第12話
第12話 波立つ事件
「あ~ぁ。捕まっちゃった。リスク大にして能力を上げたのにまだ死んでないのか。つまんないな。余計なこと言われたくないんだよね。」
フードを被った小柄な少年が望遠鏡を覗きながら一人で呟いている。
「げっ!何あいつ。気持ち悪いな。こっちに気付いてる。服もボロボロだし、誰だよ。」
それは、別のビルにいたフードを被った少年の方を向いている白中だった。
白中は、フードを被った少年の位置を特定している様子で、その気持ち悪さをフードを被った少年は感じとっていた。
「まぁ、いっか。何もしてこないし、これだけ暴れてくれたら、FQ3が黙っていないでしょ。僕とお兄ちゃんの目的はFQ3が隠しているBRAINなんだから。」
―――――
「白中?大丈夫か?」
「白中さん。暴れたりしないでくださいね!」
黒木と青木は恐る恐る白中の顔を覗き込む。
顔面蒼白に真っ黒なクマがさらに濃くなっており、フェイスペインティングでもしているのかと見まがうほどの模様を生み出していた。
「目はつぶっているように見えますね。」
「あぁ。しかし、嗅覚や聴覚、触覚で辺りを感知しているだろうな。」
「万能ですね。」
「白中の能力は、この破壊力と汎用性の高い能力にある。」
「でも、手荒い方法でしか起こせないってことですね。」
「そうだな。」
というと、白中専用のテーザーガンを取り出した黒木は、白中の背中に打ち込んだ。
ビリビリと電撃は迸り、白中の体は硬直して、そのまま倒れた。
「んあ!?」
失っていた意識を取り戻した白中が、体を起こそうとしたところに青木の手が差し伸べられた。
「白中さん、お疲れでした。」
「あぁ・・・。なんとかなったみたいね。」
「かなり厳しい状態だったぞ。報告はあとで青木から聞くと言い。とにかくよくやった。」
「覚えてないんっすけどね。」
頭を掻きながら、青木の手を取り立ち上がる白中。
「服がボロボロなのに、傷が治ってますね。これも白中さんの能力なんですか?」
「うーん。よくわかんない。」
「風でよく見えなかったが、多少の傷なら回復するようだな。」
「睡眠時の自己修復機能の延長なんでしょうね。すごいです!」
「まあ、みんなに危害を加えてなくてよかったよ。」
「そうですね。途中からなんか白中さん、ボーっとしてましたし。」
「何かに気を取られていた感じはしたな。」
「はて、なんのことやら。」
「とにかく、今回の凶悪犯の取り調べに行きましょ!」
「死んでいないといいんだがな。」
「え?殺しちゃうほどやらかしましたか!?」
「詳しいことは移動しながら話す。行くぞ。」
―――――
異能力者東京収容所の病棟に驚きの声が木霊した。
「はぁ?覚えてない!?」
「まさかそんな大ボケかましてくるとは・・・。」
「あり得ません!こんな大量殺人を犯して罪の意識が一切ないし、挙句の果てには覚えていない!?冗談じゃないですよ!」
青木と白中は、異能力者東京収容所の病室で一命を取り留めた微風タイキから事情を聴いていた。
「ですから、本当に覚えていないんですよ。そもそも僕の能力は、微風を吹かせるくらいしか出来ないんですから。」
「それはあなたの能力のさじ加減でしょ!」
「いやいや!本当なんですよ!」
「現場では、人を吹き飛ばせるほどの風圧を出していましたよ!」
「だから、本当に覚えていなくて・・・。」
「まじかよ。そうなると俺みたいな、無意識化で発動する能力か?」
「それも違います!白中さんと戦っている時には、完全に意識がありました。声を荒げてましたし、文句も言っていました。」
「無意識だったとしても、あなたは自分の能力が微風程度しか出せないと証明する方法がありますか?」
「・・・それは。能力のさじ加減と言われてしまえば、完璧に証明することは出来ないです。」
「そりゃあそうだわな。一回暴風を見せちゃってんだから。」
