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BRAINS  作者: 愛猫私


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第23話

第23話 裂傷



 「あの目つきの悪いお兄さんには、僕も期待しているんだよ。」

 「ほ~。君がそんなことを言うなんて珍しいじゃないか。何か心境の変化でもあったのかな?」

 

 道化と傷だらけの少年が格闘訓練をしながら対話している。


 「心境の変化なんてないよ?」

 「じゃあ一体何に期待を?」

 「うーん。あと少し僕が背中を押してあげれば、もっといいチームになると思うんだ。だから、あの目つきの悪いお兄さんの弟を探してくれないかな?」

 「・・・。何を考えているかわからないけど、それが今後の活動の活力剤になるなら別にいいですよ?」

 「それは僕が保証するよ!」

 

 右手で掴まれた拳を軸に体を回転させ、蹴りを道化にいれる少年。

 遠心力を纏った強烈な右足の蹴りは、道化の左手で止められてしまった。

 

 「いい蹴りだね。」

 「当たってないから褒められてもうれしくない!」

 「もう2手先くらいあるといいよ。」

 「簡単に言わないでよ。」

 「とりあえず、今日はここまでにしよう。お願いされた件すぐにやっておこう。」

 「よろしく~。」


 道化の訓練にも汗一つかかない傷だらけの少年は、ゆるゆると手を振り、倉庫内にあるコンテナ兼自室に戻っていた。


―――――


 『お姉ちゃん、起きてる?』

 『うん。起きてる。』

 『今日はいろんなことがあったね!』

 『力不足を感じた。』

 『そう?みんな認めてくれていたよ?』

 『素直に受け取れるほどいい結果ではなかった。模擬戦もあの傷だらけの少年に対しても。』

 『焼き鳥屋で絡んできた少年のこと?』

 『うん。あれは人を殺したことがある。普通の人だって殺意くらい持つときがある。けど、あれは、何というか感情の起伏のない殺意だった。あれほど冷静に殺意を表に出せるなんてあり得ない。』

 『ごめん。私も能力を発動させていたら少しは違っていたかもしれないのに。』

 『あんな人混みで発動していたら疲れてしまう。』

 『でも能力の常時発動は身を守るために身につけておかないといけないよね。』

 『それはそう。対象を絞って発動していたら、不意打ちに弱い。』

 

 二人は二段ベッドで声に出さず会話している。

 今回の模擬戦と焼き鳥屋の一件で、自分たちの能力が万能ではないことを思い知らされていた。

 とくに複数人と戦うときに思考を読めるのは一人まで。ウイとユイが別々に発動すれば、二人まで。

 しかし、今のウイが心を読みユイが戦闘に集中するというやり方は、あくまでも一対一の戦いで有利に戦うための戦法だ。

 本来なら、二人が別々に能力を発動させ、戦うことが望ましい。しかし、そこまでには至っていない。

 とっておきの能力の『押圧(プッシュ)』も対象が一人であり、複数人相手ではあまり役に立たない。

 BRAIN相手にしても、FQ3を相手にしたとしても徒党を組まれ、複数相手なら不利な状況になってしまう。これがSランクのBRAINであれば一人で打開できてしまうのだから、白中の潜在能力は計り知れない。

 

―――――


 焼き鳥屋の一件から数週間後。

 暗がりの倉庫で三人が話し合っていた。

 

「相手は高校生だった。双子だからか知らねーけど、常に一緒にいる。面倒くさいことに一人になることがない。今回ばかりはやっぱり二人同時の奇襲になる。」

「想定の範囲内だ。俺も力になる。」

「で、どこで狙うのかは決まったの?」

「うーん。それも微妙だ。学校が終わってまっすぐ家に帰ってる。さすがに家に侵入して奇襲は無理だ。だけど、一週間に一度だけ、公園の広場で二人は格闘訓練しているところまで確認できた。それも結構遅くまでだ。狙うならそこしかねー。」

