第21話
第21話 遭遇
ウイとユイは疲れ果てた顔をしていた。
書類の多さと慣れないデスクワークのせいで頭から煙を出し完全に昇天している。
そこに、同じくげっそりした白中がフラフラの状態でやってきて、倒れるようにボロボロのソファに倒れこんだ。
「し、死ぬ・・・。」
「白中さん、デスクワークと交換してください・・・。」
「黒木課長との訓練の方がまし・・・。」
「よ、喜んで・・・。あとは頼んだぞ。」
ソファでぐったりしている3人が寄り添うように倒れこんでいる。
そこに、黒木が現れた。
「今日はもう遅い。東雲姉妹は帰っていいぞ。」
「やったー・・・。」
「わーい・・・。」
元気のない二人の声が聞こえた。
「まぁ疲れているようだから、青木家まで送るついでに、これで夕ご飯でもおごってやれ。」
そういうと、黒木は財布からお金を取り出し青木に渡した。
「え?俺は?」
「白中も行きたいのか?」
「え?こんなにぼろぼろで頑張ったのに?」
「いつものことだろ?」
「・・・お願いします。」
「わかった。では4人で行ってこい。白中の睡魔は大丈夫か?」
「それは大丈夫です。体動かしたんで、目が覚めました。」
「じゃあ、何かあればすぐに迎えるようにしておくが、青木三人を頼んだぞ。」
「わかりました!」
―――――
四人は近くの商店街内にある、焼き鳥屋にいた。
「ここでいいのかよ?」
「いいんですよ!今日は飲みましょう!」
「俺は飲まないんだけどな。」
「え!?そうなんですか!眠くなっちゃうからですか?」
「あぁ。そんな感じ。」
「20歳未満お断りのお店なんじゃないですか?」
「うちら高校生。」
「大丈夫ですよ!店長と私仲良しなので。いつもみんなで来ていますし。ハジメちゃんも一緒に来たこともあるので、全然問題ないですよ。好きなもの頼みましょう!すいません!」
青木は快活な声で店員を呼んだ。
「じゃあ、一杯だけ飲むか。ビールで。」
「じゃあ私もビールで!」
「うちはコーラ!」
「私はオレンジジュース。」
店員は「とりあえず飲み物をお持ちしますね」というとその場を離れた。
そのとき、「次こっちお願いしまーす!」と若い男の声が聞こえた。
別の席に座っていたのは、傷だけの少年と、屈強な男、目つきの悪い三人が焼き鳥を食べていた。
この時は、誰もこの遭遇を想像していなかった。
―――――
「こういう店では、誰が聞いてるかわからねーから余計なこというなよ。」
目つきの悪い男は、口に人差し指を当てて言った。
「なにが?」
「だから、俺らの正体がばれるようなこと言うなよってことだよ。」
「それは確かに注意すべきだ。人の目も多い。」
「全員こっ!・・・。」
「馬鹿か!」
傷だらけの少年の口を塞ぐ、屈強な男。
腕のなかで傷だらけ少年は暴れている。やれやれといった感じで目つきの悪い男が首をゆるゆると横に振る。
「ぷは!じゃあ何をしに来たんだよ!」
「いや、飯を食いに来たんだよ。普通に。ここの焼き鳥うめぇんだよ。」
「懇親会をするような仲ではないと思うが?」
「ちげぇよ。俺がお前らのことを知りたいんだよ。」
「なんか気持ち悪いよ。」
「馬鹿!変な意味じゃねぇよ。何にも知らない方がやりにくいんだよ。」
「割り切った仲の方がやりやすいのではないか?」
「今更、何が聞きたいの?」
「いや・・・。何が二人をそうしちまったのか知りたくてよ。」
「僕は気が付いた時には独りぼっちだったよ?生きるために奪う術を身に着けたら、面白くなっちゃってさ!生きがいこそが生きる意味でしょ?」
「あぁ。そうか。生きがいか・・・。」
「俺は、道化さんに変えられたというのが正直なところだ。昔の話は、大したことはない。体を鍛えることで強さを誇示して、戦うことから逃げていたと思う。それに意味を持たせてくれたのが道化さんだ。あの人は尊敬するに値する人だ。」
「まじか。あんたが一番まともだと思ってたんだけどな。」
