第22話
第22話 接近
居酒屋ということもあり、がやがやした音で各席の声は聞こえない。
しかし、ウイは席に戻っても心ここにあらずな状態だった。
「どうかしましたか?」
青木がウイの異変を察知して尋ねた。
「いや、なんでもありません。」
「これだけ人が多いと心の声が聞こえたりして疲れちゃいますよね。」
「それは確かにそうですね・・・。」
「そろそろ帰りましょうか。白中さん、お会計もらえますか?」
「ああ、いいぞ。」
白中が店員を呼んだ。
―――――
「腹もいっぱいになったからもう帰るぞ。会計済ましてくるから先に外出てていいぞ。」
「ありがとう!ご馳走様!」
傷だらけの少年は、快活に目つきの悪い男へ感謝を述べた。
屈強な男と傷だらけの少年が先に店をあとにするため、店内を歩いている。
そして、白中たちの席の横を通り過ぎるその瞬間にことは起きた。
「・・・ねぇ。なんで君そんなに僕におびえているの?」
ウイの顔を覗き込むように傷だらけの少年は、ウイに向かって言った。
ウイの肩がビクッと跳ねた。なぜ、悟られたのか理解できなかった。
「おい」と屈強な男が傷だらけの少年を制止した。
「連れが失礼なことをした。すまない。」
「い、いや。」
「酔っ払いにしては若すぎるな。絡むなら別のやつにしてくれ。」
白中が割って入り、その場を収めようとした。
その時だった。
「わりぃ。わりぃ。こいつかわいい子を見ると見境なく話しかけちまうんだ。」
と目つきの悪い男が、会計を済ませやってきた。
「馬鹿。行くぞ。邪魔してすまねぇな。」というと足早に店を後にした。
ウイは硬直していた。明らかにウイに向けられた殺意を感じ取ったのだ。しかも、通常ではない。
ユイは、能力を発動していなかったため気づかなかったが、ウイの表情から悟った。
『お姉ちゃん?大丈夫?』
『今の人は、かなり危ない人。』
『何を感じたの?』
『私に向けられた形容できない殺意。』
心の中で、殺意を向けられた。しかし、実際には何も起きていない。
傷だらけの少年の言動が、ウイの恐怖を駆り立てた。
「何だったんだ?今の。」
「随分、傷だらけの少年でしたね!」
「あ、あの・・・。」
ウイが重たい口を開いた。
「さっきの少年に殺意を向けられた。お手洗いに行くときに少し心の声が聞こえて動揺していた。それを見抜かれたみたい。」
「殺意?物騒だな。ただ焼き鳥食ってるだけだってのによ。」
「明確に何かされたわけでもないですし、ここは何とも言えないですね。」
「少し怖かった。」
「よしよし。大丈夫だよ、お姉ちゃん!」
「まあ、何かあっても嫌なので、今日はお二人の家までお送りしますよ!」
―――――
「馬鹿!なに一般人に話しかけてんだよ!」
「いやぁ、だってあの子、僕に対してすごい怯えていたから気になって。」
「だからと言って、いきなりあれはダメだろ!とにかく次のターゲットの情報が集まるまで大人しくしていてくれよ!」
「はいはい。わかったよ。もう!」
傷だらけの少年は、ゆるゆると手を振り、先に歩いていく。
目つきの悪い男は嘆息して、あとをついていく。
―――――
薄暗い倉庫の中、道化の待っているところに三人が集まった。
「どうだい?人のお金で食べる焼き鳥の味は?」
「それを言うなら焼肉だろ。」
「なるほど。君は人に奢られてばっかりいたようだね。人の好意に敬意を払えない、またはむしろこちら側がサービスを提供しているとすら思っている節があるね。君にはお金を払う価値すらないというのに。」
「ぐっ。そこまで言うかよ。」
「あぁ。言うさ。言うとも。君は一人でもBRAINを手にかけたかい?ドゥーユーアンダースタンド?」
「もういい。わかったよ。素直にうまい飯食わせてもらって礼を言うよ。」
「はっ!もちろん、お通夜のように黙食を貫いてきたんだろうね?」
「いや。それが最後にこのガキが少しやらかした。一般人に絡んじまって・・・。」
「ふーん。その子の手綱も手放したと。なんとも素晴らしい成果を残してきたようだね。」
「皮肉かよ。なんだ?今日はかなり突っかかてくるじゃねーかよ。」
「人のお金で食べた飯は美味かったかい?」
「まだいうのかよ!」
ケタケタと肩をすくめて笑う道化。茶化されていることに気づいた目つきの悪い男は道化を睨んだ。
