通じるのか。

 

 人間の筋肉量は、部位別に下半身が40%程度、さらに背中や腹などの体幹に40%程度と配分されている。それを最大限に生かした我流の武術それが、「蹴り」だった。

 ウイは、上腕による攻撃を一切止め、蹴りに専念した。予備動作の多い蹴りは、隙があるが威力が高い。だからこそ、反撃されることが想定された。

 深呼吸をして集中するウイ。いつにもなくやる気を出している。自分が思い描く我流の武術を体現するためには、ただ集中するだけでは、成功しない。

 相手がナイフの使い手であり、セオリー通りの隙の無い屈強な男である以上、そのさらに上の集中力が必要だと考えた。

 そして、ポケットからイヤホンを取り出し、耳につけた。これは相手の話を聞かないということと集中力を上げるためのウイ成りの方法だった。鳴り響く曲は、大好きな曲。

 ウイは、軽いステップを踏みながら、集中力を高める。その間も切られたところから血がしたたり落ちている。


 「まともじゃないな。聴覚を遮断して戦うなんて。」

 「何を言っているか聞こえない。」

 「まあ、どうでもいい。かかってこい。」

 「あー。あー。あー。」


 天を仰ぎ、自分の世界へ入っていくウイ。そして、最終的には目を瞑り、イヤホンから聞こえる音と屈強な男の心の声だけに集中した。

 ウイもまた圧倒的な集中力によってゾーンに至り、能力を覚醒させた。

 地べたを這いずり回るように駆けるウイ。さながら傷だらけの少年と同じような低い軌道。

 足払いの連続攻撃と、回転をかけた身のこなし、相手を見ていないからできる、がら空きの状態での回転。

 反撃する屈強な男のナイフは、柔らかい体幹により、見てもいないのに避けられてしまう。

 そして、急に両手で急ブレーキをかけ、遠心力が乗った右足で屈強な男の左わき腹を蹴りぬいた。

 まさにブレイクダンスを見ているかのような華麗な体捌きから繰り出されたのは、蹴り技最強を謳われるカポエイラだった。

 

 その強烈な衝撃で、苦鳴を上げる屈強な男。さらには、その反動でナイフが吹き飛ばされてしまった。ヴァンタブラックでできたナイフがどこか闇に飛んで行ってしまったため、すぐさま予備のナイフ抜き臨戦態勢に戻り、反撃しようとする。しかし、立体的に動き回るウイを捉えることができない。

 ブレイクダンスとカポエイラの複合の我流の蹴り技と、よくわからないトリッキーな移動術で姿を見失う屈強な男。くねくねと動くと思えば、急に立体的に飛び回ったりする。

 これは、酔拳の応用だった。酔拳はもともと足場の悪いところで戦うための歩行術を言う。それに伴って動かしている上半身を酔拳と呼ぶのではなく、あくまでも足の動きに合わせた攻撃が酔拳なのだ。

 

 ウイは、ブレイクダンスとカポエイラ、さらには酔拳の足技三種類を複合させ、とてつもない回転力の蹴りをぶち込んでいく。まさに天性の才能だった。

 見よう見まねでできてしまうウイが、集中力を高め、ゾーンに入った今この足技の遠心力を止めることは誰にもできない。

 

 徐々に防戦一方になる屈強な男。しかも、一つ一つの蹴りがだんだんと重くなっていく。

 遠心力が止まらない。掴みにかかろうとしようとしても、その手を弾きあげられてしまう。華麗なダンスのようだが、屈強な男からしたら奇妙な動きで、予想がつかない。

 

 「なんだ?急に・・・捌ききれない。」

 「う・・・」


 ウイの猛攻が続く。しかし、だんだんとウイが苦鳴を上げ始めた。

 遠心力が高まりすぎて、自らの筋肉を傷つけ始めたのだ。

 その苦鳴を聞き逃さない屈強な男。すぐさま左手でその足を掴んだ。回転が強制的に止められてしまったところをウイは見逃さなかった。

 

 止められたことにより、それが軸足となり、もう一つの足にすべての遠心力が乗った。

 

 「『月蹴(ルナソル)』」


 ウイは屈強な男の顎下を蹴りぬいた。ヴァンタブラックのマスクの顎の部分が粉々になるほどの高威力の蹴りが屈強な男の意識を一瞬で狩った。

 屈強な男の体は吹き飛び、大の字で倒れた。ウイもうずくまり、足を抑えている。さらには、体を回転させすぎて、三半規管が慣れておらず目を回している。

 遠心力によって偏った血がじわじわと元に戻る感覚に陥るウイ。グラグラとする視界でなんとか意識を保っている。


 遠い意識の中、怒鳴り声が聞こえた。


―――――


 「まずい!増援かよ!逃げるぞ!」


 屈強な男と傷だらけの少年は大の字で倒れている。

 この最悪な状況に目つきの悪い男は、冷や汗でいっぱいだった。

 

 「どうする!どうする!どうする!」

 

 戦力の二人が完全に無害化されており、自分しか残されていない。さらには、増援が来てしまった。

 自分だけでも逃げるかと頭をよぎるが、その考えはすぐに破棄した。

 この状況下を打開出来れば、組織での株は上がる。だが、何の能力もない自分に何ができるのか。

 時がゆっくりとなり、思考が加速する。

 時間的余裕のなさでの焦りと組織への打算的な考えが、ぐるぐると加速していく。

 

 『おい!なんでもするんじゃなかったのか!俺!今こいつらを救えるのは俺だけだ!なんでもいい!コウタ頼む!力を貸してくれ!』

 

 思考の加速が頂点に達したとき、目つきの悪い男は、弟を燃やしたことを思い出していた。

 そこに、ウイとユイのSOSに駆け付けた、黒木と青木、白中が現れた。



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