「まともとはなんだ?よく考えてほしい。同調が必ず正解だと思わないし、人生一度しかないわけだ。だから好きに生きていた方がいいだろ?その選択が重要なのじゃないのか?」
「・・・だから、BRAINを殺すのか?」
「おい!余計なこと言うなとか言っておいて自分が言ってるじゃん!」
「あぁ。わりい。でもよ。わからねえんだ。何のためにやってんのか。俺はこの仕事を生きがいだと思ってないし、やりたくもない。」
「やりたいことが必ずしも生きがいではないだろ。その逆もしかり、やりたくないことに適性がある場合がある。」
「前も言ったが俺は、弟がいる。そいつのために金が必要だ。そのためにならどんなこともやるつもりだが、正直迷ってる。」
「ふーん。その弟さんはどこにいるの?」
「すぐ近くの施設に預けてある。一緒には住めないからな。」
何かを悟った屈強な男は黙ったまま、飲み物を口にした。
「このままだと仕事に支障が出るのはわかってる。だから、お前たちのことを知って別の理由を見つけたい。」
「そんなの無理だよ。自分のことは自分でしか決められないんだよ?」
「少年の言う通りだと思う。」
「・・・。すまねぇ。」
「いや、お前はよくやっていると思う。実働部隊である我々の補佐、情報収集、あと処理。お前がいなければもっと早い段階で我々の素性は割れているだろう。」
「あの面倒くさいことしてくれているのは、助かってるんだと僕も思うよ!」
「あぁ。ありがとう。俺なりに努力してるつもりだけど、如何せんやってることが表に出せねー。」
「それはしょうがない。我々末端にも目的を教えてくれれば、もう少しやる気が出るかもしれないな。」
「そうだな。上が何を目的にしてるのかが全然わからねー。だから余計に迷っちまう。」
「僕にとっては何でもいいんだけどねー。」
「まあいいか。今日は飯を食いに来たんだ。とりあえず食おうぜ。」
「そうだな。まともな鶏肉は良質なたんぱく質だ。」
「急に筋肉の話だな。」
「おいしいよ?」
「おい!それ俺のつくねだろ!」
FQ3の下っ端である三人は、同じところに白中たちがいることなど知る由もない。
―――――
「お姉ちゃんは、格闘が苦手なんじゃないんですよ。単に動きたくないんですよ!」
「疲れるのは嫌い。でも能力使うのも疲れる。」
「お二人はだから連携しているんですね。とくにユイちゃんの戦闘センスはかなり秀でるものがありますね。でも、それをサポートしているウイちゃんの的確な指示があってのことなんでしょう。」
「俺も能力を使いこなしたいとは思ってるけど、寝てるからな。」
「寝てるときは意識がないという認識でいいんですよね?」
「う~ん。夢を見るときはあるけどな。」
「私が白中さんの意識の中に閉じ込められたときは真っ黒な世界でした。」
「あぁっと。なんだろう。夢だから覚えてないし、あんまり意識したことないんだよな。黒木課長にはそこら辺ちゃんと意識しろって言われたんだけど。よくわかんないんだよ。」
「そうですよね。白中さんの能力は、使い勝手が悪い能力ですから!」
「そんなにはっきり言うなよ!」
「でも、身体強化とあの気持ち悪い動きからの攻撃はかなり強力でしたよ!」
「褒めてんのか、それ!」
「あはは!褒めてますよ!」
「ちょっと私お手洗いに行ってくる。」
談笑の途中でウイは席を外した。
そして、目つきの悪い男たちの席の横を通り過ぎた時だった。
『ん?』
ウイは、その三人の心の中を意図せず感じ取ってしまった。
その心の中は、荒んでおり、常人とは違う思考で埋め尽くされていた。
それを形容できる言葉を持ち合わせていなかったウイは、とにかくその場を離れお手洗いに向かった。
とくに気になったのが傷だらけの少年だ。見るからに異質。心中は平穏と殺意が混合したよくわからないものだった。
ウイの考えがまとまらない。あきらかに危ない人たちである。しかし、心の中で思っていることだけで、何か行動に出たわけでもない。気になりはしたが、ウイは席に戻った。