「夜の公園か。人は少ないだろうが、住宅街が近いな。」

「そこなんだよ。あらかじめ公園内にある街頭を壊しておく必要もある。まあ、それは俺がやるとして、繁華街みたいながやがやした音はない。やるならまじで一瞬しかない。」

「ふーん。大丈夫なんじゃない?」

「今回の件はいつもと違う。失敗したら俺らの素性がばれる可能性が高い。それは絶対にダメだ。失敗したら逃げることも考えないとまずい。」

「その逃走経路はお兄さんが考えてくれてるんでしょ?」

「まぁ。とにかく明るくないところを選んで逃げる。ヴァンタブラックのスーツを着ていれば暗闇に紛れるのは簡単だ。さっと着替えてしまえば、なんとかなるだろ。職質をかけられると面倒だが。そのときは荷物をどこかに隠して翌日取りに行くっていう方法もある。」

「よく考えつくね。」

「これでも作戦担当なんでな。」

「お前が考えた作戦なら大丈夫だと信じている。」

「今回ばかりは何が起きるかわからねー。とにかく、奇襲が成功しなければ逃げることを考えてくれ。」

「ちょっといいかな?」

「なんだ?」

「逃げるのはよくないと思うんだけど。」

「いまさら何言ってんだよ。捕まったら素性がばれるって言ってんだろ!」

「いや、だってBRAINを襲っている時点で、誰かがBRAINを襲っているって情報を渡しちゃうでしょ。」

「そ、そりゃあ、逃げてもその情報だけは渡すことになるな。」

「じゃあ、どちらかが死ぬまでやらないとだめじゃない?」


 すると、後ろから拍手をした道化が現れた。


 「少年!素晴らしいじゃないか!」

 「おい。どういう意味だよ。」

 「死を以て情報を秘匿する。これは、素晴らしい考え方だと言っているんだよ。ドゥーユーアンダースタンド?」

 「馬鹿言ってんじゃねー!生きていれば次のチャンスがある。捕まったら終いだけど、逃げの手はある。」

 「はぁ。少年は奇襲が失敗しても戦い続けて逃げないと言っているんだ。」

 「捕まったらどうするんだ!」

 「自害だ。」

 「な・・・。」

 「それほど重要なことなんだ。我々の組織が一体何なのかというのは。」

 「命を捨てろっていうのかよ。」

 「お兄さん。ちょっと勘違いしてない?僕は、捕まったら生きがいをなくして人生終了なの。だから生きている意味がないから自害する。それがたまたまこの組織にとって都合がいいってだけ。」

 「まじで意味が分からねー。」

 「どちらにせよ。作戦に失敗し、情報を残すようなことをすれば道化さんに殺されるということでしょう?」

 「筋肉だるま君!ザッツライト!」

 「俺たちは最初から末端であって、ただの駒だ。それはこの組織にいる間は変わらない。どんな成果を出したとしても役割が変わることはない。」

 「お前まで何言ってんだよ。」

 「うーん。やっぱり、お兄さんは僕たちと違うね。なんだろう。目的のために生きているというか。」

 「んだよ。それ。どこがわりいんだ。」

 「じゃあ、その目的が無くなったらどうするの?」

 「それは・・・。」

 「僕たちが一貫して言っているのは、自分のやりたいように生きるってこと。制限されたこの世の中でね。」

 「だから!俺は最初から言ってるだろ!人殺しが快楽になるようなお前らとは違うって!」

 「だーかーらー!もうお兄さんは、そういう世界でしか生きていけないんだってば!」

 「はっ・・・。」

 「そういうことだ。制限された世界とはこの組織のことだ。BRAINを殺すことしか許されない世界。そこに身を置いている時点でお前に選択肢はないということが言いたいのだろ。」

 

 道化がまた拍手した。

 

 「君はもう社会通念上、普通と言われる人生を送ることができると思っているのかい?この組織のなかで生きていくというのは、口で言うのは容易い。だけど、実際に行動に移せるかい?僕は最初に言ったはずだ。『死ねと言われたら死ね』と。」

 「・・・っくそ!」

 「そんな理想と現実の狭間で葛藤している君にプレゼントだ!」

 

 道化は、キャリーケースを持ってきた。

 何やらがたがたと中身が動いている。中に何かがいるようだった。

 

