第16話
第16話 姉妹と特殊能力者調査部隊
東雲ウイと東雲ユイは双子の姉妹だ。
一卵性双生児であり、全く見分けがつかない。唯一挙げるとしたら、目元のほくろの位置が左右違うところくらいしかない。身長も体つきも瓜二つ。髪の毛も少し茶色がかって、長さも同じだ。
わざとそうしているのかというくらい判別の付かない二人は、BRAINである。
幼いころ両親を亡くし、今は高校生二人で祖母の家にいる。
今日も二人で学校へ向かっているところだった。
「・・・ん。」
ウイが小さくユイに言った。
ユイはカバンから櫛を取り出し、ウイに渡した。
『なんでいつも私の借りるの!自分で持ってくればいいのに!』
『カバンが重くなる。』
『櫛ごときで重くなるわけないじゃん!』
端からみるとほとんど会話の無い二人だが、意思疎通が取れている。
これは二人が同じ能力を持つBRAINだからだ。それは、「精神感応」である。
『櫛貸したんだから今日のテストの答え教えてよ!』
『そういうのは自分でやること。』
『なんでよ!櫛貸したじゃん!』
『それとこれは別。勝手に心読んだら殺す。』
『別にお姉ちゃん頼まなくてもいいもん!』
『ちゃんと勉強していれば問題ない。』
『ぐぬぬ。いいよね!お姉ちゃんは勉強できてさ!』
『ユイだって勉強すればできる。いつもずるしているからそうなる。』
『この能力は私たちの特権なのです!』
『自慢する事じゃない。』
『特殊能力者調査部隊に入るためには、何としても勉強ができないと!』
『確かに公務員はいい。黒木さんや青木さんにいつも面倒をかけている。』
『今のうちから修行してもらってるだけ!』
『実力を付けないと特殊能力者調査部隊には入れない。』
『Bランクじゃ意味ないってこと?』
『うちらが二人ならAランクはある。だけど一人の場合は、能力が下がる。それをどうにかしないと。』
『四六時中一緒に居れないから?』
『特殊能力者調査部隊に入ったら、常に一緒というわけにはいかない。と黒木さんも言っていた。』
『心を読むくらいは出来るから役に立つと思うけどね!』
『戦闘訓練に関しては、ユイの方が強い。そういうのは私がやる。』
ウイとユイは、能力的に数少ないBRAINを見分ける能力があるとされている。
それは、念話での意思疎通だけではなく、相手の心を読み、深層心理内にある相手の情報まで読み取ることが出来るからである。
この能力に目を付けた黒木は、高校生の二人を保護している。
―――――
期末テストの最終日が終わった。
二人は学校を出て、帰路についていた。
『ぬあー!やったー!』
『いちいち感嘆詞をテレパシーで送ってこないで。』
『お姉ちゃんは嬉しくないの!?』
『いつも通り。テストはテスト。』
『もう最後のテストが終わったことに喜びを感じられずにはいられない!早く黒木さんに報告しなきゃ!』
『なんで?卒業してもないのに。』
『いや、戦闘訓練を本格的にしてくれるって言ってたから!』
『私は、ほどほどでいいや。変なところに筋肉付けたくない。』
『そんなこと言ってたら特殊能力者調査部隊に入れないよ?』
『私は入れる。勉強したから。』
『なにそれ!現場重視でしょ!?戦いなんだから!』
『それはユイがやればいい。私は後ろから応援する。』
『後ろから応援って。お姉ちゃんだって現場で制圧とかするんだよ?』
『少しはやれるようにするけど、私はオペレーションのポジションがいい。』
『緑川さんも大変そうだよ。いつも目がバキバキだもん。』
『あれは完全にストレス。』
『お姉ちゃんはあぁ成りたいんだね。』
『あぁはなりたくはない。黒木さんみたいなポジションを言っている。』
『現場監督的な?』
『そう。黒木さんは憧れ。』
『うちだってそうだよ!じゃあ、次の休み一緒に黒木さんに会いに行こ!』
『うん。連絡しておく。』
―――――
黒木と白中は、特殊能力者調査部隊の訓練場で戦闘訓練を行っていた。