「さて」と、座っていた木箱からぴょんと降りると道化は、二枚の写真を目つきの悪い男に投げた。
「これが次のBランクBRAINの姿だ。ようやくその姿を割り出すことができたよ。君たちが焼き鳥を食べている間にね!」
「はあ。もう。わかったよ。」
床に投げ捨てられた写真を手に取り、目つきの悪い男が驚愕した。
なぜなら、それはさっき傷だらけの少年が話しかけた双子の女の子だったからだ。
「目を見開いて、何をそんなに驚いているんだい?」
「いや。これってさっきの・・・。」
「ん?知り合いかな?」
「焼き鳥屋で顔を見た。」
というと、道化が目にもとまらぬ速さで、目つきの悪い男にナイフを突きつけ言った。
「もちろん。こちらの素性は知られていないだろうね?」
「あ、あぁ。たぶん、大丈夫だ。」
「たぶんとはどういうことかな?」
「いや、能力はわからんが、こちらの情報は何も流していない。普通に飯を食っただけだ。」
「そうかい。なら、君のことを信じよう。早急に取り掛かってくれ。この高校生の双子は、BランクBRAINだ。何の能力を持っているかまではわからない。だから、君が少年を制御できなかった付けが露呈するのもこの双子に会ったらわかることだ。ドゥーユーアンダースタンド?」
「あぁ。わかった。Bランクってこともある。慎重に行動する。」
「ところで、少年。君はこの双子に直接会ったようだね?どうだった?」
「え?んー。なんだろ。僕にはもう一人いた男の人の方がヤバそうに感じたけどね。」
「ほう。興味深い。ん?複数人いたのかい?」
「4人いたよ?双子の一人は僕に怯えていたようだったけど。」
「・・・。どういうことかな?君。」
道化はマスク越しからでもわかる殺意を目つきの悪い男に向けた。
「いや・・・。」
「道化さん。あの場では特に何もなかった。これは本当だ。確かに双子の一人は少年に怯えていた。しかし、それは、少年が顔を覗き込むようにしていきなり話しかけたからに過ぎない。」
と、屈強な男が話に割って入ってきた。
「はぁ~。やれやれだよ。君たちは、能力者と戦っているという自覚がないのかい?もし、相手の心を読める能力者だったらどうするつもりだったんだ?」
「・・・それは。」
「余計な情報を相手に渡すことになり、さらにはこちらの組織の内容まで晒すことになるんだ。馬鹿は馬鹿なりに考えておくれよ。ドゥーユーアンダースタンド?」
「すまなかった。」
「これじゃあ、当分外食は禁止かな。」
「え~!そんなぁ!」
「いやいや、君がことの発端なのだよ?ドゥーユーアンダースタンド?」
―――――
「さっきはありがとうよ。」
「礼には及ばない。」
「道化の話から少しわかったことがあったよ。心が読める能力ってのがあるかもしれないということとそれによって、組織の内容がばれるのを恐れているから俺らに何も教えてくれないんだ。」
「BRAINの能力は未知数だ。想像できる能力なら存在していてもおかしくない。」
「だが、あの時心を読まれていたら、あのガキは確実に殺意を持ってたろ?」
「あぁ。そうだな。」
「だけど、なにもしなかった。いや、できなかったのか?」
「心を読む能力ではないのかもしれないな。」
「そう考えるともっと攻撃的な能力になるな。しかもBランクってか。結構しんどいんじゃないか?」
「能力の分からない相手であり、さらには攻撃特化の能力だとしたら奇襲が前提となってくるな。」
「それは僕が得意なやつだ!」
「だけど相手は二人。二人同時はきついだろ。」
「うーん。一人なら確実。二人なら半減。ってところ?」
「もう一人は俺がやる。」
「できるのかよ。そのでかい図体して。」
「ヴァンタブラックのスーツで暗がりなら、ほぼ見えない。スピードはないかもしれないが、相手が対応できるとは思えない。」
「まぁ。今までもそうやって来たしな。奇襲の一撃必殺。もし失敗しても、立体感のないこのスーツを着てたらどこから攻撃が来るかわからない。BRAINを殺すために特化したチームだ。今回も能力を使わせる前に終わらせたいな。」
「奇襲のポイントとかそういうのはお兄さんが決めてよね!」
「周囲の調査なども頼んだ。」
「あぁ。わかった、任せてくれ。」
この三人にも何とも言えない協力関係が構築されていた。