「それだけじゃありません。まだ、わからない能力もあります。人を閉じ込めて押しつぶした能力です!」
「は、はぁ!?人を押しつぶす!?な、なんですか!?それは!?」
「聴いてるのはこっちなんだけどな。見えない何かで閉じ込めて人を潰したんだよ、あんたは。」
「いや、そんなこと僕の能力では出来ないです。」
「嚙み合いませんね!事実、あなたの能力で大勢の人が亡くなったんです!」
すると、その病室に黒木が入ってきた。
「青木、そのくらいにしておけ。憤るのも理解できるが、事件の裏側まで見通すことも必要だぞ。」
「黒木課長・・・。」
「事件の裏側?なんですか、それ。」
「微風タイキ。データベース上では、微風程度の風を操ることができると登録されている。青木ならわかっているはずだぞ?これは紛れもなく真実だ。冷静になって考えろ。だが、我々がみた能力も真実だ。ここで、何かおかしいことが生じている。」
「すみません。名前を聞いた段階で能力の範囲について考えが至るべきでした。」
しゅんと肩を落とす青木。
「まぁまぁ。あんな惨状を見たら誰でも冷静になんてなれないっすよ。」
「・・・惨状?」
微風タイキが不思議そうな顔をしている。
「さっきも言ったけど、あんたの力で大勢の人が押しつぶされて肉の塊になっちまったんだよ。」
「肉の塊って。」
「現実ではない顔しているな。」
「いや、だってそうでしょ。そんな簡単に人がぺしゃんこになるところなんて想像できるわけない。」
「わかった。ハジメ、一部始終をこちらに加工無しで送れるか?」
「はい。でも加工しなくていいんですか?」
「あぁ。本人の反応も見てみたい。」
「わかりました。」
微風タイキは、手渡されたタブレットに映し出された凄惨な映像を見て、堪えられず嘔吐した。
「はぁはぁ・・・。こんなことが・・・。」
「なんか、まじで知らない感じっすね。」
「あぁ。」
あまり何も言おうとしない黒木。
青木は、微風タイキが嘘をついているかどうかを見極めているようすだったが、凄惨な現場を見て自分と同じ反応をしているところから、本当に何も知らないのではないかと思っていた。
しかし、だとしても異常な能力の覚醒がどこから来たものなのかを判断するには情報が足りな過ぎた。
「微風タイキさん。あなたが仮に記憶がないとして、最後の記憶は何が残っていますか?」
「え、えーっと。とにかく受験に失敗して落ち込んでいました。確かにこんな世界無くなってしまえとも思ってました。でも、そんなことみんな思うときありますよね?」
「まぁね。そりゃあな。」
「で・・・。そのあと一人で途方に暮れていた時に誰かに声を掛けられたんです。でも、そのあとのことは、すみません。思い出せないです。」
「ふむ。真実であれば、その声をかけた人物がカギを握っていることになるな。」
「でも、手掛かり少なすぎっすよ。」
「そうだな。青木なにか思う事はないか?」
「仮にもし、人の能力を覚醒できる能力者がいたとしたら、その人こそ純粋悪な気がします。」
「確かに。能力を覚醒できるだけじゃなくて記憶も飛ばせるんだろ?悪用するならかなりやばい奴だろ。」
「確信になるわけではないが、異常な能力の覚醒には条件があるようだぞ。」
「というと?」
「救急隊とここの病院のドクターに聞いたんだが、呼吸困難の原因は、不明だということだ。もしかすると能力覚醒の代償として危機迫る状態に陥ることが条件かもしれない。」
「その推理が正しいなら、口封じにもなりえますね。」
「まぁ。本当の犯人を特定することはできないがな。」
「それで僕はどうなるんですか・・・。」
心配そうな声で微風タイキが聞いてきた。
「厳しいことをいうようだが、例え誰かに操られていたとしても実行犯は、君だ。歴史に名が残るほどの殺人を犯したことは消えない。」