白中は素人当然であり、ひたすら黒木の攻撃を受けている。受け流すことも避けることも出来ずにひたすらサンドバッグ状態であり、ひどい有様だ。
そんなことお構いなく、黒木は攻撃を続ける。左のジャブが鋭く顔面を捕えようとするが、白中は何とか体勢を変え避ける。しかし、袖を左手で掴まれ強引に引っ張られる。
そして、体制を崩したところに渾身の右ストレートが顎にヒットする。ぐにゃりと世界が回転し、白中は、倒れた。
「案外、上半身が柔らかいな。」
「めちゃくちゃだ・・・。」
「いい加減避けないと病院送りになるぞ。」
「もう自発的に病院行っていいっすか。少しは手加減してくれないと・・・。」
「かなり体力は削れたか。さて、どこまで通用するかやってみるか。」
「な、なにするつもりっすか。」
黒木は意味深なことをいうと、自分の能力を発動させた。
「オーダー1。眠れ。オーダー2。私と模擬戦闘訓練をしろ。」
そういうと、白中はガクッと眠りにつき、白い靄を出しながら、戦闘態勢に入った。
白中の高速移動に対して、ぎりぎりの反射神経のみで辛うじて対応する黒木。白中の攻撃の一つ一つが今までよりもはるかに重い。道場の床がきしむ音がする。通常であれば破壊されてしまうが、オーダーの効果で白中の出力は大幅に削減されている。模擬戦闘といるが、まともに攻撃が直撃すれば、大怪我に繋がる。白中の攻撃は人間が行うような武術ではなく、全て感覚的な動きであり、ありえない体勢から攻撃を仕掛けてくる。
黒木は、それを円を描くように受け流しているが、攻撃に転じることが出来ない。
白中は、脱力している状態からの踏み込みで一気に黒木との距離を詰める。パンっと弾ける乾いた音が道場に響く。打撃を黒木は掌底で弾いているのだ。なぜ掌底かというと、白中の能力の発動中は、防御力の面も大幅に向上している。下手に拳を固め攻撃すれば自分の拳が砕けるからだ。
合気道の要領で白中の力を利用し、白中を転ばせたり、投げ飛ばしたりしている。しかし、その度、ありえない体勢から突撃してくる白中。体が投げ飛ばされる直前にどこから攻撃しているのかわからない不可視の攻撃が黒木を翻弄する。
互角とは言えない。黒木の方が押されている。しかし、この無謀な訓練を止めようとしない。
汗や血が滴ってくる。猛攻の嵐が続き、一時間ほどが経過した時だった。
黒木は、白中の一瞬の隙を突き、思い切り道場の床に叩きつけた。
白中は、「かはっ!」っと小さく息を漏らし、動かなくなった。というより、眠りから覚めたのだ。
黒木は、汗でびしょ濡れ状態であり、肩で息をしている。ところどころ服も擦り切れている。
白中は、目をぱちくりさせ、何が起きたのか把握しようとしている。
「はぁはぁ。今日はここまでだ。」
「黒木課長、大丈夫っすか?」
「あぁ。なんとか、制約を設けることで何とか一人で、お前を目覚めさせることが出来るようだ。」
「そんなボロボロで・・・。」
「なに。戦闘訓練で強くなれるなら越したことはない。使い道があるか分からないが、オーダーを使わずして、お前を起こせるなら選択肢も広がる。」
「とは言っても、毎回これじゃ、黒木課長が持たないっすよ。」
「現場に出ているのは、お前たちだけではない。特に青木を守れるのは私だけだ。正直、能力発動中じゃない白中は充てにならない。青木に現場の状況をいち早く理解させて、白中の能力を発動させる必要があるかを瞬時に見極めなければならない。青木の秀でた観察眼によって、我々の行動が決まる。」
「サキちゃんが第一優先ということっすか。」
「そういうことだ。青木は特殊能力者調査部隊の要だ。命に代えても守らねばならない。」
「・・・わかりました。でも、このままじゃ自信ないっす。」
「一人でやるわけじゃない。戦闘面は主に白中に任せるが、それ以外のことはサポートするつもりだ。」
「そうっすか。なら任せます。」