 「さぁ!君に初任務だ!このキャリーケースをこのナイフでめった刺しにしたまえ!」

 「え?」

 「君は実際にはBRAINを殺したことはないだろ?しかし、あと処理などの汚れ仕事を主にしている。だから今日は君が主役だ!」

 

 少年は期待のまなざしで、見つめており、屈強な男は腕を組んで何も言わない。

 目つきの悪い男は、道化から渡されたナイフを手に取る。ナイフの刃がよく研がれており、プラスチック製のキャリーケースなど簡単に貫けてしまいそうだ。

 ナイフの握られた手は小刻みに震えている。心臓の鼓動も聞こえるほど高鳴っている。

 

 「どうしたんだい?これが本当の初任務だぞ?自分の手は汚したくないというのは、まかり通らない話だ。ぜひとも君にやってもらいたい。これは君にしかできないことなんだ。ドゥーユーアンダースタンド?」

 

 震える手を抑えながら目つきの悪い男は、意を決したように道化を見た。

 

 「覚悟を決めたという感じかな?一つアドバイスだ。ナイフは人を殺すのに向いていない。なぜなら、動いている相手なら急所を狙いにくいからだ。しかし、今は、キャリーケースの中で無防備だ。時間はかかるかもしれないが確実に殺せる。さぁ、その手で彼らの領域に踏み込むんだ。」

 

 目つきの悪い男は、思い切りナイフを突き刺した。


 「ん゛~~~~!!!!」


 声にならない声が聞こえる。

 さらに感じたのは、何か硬いものにナイフの刃が当たる感触。

 肉を割いた感触などないほどの無抵抗感と突如現れた硬いものにあたる感触。

 それが、肉を割き骨に突き刺さっている感触だと感じ取れたのは、ナイフを突き刺して5回目だった。

 

 「ん゛~~~!!!!」

 

 急所を外し続けるナイフは、キャリーケースの中の人間をとことん苦しめた。

 キャリーケースの隙間から血が滴っているが、まだ絶命するほど血を失ってはいない。

 目つきの悪い男は、悲鳴を聞くたびに目をそらすが、ナイフを刺すことをやめない。

 

 下手なナイフは、拷問のように薄皮を剥ぎ、時には的確に神経を断ち切り、骨をも砕く。

 目つきの悪い男は、永遠とも感じる時間の中にいた。

 

 『いったいいつまでかかるんだ。』


 ナイフを刺している目つきの悪い男は、汗をかいており、だんだんと力が入らなくなっていた。

 それもそのはず、キャリーケースの中から悲鳴が聞こえなくなってからも一時間以上、ナイフでめった刺しにしていた。

 

―――――


 「はぁはぁはぁ・・・。」


 目つきの悪い男は、力なく座り込んだ。

 キャリーケースは、ボロボロになっており赤い鮮血で原形を留めていない。

 頭の中が真っ白になっていた。

 

 「人を殺した・・・。」

 「その通り!それも確実に!」


 目つきの悪い男は、冷静になった思考が自分のやったことの重大さを理解して、拒絶反応を示した。

 内臓がひっくり返るほどの嘔吐をし、涙目になる目つきの悪い男。


 「おいおい。汚いじゃないか。人が死ぬところは見たのに、殺すとなるとこうも変わるのかい?いつもと変わりはしない同じ死だ。」

 「・・・馬鹿言ってんじゃねー。こんなものに慣れてたまるかよ。」

 「慣れる?また勘違いをしているね。慣れじゃなくやるんだ。もう君は後戻りもできないし、目的も失ったわけだ。」

 「・・・はぁ?目的を失う?」

 「ザッツライト!なぜなら君が今自分で手にかけたのは、君の弟なのだから!」


 道化はキャリーケースを開け、血だまりになった中身を見せた。

 

 「・・・は?」



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― 新着の感想 ―
全話読ませていただいてます。敵(?)には敵の物語が有りそうな感じが良いと思います。23話のラストは普通に驚いて声出そうになりました。ケースの中はそよ風を起こす男じゃないかと下らない考察をしてましたので…
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