「・・・そうですよね。」
「もし誰かに操られていることが証明されたら、人並みとはいかないまでも減刑はされるだろう。ここは刑務所ではない。しかし、際限なく自由があるわけでもない。とにかく、調査に協力してくれ。思い出したことがあれば、すぐに教えて欲しい。」
「・・・わかりました。」
―――――
釈然としない事件だったが、とにかくとてつもない人間が残酷に殺された。
3人は、病室を後にして、話していた。
「正直、第三者がいたのは、間違いないと思います。」
「冷静さを取り戻したか。青木。」
「すみません。もう大丈夫です。」
「それで、サキちゃん、第三者がいる根拠は何?」
「データベースに登録されている能力の信ぴょう性です。これは、間違いありません。登録されているBRAINの能力の範囲に間違いはないんです。」
「なんでそんなことが言えるの?だって、能力なんて本人でもわからないことがあるでしょ。」
「はい。だから分かっている能力は、登録されているんです。本人もわからない能力をあんなに繊細に使いこなせるようになるためには、相当の練習量が必要です。さらには、風を操る能力であれば、その練習中にどこかしらで、監視されて登録が更新されるはずです。脅威度も上がり、何もしていなくても保護対象になることもあります。」
「BRAINの能力が登録されていること自体がそいつの能力の担保ってわけか。」
「そういうことです。」
「じゃあ、相手の能力を覚醒させる能力者って登録されてるの?」
「いません。」
「え?」
「未登録の能力者ということです。」
「となると、目視で探し出すのは困難だ。とくに精神を操作できるようなおまけ付きだ。探し当てるにはかなりの事件を解決してから、後手に回ることになるだろう。」
「同じような事件が起きたらまた大勢の人が亡くなるんじゃないっすか?」
「・・・そうだ。だからこそ、ここは道の能力者の手がかりをつかむことに尽力を注ごう。」
「微風タイキさんの足取りを一からさらっていけば、そのBRAINとの接触に行きつくと思います!」
「大変な仕事だな。」
「何を言っているんですか!ここはハジメ君にお願いしましょう!」
「結局丸投げかよ。」
「我々も他の事件での関連性に注意しながら仕事にあたろう。」
「はい。」
―――――
薄暗い部屋の中で、装飾品の光が輝いている。
黒いスーツを身にまとった、ふくよかな男はソファに座り、ふんぞり返っている。
もう一人の男は、長身の細身で同じくスーツを着ている。
「どうしますか?」
「無名。こりゃあ、宣戦布告だろ。弱者を一方的にいたぶってるんだ。こちらもわかっているBRAINをかたっぱしからやっていくぞ。」
「かしこまりました。」
「とにかくだ。幹部以外は使い捨てでいい。ピンポイントで人数を割け。そして確実に殺せ。」
「武器はどうしますか?」
「コンバットナイフの使い方と度胸だけ教えれば十分だ。銃は幹部だけに持たせろ。程度の低いBRAINはすぐに死ぬ。それで十分だ。脅威度の高いBRAINはふるいにかけられた後、銃火器などを使う。」
「かしこまりました。」
「なんとしてもうちにいるBRAINは渡すな。守るためにもこちらも反撃しなければならない。」
「主犯は判明しています。Aランクの兄弟の弟が今回の主犯です。」
「未登録のBRAINの居場所なんて、表じゃないのは分かっている。裏稼業の情報網であればすぐにわかるだろう。」
「はい。しかし、兄はあの「念動力」です。兄弟とも居場所は不明です。」
「あれはやり手だな。とにかく、あいつらに力を付けさせるな。」
「かしこまりました。」
「必要があればこちらもBRAINを投入するが、今はいい。兄弟が出てくるなら逐一連絡しろ。」
「はい。かしこまりました。」
薄暗い部屋の中でFQ3が始動し始めた。