「あぁ。しかし、今日はもう訓練のためにオーダーを2つまで使ってしまった。何もないことを祈るしかないな。」
「さっき寝ちゃったんで、今日はもう自力では寝れないっすね。」
「とにかく訓練は今日は終わろう。みんなのところに戻って、事件の情報収集に時間を割こう。」
「わかりました。」
―――――
訓練場から職場に戻った二人は、困ったような顔をした青木が目についた。
「サキちゃんどうした?」
「え!?あぁ。ちょっと連絡が取れないBRAINの方がいまして。」
「どれくらい取れていない?」
「最後に話したのは、1ヵ月ほど前ですね。一応、Eランクなので、定期的に様子をみるために電話で近況を聞いていたりしていたんですが、日中だからですかね。電話が通じなくて。」
「まあ、日中に連絡つく方が珍しいんじゃね?」
「そうですよね、皆さん暇じゃないでしょうし。」
「一応、ハジメに居所を確認させておいた方がいいかもしれないな。」
「わかりました。GPSの追跡だけハジメ君にお願いしておきます。あと、さっき電話がありまして、次の土曜日にウイちゃんとユイちゃんがこちらに来るそうです。」
「そうか。白中、ちょうどいい。二人と手合わせしてみろ。」
「は?誰っすか?」
「BランクのBRAINの高校生の姉妹だ。」
「高校生がなんでここに?」
「私がスカウトしようとしているからだ。」
「へ~。もちろん、俺は能力使っちゃダメなんっすよね?」
「当たり前だ。」
「二人相手にするのは、なんかきつくないっすか?」
「白中の戦闘力ならぎりぎり負けるくらいだろうな。」
「なんすかそれ。やっても意味ないじゃないですか。」
「これはウイとユイのためだ。白中のためではない。」
「俺より期待されてる気がするんすけど。」
「ウイちゃんとユイちゃんは共にBランクのBRAINなんですけど、白中さんみたいにBRAINを発見できる可能性のある能力なんですよ。だから、どうしても特殊能力者調査部隊に就職してもらいたいんです。高校生なので一応勉学に励んでもらってますけど、白中さんと同じで適正次第ではすぐにでもチームに加わってもらいたいんです。」
「なるほど、高校生なのに大変だな。」
「すっごい他人事ですね。これから一緒に働くかもしれないんですよ?」
「いや、これから俺はその二人にボコられるんだろ?全く気乗りしないわ。」
「ボコられるかどうかは、白中次第だ。」
「せめて能力を教えてくださいよ。」
「どうしますか?黒木課長。」
「いいだろう。」
「ウイちゃんとユイちゃんの能力は簡単に言うと「精神感応」です。」
「言葉を発さなくても意思疎通が取れるってことか。」
「テレパシーと言っているが、姉妹は近い所に居れば相手の心も読むことが出来る。だからこそBRAINを見つけたりすることに役立てることが出来るかもしれないと私は思う。」
「意思疎通と読心術っすか。付け入る隙があるとしたら体術くらいっすかね。」
「そうだが、攻撃を読むことが出来る相手とどうやって戦う。」
「うーん。・・・無理っすね。」
「諦めるのが早いですよ!」
「いや、せめて一人ずつ相手にしてもらわないと勝てないでしょ。」
「これは白中のレベルアップも兼ねていると思え。能力なしでBRAINと戦う時もあるだろう。」
「いやいや。タイマンなら体格差があるんでなんとかなるかもしれないですけど、二人相手は女の子だとしても囲まれたら終わりっすよ。」
「それは、日頃の鍛錬の成果を見せるところだろ。」
「いやいや、黒木課長に一方的にボコられているだけっすけどね。はぁ~。」
白中は内心、絶望していた。
黒木に負けるのはいい。武術の達人レベルの黒木は、相当の腕前だ。だが、たかが女子高生二人にボコボコにされては、男のプライドというものが傷つく。
とは言っても、相手はBRAINであるし、能力的にも優位な能力だ。勝てる気がしない。
絶望的な訓練になると思い、白中の猫背の背中がさらに項垂れた。




