第15話
第15話 BRAIN狩り
街灯の明かりの下では、ヴァンタブラックは逆に目立ってしまう。だから、レインコートのような強烈な撥水加工のされた外套を羽織り、身を隠している。
返り血を浴びても、撥水効果のおかげで、血が付着しない作りだ。
BRAINのリストを持っているのは、目つき悪い三白眼の男だった。
「Eランク・・・。」
「何心配してんの?僕だったらびゅっと行って、ザク!で終わりだよ?」
「一応どこでやるか、考えてんだよ。死体の処理とか教わってねーし、やったらやりっぱなしだろうがよ!」
「多少運ぶくらいはやるぞ?」
「あんたなら担いで、動かすことはできるか。」
「あ~!ノンノン!血が出てるから動かしたら、動かしたってすぐばれちゃうよ!」
「・・・。わかった。カモフラージュに使えるもの買ってくる。」
というと、目つき悪い男は、一人で買い物に出かけた。
―――――
「少年。基本的には、俺は正面からの戦いになった時以外は手を出さないがいいか?」
「もちろん!何にもしなくてもいいよ?」
「それはできない。腐れ縁だとしても仲間は仲間だ。不意打ちで確実に殺せない場合やBRAINの脅威度が高い場合は、俺ももちろん参戦する。」
「まぁ。なんでもいいけど。邪魔だけはしないでね。」
「言ってくれる。真正面からなら少年と互角までやり合えるほど道化さんに叩き込まれたんだ。甘く見るな。」
「でもさ、EランクとかのBRAINならただの人間と同じでしょ。真正面から戦うことなんてないよ。」
「リストの中には、Bランク相当もいたぞ。見てないのか?」
「見てなーい。」
「BRAINを甘く見るなよ。あいつらは人じゃないんだ。どんな能力があるかも具体的には分かっていないことの方が多い。」
「SNSで能力を見せびらかしているやつとか、勝手に拡散されているやつとかを狙うんでしょ?簡単じゃん。もう能力分かってるんだから。どうせ大したことないBRAINばっかりでしょ?」
「おい、何言い争ってんだ。これからBRAINをやりに行くっていうときに。」
目つき悪い男が、買い物から帰ってきた。
その手には、業務用の大きなゴミ箱が握られていた。
「これくらい大きければ、死体も入るだろ。」
「意外にえげつないこと考えるね。ゴミ箱にポイなんてさ。」
「いや、隠すと言ったらこれくらいしか思いつかなかったんだよ。」
「体格にもよるだろうが、この大きさなら詰め込めば入るだろうな。しかもわざわざ悪臭のするゴミ箱を開けたりするやつもいないだろ。」
「待ち伏せからのドスっ!で、ゴミ箱にポーイ!で終わりだね。」
「簡単に言うなよ。ぶっつけ本番なんだから相手がどう動くかなんてわかんねーだろ。」
「言うとおりだ。どんなに武装を固めたとしても相手は異能者だ。なにが起こるか分からない。」
「なんだよ。ビビってんの?いいから黙ってみてればいいよ!」
「おい!勝手に行くなよ!」
傷だらけの少年は、繁華街の路地のなかに消えてしまった。
あと急いでついていく二人。
しかし、そこにはすでに血だまりが出来ており、髪を引っ張り上げ、首を一撃で割いたあとの少年がいた。
「お、おい!何やってんだよ!」
「何って?人殺し。」
「ふざけんじゃねーよ!相手はBRAINだろ!」
「僕にとっては殺した相手がBRAINなんだよ。」
「は?」
「少年に話しても意味はない。彼はただの殺戮者だ。」
「いやいや、ちゃんと見てよ。この人でしょ?リストに載ってるよね?」
「・・・確かに。」
「あんな一瞬で・・・。」
「ちゃんと周りを見てなきゃだめだよ!ターゲットがいつ来るのかわからないんだから!ほら!ゴミ箱用意して!」
「・・・あぁ。」
一瞬の出来事で整理がつかない目つき悪い男と屈強な男。
しかし、確かに目の前にリストに載っているBRAINの亡骸があった。
少年は、一瞬でターゲットを見つける洞察力を有し、さらには、一瞬で暗殺する力があった。
返り血もほとんど浴びず、一撃で喉を深く切り裂いた為、声も出せなかったであろう。
そんなことを思いながら目つき悪い男は、大きなゴミ箱に死体を入れた。そのゴミ箱を繁華街の路地裏に放置し、すぐさま場所を移動した。
―――――
「いくら何でも、勝手が過ぎるだろ!」
「そもそも協力してやることなの?」
「これからだろ!死体が見つかれば、警察とかがパトロールしてやりにくくなる。」
「ふーん。正直さ。お兄さん必要かな?」
「おい!何言ってんだ!こっちだってな、なんかあれば命がけでお前らを逃がすつもりなんだよ!」
目つき悪い男は、勢いに任せて傷だらけの少年の胸倉を掴んだ。
傷だらけの少年は脱力しきって相手にもしていない。
それが余計に腹が立つ。殺戮者相手に真面目にやり合っていること自体が間違っているのだとも思うだろうが、いつの間にか仲間意識を持っていることに目つき悪い男は、気づいていなかった。
―――――
日中は、黒い装備は逆に目立ってしまうため、道化のいる倉庫で、BRAINの情報収集をしていた。
道化と屈強な男は、ひたすら戦闘訓練にあけ暮れていた。
目つき悪い男は、自分の役割を考え出し、なんとかサポートが出来ないかと考えるようになっていた。
だからこそ、次のターゲットにするBRAINをリストから選び、どこで待ち伏せるかなど戦略を立てていた。
それを戦いながら横目に見る道化。
目つき悪い男は、用無しの人間だった。しかし、今は何としてでも自分の存在意義を証明しようと頭を捻っている。傷だらけの少年は確かに、BRAINを葬ることが出来るだろうが、衝動的な犯行では、数が稼げない。道化は自分が手を汚さずに計画を考える頭脳が欲しかった。それが目つき悪い男だった。
使い捨ての駒たちが勝手に目的を果たしてくれる。そう誘導したつもりはないが、勝手に動いてくれている。
ゴミ箱に亡骸を入れるというのは、浅はかな考えだが、繁華街では絶大な効果を発揮した。
夜の街の腐敗臭は、どこから流れ出ているのか特定するには時間がかかり、そのころには、ねずみやカラスといった雑食の小動物に食い荒らされ、死体が原型を留めないほど損壊していた。
連日、殺人を繰り返すのではなく、誰が消えたのかもわからない程度に時間を空けて、実行することも目つきの悪い男が考えたことだ。
傷だらけの少年からは、文句を言われたが、道化が口添えしてくれた。
訓練を終えた道化が目つきの悪い男に近づいて話しかけた。
「なかなかいい仕事をするみたいじゃないか。」
「糞ほどいやな仕事だよ。」
「君が考えついた方法だろ?自信を持ちなよ。」
「こんなことで自信を持つなんてしたくねーよ。」
「そうかい。そうかい。でも、一つ忠告しておくよ。あんまりランクの低いBRAINばかり狙うのはやめた方がいい。」
「なんでだよ。」
「能力の低いBRAINは、特殊能力者調査部隊のデータベースに登録されて、保護されていることが多い。急に保護対象者がいなくなったら不思議に思うだろ?」
「そういうのは早く教えてくれよ。」
「だからといって、能力の高いBRAINを相手にするのは、君たちの命に係わる。さあ、どうする?」
「だから、このリストをよく読んでんだろうが。ばっちり能力が書いてあるわけじゃねー。推測して大丈夫そうなやつから狙ってる。特に家族構成とかは超重要だ。いなくなってもすぐには分からねーからな。」
「うんうん。まさにそっちの道の人間になってきたじゃないか!」
「命かかってるならそれくらいやるだろ。」
「そうかな?君と同じような人間は変わる前に死ぬことが多いんだけどね。この短期間でよくここまで考えるようになったと素直に褒めるよ。」
「全然嬉しくねー。」
「では、引き続きよろしく頼むよ。」
「はぁ~。」
目つきの悪い男は深いため息をついた。
そんな心労を知らない傷だらけの少年が目つきの悪い男に話しかけてきた。
「ねぇ!次はだれが標的か教えてよ!」
「あぁ。次は大物に手を出すつもりだ。家族構成は姉妹の二人だけ。能力は大したことないと思うがわからねー。」
「なんで大物なの?」
「知らねーけどBランクって書いてある。能力の報告書みても戦い向きではなさそうな気がする。」
「ターゲットが二人という事は、いよいよ俺も出番というわけか。」
筋肉だるま君と呼ばれている屈強な男が、話に入ってきた。
「だけどBランクだ。今までのやつとは絶対に違う。まずは、俺が囮となって、話しかける。その隙を見てやってくれ。」
「回りくどいね。いつものように不意打ちでドスッで終わりじゃないの?」
「失敗したら最悪逃げられる。逃げられたらうちらの存在がバレる。今まで静かにしてたのが全部水の泡だろ。」
「逃がさないけどなー。」
「俺の顔は割れてもいい。だけど実行犯のお前たちは、絶対に人数も存在もバレちゃだめだ。」
「とにかく、今回は今まで通りじゃだめだ。時間帯も考えなきゃいけねー。相手は学生だ。連れ出すには理由がいる。それは俺に任せてくれ。」
目つきの悪い男は、いつの間にかBRAIN殺しの計画を立てる役割を担っていた。
もうすでに少年は幾人か殺しているが、今回の相手は今まで通りになるか不安だった。
暗い倉庫の中、FQ3としての本格的な戦いが始まろうとしていた。




